気まぐれ小説 | じゃすとどぅーいっと!

じゃすとどぅーいっと!

ヨノナカニヒトノクルコソウレシケレトハイフモノノオマエデハナシ

夏風邪はバカがひく



風邪をひいてしまった。


「明日はデートだし・・・!」と、気合を入れて半身浴なんてしたのがよくなかったらしい。


すっかりのぼせてしまって、フラフラの状態で浴室を出て。

タオルだけ巻いて布団に倒れこんで、エアコンの温度を一気に下げて。

とりあえず治まるまでは大人しくしていようと、目を閉じた。


そんなちょっとの間のつもりでいたのだけれど、いつの間にか眠ってしまい。

気が付けば、朝になっていた。


「うぅ・・・頭痛い・・・」


鈍い痛みを抱えてどうにか起き上がると、容赦なく涼しい風を送り込んでくるエアコンの電源を切った。

すっかり肌蹴落ちてしまったタオルを洗濯機に放り込んで。

これ以上、身体を冷やさないために少し温かめの服を着て。


後は、何をすればいいんだっけ―――?


「・・・そうだ。メールしないと・・・」


デートの待ち合わせの時間までは、まだかなりの余裕がある。

家を出るどころか、準備すら始めていないだろう。


「えっと・・・急用が出来たから、今日のデート行けなくなっちゃった・・・・・・ごめんね、ぜんぞー・・・、っと。」


ドタキャンは悪いと思うけど、ほんとのコトを言って心配させるのも嫌だし。

そもそも、電話でするべきことをメールなんかで済ませてしまっているのは、この気だるそうな掠れ声を聞かせないためでもある訳で。


「あーあ。楽しみにしてたのになぁ・・・何やってんだろ、私・・・」


最近忙しそうにしていた全蔵にようやく休みが出来たと聞かされたから、疲れていることもわかっていたけど、無理矢理デートの予定を入れたと言うのに。


結果は、この体たらく。

まぁ、全蔵としてはゆっくり休めていいのかもしれないけど。


ぼんやりと天井を見つめていると、手の中の携帯が震えた。


「わかった・・・って、たったコレだけ?」


確かに、誘ったクセにキャンセルしたのは私の方だけど。

怒ってるのかもしれないけど。


―――残念だけど仕方ないな。また今度、どっか行こうな。


とか、そのくらい言ってくれたっていいと思う。

折角、久々に会う・・・はずだったんだから・・・


「バカ・・・・・・・・・私、ほんとバカだなぁ・・・」


自分の身勝手さも、不甲斐なさも。

自分のことばっかり考えてて、ワガママなところも。

全部全部、大嫌いだ。


可愛げも何もないし、いつか全蔵に愛想尽かされちゃうんだろうな。

私なんかより、性格も見た目もいい子なんていっぱい・・・


「・・・アレ。何でこんなに卑屈になってるんだろ・・・?」


風邪をひいたせいで、何となく心細くなってしまったらしい。

心と身体は二つで一つだってことを、改めて実感させられた気がした。


「はぁ・・・寝よう。」


このまま起きていても、よくなる訳じゃないし。

むしろ逆に悪化しそうな気がしたので、大人しく眠ることにした。


次に会った時に、ちゃんと謝ろう。

そしたらきっと、またいつも通りに―――




結構、長い時間眠っていたようだ。

窓から差し込んでくる西日の眩しさに、薄っすらと瞼を開ける。


だるさや喉の痛みは相変わらずだったけれど、割れそうな程ガンガンと響いていた頭の痛みは、幾分和らいでいるように感じた。


「今、何時だろ・・・」


辺りを探るように、手だけ動かして携帯の在りかを探した。

だが、手に持ったまま眠ったせいでなかなか見つからない。


のそのそと布団から手を出すと、頭上の方へとゆっくり手を伸ばした。


「・・・ん?」


探し物は一向に見つかる気配がないが、手には得体の知れない感触がある。

重い頭を枕に擦りつけながら、視線を手元へと向かわせた。


「・・・ぜ、んぞ・・・?」


手が触れていたのは、ジャンプを読みながら壁にもたれている全蔵の足だった。


「・・・起きたか。」


ジャンプで顔が隠れてしまっていて、表情は見ることが出来ない。

発せられた声は、いつもと変わらないようにも、いつもより素っ気ないようにも聞こえた。


やっぱり、怒っているのだろうか。

既に愛想を尽かされてしまったのだろうか。


久々に会えたというのに、不安ばかりがどんどんと大きくなっていく。


「・・・ぜ、んぞ・・・・・・あの、ね・・・」


謝らなきゃ。

ちゃんと伝えなきゃ。


「私、ね・・・あの・・・ね・・・・・・・・・嫌だよ・・・別れたくなんて、ないよぉ・・・!」


・・・違う。

言いたかったことは、コレじゃない。


今日のことも、いつものワガママも。

ちゃんと謝って、ちゃんと許してもらって。


それから、だ。


全蔵に嫌われないように、嫌なトコは直すから。

だから、別れたくないのだと。


そう、言いたかったのに。


考えれば考えるほど、涙しか出てこない。

涙ばかりが溢れてきて、全く言葉が出てこない。


息することすらうまく出来なくて、その場に蹲るしか出来なかった。


「ちょ、オイ・・・!どうしたんだよ、急に!」


ジャンプが落ちる音がして、全蔵が私の身体を抱き起こしてくれた。


「・・・や、なの・・・!ぜん、ぞ・・・!」


「とりあえず落ち着けって!ほら、ゆっくり息吸って・・・」


「や、だ・・・・・・いや・・・だ、よ・・・!」


「いいから落ち着け!」


温かく包み込んできたそれが全蔵の身体だと気が付くのには、少しばかり時間がかかった。

ちゃんと目には映っていたのだけれど、混乱している脳内ではうまいこと処理が出来なかったらしい。


しゃくりあげている背中をあやすように撫でながらしっかりと回される力強い腕に、不安はだんだんと薄らいでいく。


「ぜんぞー・・・」


「・・・ようやく落ち着いたか。」


「・・・うん。」


「ったく、何だってんだいきなり・・・・・・デートをドタキャンだなんてお前らしくもねぇことするから、おかしいと思って来てみりゃ、具合悪くして寝込んでるし。」


「・・・ごめん。風邪、ひいちゃったみたいで・・・」


「大体!普段は俺に何でもやらせるクセに、何でこんな時に限って黙ってんだよ!」


「だって、心配かけたくないから・・・」


「ドタキャンした時点で心配かけてんの!」


「・・・ごめんなさい。」


「・・・はぁ。で、さっきのアレは何だよ。」


私を抱きとめていた腕が緩んで、全蔵が顔を覗き込んできた。

気まずくなって顔を背けようとしたら、両手で頬を挟まれてしまった。


「ちゃんと説明しろ。」


「・・・・・・わかった。」


うまく整理出来てなくて、まとまりのない説明になってしまったけれど、全蔵は目を逸らすこともなく私の話を聞いてくれた。

たまに相槌を打ったり、呆れたりしながら。


「―――多分、身体が弱ってたからそこまで思い込んじゃったと思うんだけど・・・・・・でも、謝らなきゃいけないって思ったのは、本心・・・です。」


「・・・・・・はぁ。バカだよな、お前は。」


「じ、自覚してます・・・」


「夏風邪はバカがひくっていうけど、やっぱアレってほんとだったんだなー。」


「うぅ・・・・・そう、かもしれない・・・」


俯いた私の頭に手を乗せると、髪の毛がぐちゃぐちゃになるくらいの勢いで頭を撫でてくる。


「ちょ、全蔵!髪が・・・」


「ほんっと・・・バカだよ、お前。」


不意に腕に力が込められて、私の身体は全蔵の肩にもたれかかるようにすっぽりと納まった。


「・・・全蔵?」


「嫌ったり、愛想尽かした人間の家になんざ来る訳ねぇだろ、普通・・・」


「・・・あ。そか・・・」


「寝込んでるお前見て、俺がどれだけ心配したと思ってんだ・・・」


「・・・・・・」


「嘘つかれて、どれだけショックだったと思ってんだよ・・・」


ほんとに私は、バカだ。

自分のことしか考えない、大バカ者だ。


「・・・ごめん、ね?全蔵・・・」


「・・・いいよ、もう。それより具合、まだよくねぇんだろ?ちゃんと寝てろ。ずっと、傍にいてやるから・・・」


「う、ん・・・・・・ありが、と・・・ぜん、ぞ・・・」


泣き疲れたのと、身体がだるいのとで、私はそのまま眠りについてしまった。


久々のデートは散々なことになってしまったけれど・・・

そんなことすら忘れるくらい、今日は私にとって最高の一日になったような気がした。






「・・・こりゃ、しばらく起きねぇな。」


ぐっすりと眠っている姿に、少しだけ安堵した。

心なしか、笑っているようにも見える。


「人の気も知らないで・・・お前、ほんっとバカだわ。」


いつもいつも、俺が呆れるような注文ばっかしてきて。

その上、気が強くて、思い通りにならねぇとガキみてぇに拗ねたりして。


それがお前の悪いところで、嫌いなところ・・・なんだけど、よ。

そういう、ワガママで自分勝手なところも含めて、全部好きなんだっての。


「嫌いなトコも何もかも、全部ひっくるめて好きなんだよ・・・・・・そんくらい気付け、バーカ・・・」



                                          ―完―



―――――――――――――――――――――――――――――――――


―あとがき―


何気に初全蔵・・・?

多分、全蔵で駄作を書いたのは初めて・・・だったはず。(曖昧)


全蔵の口調って、特徴があるようなないような感じで、ちょっと戸惑ってしまいましたw


何故だかいきなり“夏風邪”って言葉が浮かんできてシチュを妄想してたら、割とあっさりカタチになってくれましたw


相手を全蔵にしたのは、最後の台詞を言わせたいがため・・・と言っても過言じゃないですwww


全蔵には、呆れられるほどワガママを言いまくりたい。

全蔵は全蔵で、呆れるくらいワガママな彼女だけど、好き。


って言う、妄想の産物・・・と言うよりは、自分の願望みたいなw

そんなトコから出来ましたw


後はまぁ、全蔵の誕生日にナニもしてやれなかったんで、その時の埋め合わせと言うか何と言うか・・・w



そんで・・・念のため言っておきますが。


「夏風邪はバカがひく」って言葉はよく耳にしますけど。


“夏に風邪ひくヤツはバカ”ってのは、本来の意味じゃないですので。

“バカは自己管理が出来ないから夏でも風邪をひく”とか言ったりもしますよねw


正しくは、“バカは冬に引いた風邪を、夏になってから罹ったのだと気付く”

要は、バカは鈍いってことですねwww


それが正しい意味ですので、使う際はお気をつけくださいw

まぁ、最近では上の使い方でも間違ってないみたいですが。


ストレートすぎるタイトルで、いいのか・・・?って感じですけど、思い浮かばなかったんでヨシとしますw←



中の人繋がりで某村長(←)が、「風邪には河童の生茹で汁が一番」だと言ってたんで、コレを書いてる最中に何度、河童の生茹で汁を登場させようと思ったことか・・・!


ほんともう、藤原さん素敵だwwwwww←


あと、「バカバカ」連呼しすぎて、黒いもじゃもじゃが何度も脳裏に浮かんだのは内緒w



とりあえず、初全蔵は楽しかったですw

また書きたい・・・ってか、また書く!そのうち!(多分)←


ジャンプでもしばらく全蔵が出ずっぱりだったんで、またしても全蔵熱が沸々と沸きあがってたりもしてますからw


これからも、チラッと出ては酷い目に遭わされて、でもオイシイところは持っていくカッコイイ全蔵でいて欲しいと思いましたw


遅くなったけど・・・全蔵、誕生日おめっとさんでしたw