辰馬誕生日記念(出遅れ) 坂高小説 | じゃすとどぅーいっと!

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ヨノナカニヒトノクルコソウレシケレトハイフモノノオマエデハナシ

≪注意≫

BL作品ですので、苦手な方はバックブラウザ推奨です。

また、激しく捏造されたお話となっておりますので、閲覧の際は十分お気をつけくださいまし。

苦情は受け付けません。悪しからず。


前作はコチラから⇒闇夜の虫は光に集う (壱)



闇夜の虫は光に集う (弐)


ひんやりとした風と、手の温もりに、ゆっくりと現に返ってくる。

髪を撫でる手は、昔から寝付きの悪い俺を眠りへと誘ってくれる先生のそれと同じで・・・

「ん・・・・・・せん・・・せ・・・?」

無意識にそう呟いたが、言葉が返ってくる事はなくて。
ただただ黙って、何度も髪を梳いてくれた。

「先生・・・ずっと、俺の傍にいて下さい・・・・・・もうどこにも行かないで・・・」

目を開けると、きっとこの手はなくなってしまう。
だから、見えなくていい。
そこに先生がいるのだと、感じられるだけでいい。

そっと手を伸ばし、その温もりに触れた。
俺の冷たい手を包み込む、大きくて優しい・・・大好きな先生の手・・・

その時、不意に口唇を覆われるような熱を感じた。

驚いて目を開けると、藍色の瞳が覗き込んでいるのが見える。
慌てた俺になどかまわず、再び口唇が重なった。

「んっ・・・んん・・・・・・くっ・・・おい!」

やっと自由になった口を拭いながら睨みつけた奴は、悪びれる様子もなく、黙って俺を見ている。

「テメェ、何してやがる!」

「ワシなりに慰めたつもりなんじゃけどのう。」

「野郎に対してこんな慰め方する馬鹿はテメェぐらいだ!」

「そうかのう?」

「つーか、俺は慰めてくれと頼んだ覚えはねぇ。慰めて欲しいと思った訳でもねぇ。これ以上、俺に関わるな。」

野生の勘なのか、第六感と言うやつなのかはわからねぇが、こいつに関わってはいけないと俺の中の何かが告げていた。

「何でじゃ?」

「言ったはずだ。俺はテメェらと仲良しごっこする気なんざ更々ねぇ。」

「・・・おまん、怖いんじゃろ?」

「はっ。何が怖いだ。俺に怖いモンなんてねぇよ。」

「優しくされるんが・・・いや、違うか。親しい人間を作るんが怖いんじゃ。」

「煩わしいだけだ。」

「親しい人間を作って、また失ってしまうんが怖い・・・違うか?」

「違う。」

「ワシに“先生”の面影を重ねてしまっちゅうようじゃしのう?」

「っ・・・違う!」

俺の心を見透かしたように放たれた言葉が、次々と突き刺さる。


「・・・晋助。」


「なっ・・・!馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇ!」

「そんな怖がらんでも、いいきに。」


「だから怖がってなんかねぇっつってんだろ!」


「ワシは、おまんを一人にはせん。」


「黙れ!」


「大丈夫じゃ。」


俺の闇を照らすように降り注ぐ声は、何故か先生の面影を映し出して・・・

ジリジリと近づいてくる奴の眼に射竦められたかのように動けなかった。


「っ・・・黙れ!寄るな!」


「晋助・・・ワシを信じろ。」


「やめろ!来るな!」


「ワシはずっと傍におるきに・・・」


「っ・・・・・・」


「・・・な?」


先生のとは似ても似つかないその身体に包まれ、恐怖や不安は掻き消されていく。


何でこんな奴に・・・


そんな事を考えていたはずの頭も、いつの間にかコイツの温度に安心しきって何も考えられなくなり・・・身体中を這う舌やなぞる指先に抵抗する事さえ忘れてしまっていた。




その日から、俺たちの関係は人目を忍んで続けられ・・・

回を増すごとに、深くのめり込んでいった。


それが愛情ではなく、依存だと言う事にも気がつかずに―――。






「さぁて、今日も飲むぜよ!」


「俺ァ今日はパスなー。」


「何じゃ、金時はツレないのう。」


「坂本、あまり飲み過ぎるなよ。」


「お?ヅラも付き合ってくれんがか?」


「連日連夜、お前に付き合っていたのでは身が持たんからな。」


「仕方ないのう・・・じゃ、今日は二人で飲むとするか。・・・のう、晋助?」


「あ?誰がお前と飲むなんて言ったよ。」


「まぁまぁ、そう言わんと・・・な?」


「ああ!わかったから離れろ!」


「あはははは!」


「・・・高杉の奴、坂本が来てから丸くなったな。」


「そうかァ?・・・ま、いいんじゃねぇの?」


酒瓶と杯を手にした辰馬と向かうのは、先生の部屋。

そこが、俺たち二人の会する場であり・・・交接する場となっている。

「晋助。おまん、都々逸って知っちょるか?」


「知ってるが・・・興味はねぇな。」


「やってみりゃ結構ハマるモンじゃき!ちっくと詠んでみるぜよ。」


「・・・ったく、めんどくせぇな。」


「じゃ、まずはワシからじゃ。」


そう言ってニヤリと笑うと、少し視線を外して天を見遣った。


「星の数ほど男はあれど、月と見るのは主ばかり・・・どうじゃ?」


「・・・それ、“男”じゃなくて“女”の方がいいんじゃねぇのか?」


「さぁ、どうじゃろうの?」


俺の反応を見て楽しんでいるだけなのか。

それとも、俺に向けて詠んだのか・・・


真意の読めない辰馬を訝しそうに見ると、それに気付かないフリをして酒を呷っている。


コイツのこういうところが嫌いだ。

いつも余裕な顔で俺の心を見透かして・・・


「思いついたがか?」


「・・・三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい。」


「ほぉ・・・初めてにしちゃいいのう。それに、おまんらしい節じゃ。」


言葉に込めた俺の想いにも気付いただろうに・・・

それを当たり前のように受け止めて。


やっぱり、俺はコイツが嫌いだ。


酔っているせいか、辰馬の顔は酷く妖艶に映り・・・

口唇が重なるまで、近づいてきた事にも気がつかないくらい、目を奪われていた。


「今日は素直で可愛いのう。」


「・・・っるせ!」


「じゃが、ワシはおまんの照れた顔が好きなんじゃ。」


「くっ・・・悪趣味・・・」


「あはははは!おぉ、また一節思いついたぜよ。」


「っは・・・・・・んだ・・・?」


「山の小菊は何見てひらく、下の松茸見てひらく。」


「ばっ・・・!黙れ!」


「あはははは!そげな顔されると、もっと苛めたくなってしまう・・・のう?」


「はや・・・くっ・・・・・・焦らす・・・んじゃねぇ・・・」


「そんなに焦らんでも、ワシはいつでもここにいるぜよ・・・」


その言葉に安心しきっていた俺は・・・まさかこんな日が来るなんて夢にも思わなかった。


辰馬・・・・・・お前は、何を考えていやがるんだ―――?






攘夷戦争も終盤に差し掛かったある日。

戦場から戻った俺は、いつも通りのはずの宿舎に違和感を覚えた。


誰一人口にしていないが、明らかにおかしい。

こんなにも宿舎が静まり返っているのは・・・辰馬が来る前以来だ。


「なぁ、銀時。辰馬いねぇのか?」


「・・・あ?何言ってんの、お前?辰馬なら、『宙に行く』っつって、出て行っただろうが。」


「・・・・・・何・・・言ってんだ・・・?出て行ったって・・・いつだよ!」


「今日の昼間だぜ。・・・って、お前聞いてなかったのか・・・?」


「知らねぇよ!オメェはいつ聞いたんだ!」


「三日前くらいじゃねぇか?」


「何を騒いでおるのだ、高杉。」


「ヅラ!お前も、辰馬が出て行ったこと知ってたのか!?」


「あ?あぁ、前々から聞いていたからな。・・・どうしたのだ、そんなに慌てて?」


「それがよォ・・・」


頭が真っ白になった。

近くで話している銀時やヅラの声も、俺の耳には届かない。


辰馬が出て行っただと?

俺には何も告げずに?

俺を一人残して・・・?


「高杉、とりあえず落ち着け。」


「るせぇな!落ち着いてるよ!」


「お前と坂本は仲が良かったから、真っ先に知らせていると思ったんだがな。」


「・・・・・・」


「ま、仲がいいから言いにくい事もあるんじゃねぇか?アイツがそんな風に考えるとは到底思えねぇけどな。」


「そうだ。部屋に行ってみるといい。書置きくらいは残していってるかもしれぬぞ?」


その後、部屋に行ってみたものの、書置きなんざ残っちゃいなかった。

アイツの持ち物も何もかも、きれいさっぱりなくなっていて・・・

残ったのは、アイツへの想いと記憶だけ。


俺はまた・・・大事な人を失った。


あれほど傍にいると言っていたクセに・・・

どうして俺を置いて一人で行っちまうんだ。


お前の全てが、身体に・・・頭に・・・心に・・・

深く深く刻み込まれて、忘れたくても忘れられねぇ。


こんなにあっさり俺の元からいなくなれるほど、お前にとっての俺は軽くて小せぇモノなのか?


なら、今、いっそこの場で俺が死んだら・・・

少しは俺を想ってくれるか?

俺の為に泣いてくれるか?

お前の心に、深い傷痕となって残る事が出来るのか?


懐から小刀を取り出すと、それを喉元へあてた。

ひんやりとした刃が、俺の頭を少しだけ冷静にさせる。


『決して、自分の手で自ら命を絶つような真似をしない事』


「っ・・・出来ねぇ・・・・・・先生からの最後の教えに・・・背く事なんざ、俺には出来ねぇ・・・」


大事な人間を二度も失った・・・こんな誰もいない国で、俺は生きていかなきゃいけねぇのか・・・?


そんな未来、俺にはいらねぇ。


「辰馬・・・・・・俺ァお前のいない未来なんざ・・・見たくねぇんだよ!」


喉元にあてていた小刀を頭上にかざすと、そのまま左目めがけて振り下ろした。


「くっ・・・あああああ!」


視界が紅くぼやけ、意識が遠退いていく。

目の痛みのお蔭か、胸の真ん中を締め付けるように続いていた痛みも、今は然程感じない。


「高杉!何やってんだお前!」


「誰か、医者だ!医者を呼んでこい!」


遠くに聞こえるバタバタとした喧しい足音も、奴らの声も。

もう、どうでもいい。


このまま俺を・・・楽にしてくれ・・・・・・




闇の中にいた俺に、光の存在を教えてくれたのは先生。
そして、俺にとって先生は光そのものだった。


あの人の存在が、俺にとっての生きる希望。

眩しい眩しいあの人の傍に居るだけで、俺も光になれているような・・・そんな気さえしていた。


それを失ってしまった今となっては・・・あの人の仇を討つ事が、俺の生きる理由。

光のなくなったこの世界に、更なる闇を。

光を奪った奴らに、恐怖と破滅を。


そう思っていた・・・・・・はず・・・なんだ。


それが、あの男・・・辰馬が現れてから・・・

いつの間にか、理由だとか意味だとか・・・そんな事考えなくなっていた。


アイツがまた、俺に光を見せてくれたから。

光へと導いてくれたから。

一緒にいる事が・・・ただただ楽しかったから・・・


人ってェのは、光を知っちまうと闇を恐れる・・・そんな生きモンだ。


お前を知らなければ・・・俺はこんなにも、脆く弱くなる事なんざなかったはずだ。

あの人だけを見据えて歩いていけたはずだ。

・・・過ぎた事を悔いても仕方がねぇ。

こんなくだらねぇ事を考えるなんざ、らしくねぇじゃねぇか。


俺は・・・そう。そうだ。

壊すだけだ。この腐った世界を―――。



                                         ――続く