辰馬誕生日記念(出遅れ) 坂高小説 | じゃすとどぅーいっと!

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≪注意≫

BL作品ですので、苦手な方はバックブラウザ推奨です。

また、激しく捏造されたお話となっておりますので、閲覧の際は十分お気をつけくださいまし。

苦情は受け付けません。悪しからず。


前作はコチラから⇒闇夜の虫は光に集う (壱)
           闇夜の虫は光に集う (弐)

            闇夜の虫は光に集う (参)

           闇夜の虫は光に集う (肆)




闇夜の虫は光に集う (伍)


何度も何度も聞いた言葉に、ビクリと身体が反応した。


「・・・晋助?」


「・・・・・・お前は・・・お前はそう言って、俺の前からいなくなった。俺を一人残して、勝手に宙に行っちまった。」


「・・・・・・」


「なァ、辰馬。久々に都々逸でも詠もうじゃあねぇか。」


辰馬の胸から顔を上げた俺は、少しの距離を取ってそう切り出した。


杯に残った酒を口に運びながら、俺が詠んだ節。


「切れてくれなら切れてもやろう、逢わぬ昔にして返せ・・・」


辰馬は意外だとでも言いたげな顔でコッチを見ている。


俺の率直な気持ちを託した。

お前は、どう返すつもりだ・・・?


「・・・ほぉ。」


「お前の番だぜ?」


「そうじゃのう。・・・・・・どうせ互いの身は錆び刀、切るに切られぬくされ縁・・・なんてどうじゃろうか?」


「・・・・・・」


「のう、晋助。ワシは確かにおまんを置いて宙に行った。」


俺の方へと真っ直ぐ向き直し、辰馬は言葉を続けた。


「じゃが・・・おまんを忘れた事なんぞ、一度もない。隣におらんでも、ずっと想っちょったぜよ。」


そんな安易な言葉で、騙される訳がねぇ。


「おまんも・・・ワシと同じ気持ちじゃと思っていいがか?」


騙される・・・訳が・・・・・・


「晋助。ワシはおまんを手放す気なんぞないきに・・・」


左頬に伸びてきた手は暖かく、あの懐かしい気持ちが蘇ってくる。


「辰馬・・・」


覆いかぶさった辰馬が、何度も何度も口唇を重ねてきて、俺はもう何も抵抗できなくなっていた。


サングラスに手を伸ばし、ソッと外すと、遮る物のなくなった互いの視線が絡み合う。


「もっとよう見せてくれ・・・」


顔にかかる髪を払いながら、楽しげに俺の顔を見下ろす。


「ちっくと見ん間に、こげな傷作って・・・綺麗な顔が台無しじゃなかか・・・」


「この傷は・・・いい。一生背負っていくからな。」


「・・・そうか。」


辰馬がいなくなってから、万斉以外にも関係を持った人間は何人かいる。


だが、誰一人として俺の全てを満たせた奴はいねぇ。

満たされるのは身体ばかりで、心までをも埋める相手なんざいなかった。


それなのに・・・こうもあっさりと、この男は俺の全てを満たしやがる。


肌を合わせただけで、気持ちが・・・想いが・・・

溢れんばかりに満たされていく。


なァ、辰馬・・・

お前は本当に俺の傍から離れたりしねぇんだよな?

進む道は違えど、隣にいてくれるんだよな?

もう二度と、俺を一人になんざしねぇんだよな・・・?


背中に回していた手に力を込めると、辰馬は優しくその手を解き、互いの手を絡ませ・・・恐怖も理性も吹っ飛ばすような深い深い口付けを落とした。


「ワシのおらん間、かなり遊んでいたようじゃが・・・まぁ、いい。ワシでしか満足出来んように、仕込めばええ話じゃき。」


「たつ・・・ま・・・・・・もう・・・」


「まだ、ダメじゃ。・・・夜は長い。ゆっくり時間ばかけて、ワシを思い出させんとな。」


コイツが光だろうが蜘蛛だろうが・・・そんな事はもうどうでもいい。


光だと言うならば、闇夜に舞う蛾になってやる。

蜘蛛だと言うならば、蝶になり捕らわれてやる。


お前が俺を必要としているなら、俺は何にでもなる。

歪んだ愛情だと思われてもかまわねぇ。


俺は、お前がいねぇとダメなんだ。

お前じゃなきゃダメなんだ。


だから・・・


俺を離すな。

捕らえてろ。


俺から離れるな。

傍にいろ。



辰馬、アイシテル―――。






「頭、おんしに客じゃ。」


「ワシに・・・?誰じゃ?」


「鬼兵隊の、河上と言う男じゃ。」


「河上・・・・・・そうか。陸奥、すまんが人払いをしてくれんか?」


「・・・わかった。」


陸奥と入れ替わりで、万斉は部屋へと足を踏み入れた。


「わざわざ出向いてくるとは・・・ワシになんぞ用か?」


「・・・単刀直入に聞かせてもらう。主は晋助の何なのだ?」


「そうじゃのう・・・・・・戦友・・・とでも言うべきかの。」


「・・・本当に、それだけ、でござるか?」


「随分とひっかかる言い方をするのう?」


「いや・・・主の名前を聞いてから、晋助の様子が可笑しいのでな。」


「可笑しい?」


「詳しくは話せぬが・・・」


「・・・あぁ。必要以上に、身体を求めてくる・・・とかかの?」


予想もしていなかった言葉に、辰馬の顔を真っ直ぐに見つめた。


「主、気付いて・・・」


「じゃが、最近はそんな事もないじゃろ?」


「・・・そう・・・でござるな。」


笑い出した辰馬を見て、万斉は怪訝な顔をした。


「・・・何が可笑しい?」


「ははは・・・いや、すまんのう。どうやら、おまんはもう用済みのようじゃ。」


「・・・用済み?」


「おう。他に相手がいるって事じゃろ。おまんより、もっといい相手が。」


サングラスを外すと、辰馬は嘲笑うような顔で万斉を見遣る。


「今まで世話になっていたようじゃが・・・ありゃ、ワシのじゃ。おまんみたいのんが、手ェば出していいモンじゃないきに。」


「晋助と、主が・・・」


「すまんの。他の相手でも見つけてくれ。」


「・・・主は。」


「お?」


「主は、晋助の事をどう思っているでござるか?」


「答える義理はないぜよ。」


「答えによっては、拙者が身を引くつもりはないでござる。」


「ほぉ・・・そうか。」


「・・・どう思っているでござるか?」


「好いちゅう。・・・・・・そう、答えれば満足か?」


「どういう意味だ?」


「いや、好いちゅうぜよ。心から。・・・ワシの、大事な玩具じゃき。」


「なっ・・・!」


「端っから恋愛感情なんぞ、ある訳ないきに。使える駒・・・そう思ったき、手懐けただけの事。」


「晋助の気持ちを利用したでござるか!?」


「酷い言い方じゃのう。ワシが拾っちょらんかったら、アイツはとっくの昔に死んでおったっちゅーに。」


「信頼する相手に利用されるよりマシでござろう!」


「あはははは!おまんはまだまだ青いのう。」


「っ・・・・・・」


「おまんらみたいな組織がおらんと、この商売は成り立たんき。」


「・・・あくまで、道具としてしか利用していない。そういう事でござるな?」


「もっとマシな言い方は出来んもんかのう?」


ヘラヘラと笑っている辰馬に、万斉はそれ以上言葉を続けるのを止めた。


立ち上がると、襖へと向かう。


「もう気は済んだがか?」


「・・・もうここにいる必要はないでござる。」


「そうか。」


「ここに来る事も・・・主に会う事も、ないでござろう。」


「ワシはまた、おまんと話が・・・」


「金輪際、晋助の前に現れるな。」


「・・・そりゃ、無理じゃ。」


「主に晋助は渡さない。」


「おまんがそう言っても、アイツがどう思うかの?」


「今話したこと事、晋助にそのまま伝えさせてもらう。」


「そげな事したって無駄じゃ。アイツがワシから離れるなんぞ、出来る訳ないき。」


「豪く自信があるでござるな。」


「あの左目の傷・・・アレは、ワシがおらんようになった事に耐え切れんくなって付けたモンじゃ。」


「っ・・・!自分で・・・つけた・・・のか・・・・・・」


「またワシがおらんくなったら・・・今度は腕か?足か?」


「・・・・・・」


「だから言うちょるじゃろ。晋助は、ワシのモンじゃ。」


「晋助・・・」


「そういう訳じゃき、これからも仲良うしとーせ。」



蜘蛛の巣に囚われた獲物に、逃げ場などありはしない。


捕まったが最後。
全ては蜘蛛の思うがままに―――。



                                         ――終わり