夜空に咲く花
いつものように残業を終えた陸奥は、一人、自室へと向かっていた。
通路を歩きながら、いつもなら騒がしいくらい賑やかな船内が、何故だか妙に静まり返っていることに違和感を感じつつも、部屋の戸を開けた。
灯りをつけ、一息つこうと思った時、ふと見慣れぬものが部屋にあることに気がついた。
それは、一枚のメモと浴衣一式。
『コレを着て、ハッチに来るぜよ』
地球にいた頃は、よく着物や浴衣を着せられていたものだが、ここ数年はめっきり着ることもなくなってしまった。
「まだ、一人で着れるじゃろうか?」
何故、こんなものが置いてあるのか。
何故、それを着なければならないのか。
何故、そこに行かなければならないのか。
普通なら、それを一番最初に思うはずなのに。
何故か、今はそんなことを考えてしまった。
その浴衣は、市販のものより手触りがよく丈もピッタリで、わざわざこの日のために誂えたものだと言うことは容易に知れた。
白い肌にもよく馴染む、控えめな紫。
散りばめられた杜若の花は、派手すぎず・・・かと言って地味すぎず。
袖を通した陸奥を、あっという間に“可憐な女子”に変えた。
帯を締め終わり鏡の前に立つと、久々に映るその姿に少しばかり気恥ずかしさを感じる。
髪を梳き、薄く引いた紅を嘲けながらも、少し足早にハッチへと向かった。
ハッチの扉を開け中を見渡してみたが、人がいるどころか灯りさえついていない。
手探りで暗闇を進んでいると、不意に背後から気配を感じた。
そして、慌てて振り返ろうとした途端・・・目隠しをされ、抱え上げられてしまった。
「何しゆうがか!放すぜよ!」
抵抗はするものの、しっかりと閉めた帯が邪魔をして動くことが出来ない。
相手は、陸奥の言葉に答えることもなく、小型の船に乗り込み陸奥を座らせた。
それから自分も、操縦席へと腰を下ろし船を動かし始めた。
ハッチが開く音がして、船でどこかへ向かっていると言うことは陸奥にもわかる。
こげなことするんは、どうせ―――
手足は自由なのだから目隠しを取ることも出来るのだが、それを敢えてせず。
大人しく座っている姿に、操縦席の男は顔を緩ませた。
どのくらいの時間が経ったのか。
疲れからうたた寝をしてしまった陸奥は、肩を揺すられる手で目を覚ました。
「ん・・・着いたがか・・・?」
フワリと身体が浮かび上がり、また抱え上げられたことに気付く。
だが、今度は抵抗することもなく。
ただ黙って、その手に身を任せた。
少しして、目的の場所に着いたのかゆっくりと地面に下ろされる。
「もう、目隠し外してもいいぜよ。」
耳慣れた声に、あからさまに大きなため息を一つ吐いて、ゆっくりと布を解いた。
「・・・何しゆうがか、頭。」
「あはははは!サプライズじゃ、サプライズ!」
「サ・・・プライズ?」
怪訝な顔を返した陸奥の耳に、轟音が届く数秒前―――
夜空を彩る大きな光が、辺りを包み込んだ。
「おー、見事なモンじゃのう!」
それが花火だと気付くのに時間がかかってしまったのは、驚いたからということよりも、目も心も奪われてしまっていたから。
次々と上がる大玉の花火を、まるで子供のように夢中で眺め続けた。
「・・・どうじゃ?ワシのサプライズ。気に入ってもらえたがか?」
ハッとして辰馬の顔を見ると、嬉しそうに笑顔を浮かべてこちらを見ている。
「何がサプライズじゃ。また無駄な金使いおって。おんしの給料から、しっかり引かせてもらうきに。」
気持ちが高揚しているせいか、言葉にはいつもの威厳が感じられない。
そして、そのことにすらきっと陸奥は気付いていない。
そんな様子に、辰馬は満足気に微笑んだ。
「陸奥。」
「何じゃ。」
「浴衣、よう似合うちょる。」
「・・・こんな格好、久々すぎて息苦しいぜよ。」
「あはははは!あー、じゃが・・・折角結った髪が崩れてしまっちゅうのう。」
「おんしがこげなことするからぜよ。」
手に持ったままの目隠しの布をヒラヒラと靡かせると、辰馬はまた大きく笑った。
「すまんすまん。じゃあ・・・」
陸奥の手から布を取ると、背中に回って髪に手をかけた。
「・・・今度は何する気じゃ。」
解けてしまった髪を一つに束ね、その布で結わう。
「・・・よし!これでどうじゃ?」
あまり器用とは言えない結び方ではあったが
「まぁ・・・鏡も櫛もないき、今はこれで我慢するぜよ。」
ぼそりと呟いた陸奥は、後ろから覗き込む辰馬の髪をつかんで引き離した。
「いだだだだ!抜ける!抜ける!」
「女子の髪に気安く触るような奴は、禿げてしまえばいいきに。」
怒ったような表情で夜空を見上げていた陸奥だったが、少しするとまた、花火に目を奪われていた。
夜空に咲く大きな花は―――
その日、希有にしか見られぬ一輪の美しい花を咲かせたのだった。
~完~
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―あとがき―
暑中お見舞い申し上げます!
最早、これを言いたいが為だけに作られた駄作だとは誰も思うまい!
いや、別に出来がいいとかそんなことは思ってないですよ?w
駄作は相変わらずだし、ノア画はむしろいつもより雑で・・・w
ただ、暑中見舞いをするためだけに、ここまで手間をかける馬鹿は自分くらいしかいないだろうと思ったんですwww←
えぇと、元々は駄作を書くつもりはなくてですね。
暑中見舞いも、皆さんに直接ハガキで送らせていただく予定だったんです。
だがしかし。
我が家のプリンターが壊れかけていることを思い出し、しかたなくブログにうpることにした訳なんですが。
コレを作ってる最中に、色々と妄想してしまいましてwww
「こういうシチュはどうだろうか?」
「こういう設定にしたら萌えるじゃまいか!」
・・・なんて事を考えてたんですw
でもまぁ、書きかけの駄作がかなりいっぱいたまってるし、そもそも書く気が起こらなかったんで、妄想だけで終わらせておいたんですが・・・
ついさっき、暑中見舞いをうpろうとして記事を書いてた時に、その妄想の時の話を書き始めたら、いつの間にかそれが小説っぽくなってしまったんで、こういう結果になりましたwww
タイトルとか思い浮かばなかったんで、すごくやっつけですw←
お付き合いくださった方、ありがとうございましたw
時期的に、ちょっと花火は早いかなーなんて思ったんですけど、夏に浴衣と言えば花火だろう!とw
手持ちなんてちまちましたものより、辰馬らしく打ち上げじゃー!とw
で、こんな感じになりましたw
坂陸奥っぽいですが、特に坂陸奥を意識したつもりはないですw
坂陸奥と言うより、快援隊って感じでw
他の連中も違う場所で見てますよw
母艦ほったらかして何やってんだって感じですがwww
あ、ちなみに。
この場所は地球ですw
だから、あの花火を打ち上げているのは万事屋トリオなんですwww
もちろん、ちゃんと辰馬が報酬払ってますw
快援隊の花火大会・・・とでも言えばいいんでしょうかねw
と、そういや書いてて思ったんですが。
あの船の小型船を収容してる場所はハッチでいいんですか?←
何かググってもよくわかんなかったし、ガン○ムとかでよく聞くからハッチって言ってみたんだけどwww
誰か知ってたら教えてくださいw
ノア画の方は、またしても薄桜鬼の画像を元にして作りましたw
土方さんと千鶴ちゃんだったはずw
元画像では、2人が見詰め合って桜の傍に立っているのですが。
辰馬は陸奥を。陸奥は花火を見てる感じにしてみました。
・・・み、見えるかな?(;´Д`)
視線を定めるのが、どうも苦手ですorz
色々と凝って作ったら、何故だかいつもより仕上がりが汚くなってしまったので、画像は拡大せずにあのままのサイズで見ていただいた方がいいのではないかと思いますw
いらっしゃるかはわかりませんが、もしお持ち帰りされる方がいましたらコメにて連絡願いますw
九州南部はまだ梅雨明けしてないと聞いているので、そちらにお住まいの方々には、フライング気味の暑中見舞いになってしまいますがw
皆様がこの夏も元気に過ごされますよう・・・
暑中お見舞い申し上げました!w