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ぐっどもーにんぐ ~魔死呂威組若頭の場合~



二人で迎えた初めての朝―――。



「何か飲みますか?」


「お前と同じものでかまわんわ。」


何だか妙に照れてしまって緊張している私の後姿を、優しい表情で見つめているのは魔死呂威組の若頭である中村京次郎さん。


立場上、外泊なんて簡単に出来る訳もなく。

出かけることすら儘ならなくて、デートはいつも人目につかない時間帯に私の部屋でがほとんどだった。


それなのに、昨夜は急に来たかと思えば「泊めてくれ」だなんて。


嫌じゃないけど・・・何て言うか。

早く言ってくれれば、色々と準備とか出来たのに。

お酒や料理だって、もう少しまともなものを出せたのに。


そう思いながらも、結局は初めて二人きりで過ごせることが嬉しくて。

緩んだ顔を引き締めることなんて出来なかった。


そして何より。

魔死呂威組の組長さんが亡くなられてからというもの、どこか元気のない京次郎さんを励ませるのであれば。

私みたいな非力な人間でも、京次郎さんを支えられるのであれば。

私にとって、こんなに嬉しいことはなかった。



いつもなら慣れているはずの簡単な作業も、今日は少し勝手が違う。


包丁で指を切るなんて、一体いつ以来だろう。

慌てた私とは対照的に、手際よく手当てをしてくれた京次郎さんには「そそっかしいのう。」なんて笑われた。


それを挽回するために、今度はとびきり美味しいお茶を淹れてあげようとしているところなのだけど・・・


「熱っ!」


案の定、沸騰したやかんを直接触るだなんてありえない失敗をしてしまった。


「ははは!今度は火傷か?忙しい奴じゃ。」


「うぅ・・・」


「こんな調子じゃ、お前を一人にするんは不安じゃのう。」


「え・・・?」


「・・・いや、一人暮らしさせておくんは不安じゃ言うとるんじゃ。」


一瞬、プロポーズでもされたのかと思った。

だけど・・・多分、違う。


京次郎さんは、私に重荷を背負わせないようにと。

組と係わらせないようにと、気を使ってくれているのだから。

そんな京次郎さんが、プロポーズなんてするはずがない。


私は、一向にかまわないのだけど。

むしろ、京次郎さんの隣にいられるのなら。支えになれるのなら。

京次郎さんの一番傍に在りたい。


困らせたくはないから、こんな話京次郎さんにはしていないけど・・・


「ダイジョーブですー!今日はたまたまなんですからねっ!」


「はははは!そうかそうか!」


京次郎さんは、いつもよりよく笑っていた。

普段あまり見られないような優しい顔も、たくさん見せてくれた。


すごくすごく幸せな時間。

私はこの日を、ずっと忘れない。



―――そして、それが二人で迎えた最後の朝だった。



襲名披露の日、同盟組織の裏切りに遭い・・・京次郎さんは亡くなった。


あの時、既に京次郎さんは魔死呂威組の跡を継ぐことが決まっていたのだと、唯一、私を知っている舎弟さんが教えてくれた。


それから、遺品の中にあった私宛の小さな紙袋を置いていった。


袋の中身は、一枚の紙と小さな箱。

紙には、私の名前の他に一言だけ何かが書いてあるのだけど、黒く塗りつぶされていて読めなかった。

その下に書かれていた日付は、もう六年も前のものだった。


京次郎さんと出会った二年後。

何を思って、これを用意してくれていたのか・・・

今はもう、それを聞くことすら出来ないのだけれど。


自惚れてもいいのなら・・・と、この箱の中身を勝手に解釈して左手の薬指にはめておくことにした。



「お茶どうぞ。今日は火傷してませんからね。」


写真立ての中から、京次郎さんの笑い声が聞こえた気がした。



                                       ~おわり~



―――――――――――――――――――――――――――――――――


―あとがき―


第4弾は、まさかの京次郎になりました。

いや、まさかのって言っても自分の選択肢なら余裕でアリのキャラなんですけどねw


ネタは浮かんでなかったし、書く予定もなかったんですが。

急に思いついたので、まさかの京次郎って感じですw


しかも、亡くなってるっていう原作の設定を使うだなんて珍しくて、自分で自分にビックリ。

ま、内容の薄さは相変わらずですね。←



いつも“あとがき”と称してくだらないことばっか書いてたんですが、今回はちょっと内容に触れておこうと思います。


・・・と言うか、書いておかないとわかってもらえないんじゃないかとw

あとがきなんて書かなくても、ちゃんと読み取ってもらえるようなものを書かなければいけないんですけどねorz


えと、まず。

「こんな調子じゃ~」って言う京次郎の台詞。


後に書いてますが、この時点で京次郎が跡目を継ぐことは決まってた訳で。

自分が死ぬこともわかっていたんです。

つか、だから泊まりにきた訳なんだけども。


2回目に言い直した方では、女の子がプロポーズされたかと思ったりしてますが、浮かれた訳じゃなくて、何か違和感は感じていたと思います。


・・・「思います。」って自分が書いておいて言うのもおかしいですけどね。←


んでもって、京次郎が残してくれたメモ。

日付が6年前ってところがポイントで、確か万事屋一行が依頼を受けた時に鬱蔵が引き篭もったのは5年前だと言っていたはずなので。


そっから更に1年前だから多分、組長も鬱蔵も京次郎も仲が良かった・・・って言うと変な言い方だけど、いざこざが起こる前なんじゃないかとか勝手に想像して6年前にしました。


その頃は、京次郎が若かったってのもあるし、色々と背負い込む前だった訳だから、結婚したいとか思ってたんじゃないのかな・・・とか。

メモにも“結婚しよう”的なことが書いてあった・・・はず。←


それが、女の子と京次郎が出会った2年後ってのは、特に理由もなく書いただけなんですけどw


箱の中身は書かなくてもわかりますよね。

もう十分すぎるほど匂わせましたからねw



何か、ますます“朝”がテーマじゃなくてもいいんじゃないの?って感じの内容ですが、最初のあとがきで言ったように、自分が好きだからいいんです。←


これを書くにあたって、アニ銀で京次郎の回を見直したら切なくなりました。

京次郎・・・(´・ω・`)



次回はそろそろ全蔵でもいいんじゃないかと思ってるんですが。

何か全然思い浮かばないので、どうなるかわかりません。

お暇でしたら、またお付き合いいただけるとありがたいですw