辰馬誕生日記念(出遅れ) 坂高小説 | じゃすとどぅーいっと!

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≪注意≫

BL作品ですので、苦手な方はバックブラウザ推奨です。

また、激しく捏造されたお話となっておりますので、閲覧の際は十分お気をつけくださいまし。

苦情は受け付けません。悪しからず。


前作はコチラから⇒闇夜の虫は光に集う (壱)
           闇夜の虫は光に集う (弐)

            闇夜の虫は光に集う (参)


    

闇夜の虫は光に集う (肆)


その日の夜半。

万斉から祭りでの成果の報告を受けていると、部屋の外からまた子の声が聞こえてきた。


「ちょ、何なんスかアンタ!勝手に入らないでくださいッス!」


顔を見合わせると、万斉はスッと立ち上がり襖を開けた。


「騒々しい。何かあったでござるか?」


「何か怪しい奴が勝手に・・・」


「だぁから言うちょるじゃろう!ワシは晋助に用があるんじゃ。・・・ま、お嬢ちゃん遊んでくれるんなら、話は別じゃがのう?」


「どこ触ってるッスか!やめてくださいッス!晋助様ぁ~!」


「晋助に・・・用?」


見ずともわかるその声に顔を顰めていると、部屋の入り口で外を覗いていた万斉が振り返った。


「・・・生憎、晋助は仕事中でござる。日を改めて来るといい。」


「ほぉ・・・仕事中・・・。じゃが、ワシも仕事の話をしに来たんじゃ。」


「仕事の話・・・?」


「おー、すまんすまん。ワシは坂本辰馬っちゅうモンじゃ。快援隊って貿易船の社長をしちょるんじゃが。」


「主が快援隊の・・・」


「知っちょったがか。」


「・・・で、その快援隊の社長が直々に出向いて、何の話でござるか?」


「続きは酒でも飲みながらじゃ。晋助、邪魔するぜよー。」


万斉の横から顔を覗かせた辰馬は、不恰好なサングラスに派手な赤いジャケットを羽織っていて、昔の面影は薄れていた。


「・・・・・・何しに来た。」


「おまんらに有益な情報を持ってきたんじゃ。そんなに警戒せんでもいいきに。」


「有益・・・?」


「まぁまぁ、とりあえず酒じゃ!お嬢ちゃん、悪いが杯を持ってきてくれんかの?」


「なっ!アンタに命令される覚えはないッス!」


「・・・また子。」


「晋助様・・・わかったッス。」


「いいのう、可愛い部下がおって。ワシの部下は頼りにはなるんじゃが、はちきんじゃき、敵わん。」


「・・・何でここまで来やがった。」


「随分な言い方じゃのう?昨日おまんが話も聞かずに帰ってしまったき、伝えられんかったからワシの方から出向いてやったっちゅーに。」


「・・・昨日?」


万斉の顔が険しくなり、俺の方へと視線を向けてくる。

俺があんな状態で帰ってきた原因がコイツにあると踏んだのだろう。


その時ちょうど、また子が杯を持って戻ってきた。


「すまんのう。・・・じゃ、乾杯ぜよ!」


杯を寄せた辰馬を見遣るが、いつもと変わった様子はなく、俺が杯を合わせるのを黙って待っていた。


カツンと杯をぶつけると、口元を緩ませ酒を煽る。


「・・・で、話は何だ。」


「おぉ。実はの・・・」


話の内容は、対戦艦用機械機動兵器を作っていると言う情報を聞き、そういうモンを作るのに優れている星から輸入したパーツの売買についてだった。


「ま、詳しい事は明日ワシの部下から聞いてくれ。」


「了解したでござる。」


警戒していたまた子や万斉は、まともな内容とわかると普通に接していたようだが・・・俺は終始その警戒を解く事はしなかった。


「じゃ、ここからは昔馴染み同士で飲むとするか。・・・のう、晋助?」


「・・・帰れ。」


「何じゃ冷たいのう。久々に昔話でも・・・」


「帰れ。」


素っ気無く言うと、躙り寄ってきた辰馬との間に万斉が割って入った。


「悪いが、まだ仕事が残っているでござる。今日のところは、これでお引取り願いたい。」


サングラスに隠れていて、辰馬がどんな目で万斉を見ているのかはわからねぇ。

だが、怒っているようにも残念がっているようにも見えなかった。


「そうか・・・・・・じゃ、また来るぜよ。」


辰馬はそれ以上何も言わず、スッと立ち上がると、踵を返して部屋を出ていった。




また子も部屋に戻り、万斉と俺だけが部屋に残された。


話すでもなく、三味線を弾くでもなく・・・ただ酒を煽る。

そんな状態がしばらく続いた後、万斉が口を開いた。


「昨日・・・あの男に会っていたでござるな。」


「・・・・・・」


「あの血は、あの男のものでも晋助のものでもない。主らの関係は・・・」


「万斉。」


「・・・何でござる?」


「昨日の続きだ。」


「・・・・・・」


「気がノらねぇ、か?」


「いや・・・」


誘うように首に手を回すと、戸惑いながらも身体を支える大きな手。

口唇を重ねると、どちらのものともわからない酒の味がする。


絡み合う舌の感覚に酔いしれながらも、遠のいていく意識の中、俺の頭を占領するのは・・・あの男ただ一人―――。


まるで、蜘蛛の巣に絡めとられた蝶の様な・・・

もがく程に雁字搦めになっていくこの様を、アイツはきっと舌なめずりしながら見ているのだろう。


俺は、今更ながらに気付かされた。

アイツは・・・坂本辰馬と言う男は、光なんて神々しいもんじゃねぇ。


集まってくる虫を標的にして、獲物がかかるのを、虎視眈々と狙っている・・・光の傍に巣食う蜘蛛。


「晋助・・・」


「・・・・・・ん」


「何を考えている・・・?」


「・・・そんな事気にしてる暇があるなら、もっと俺を愉しませろ・・・」


万斉は妙に勘の鋭いところがあって厄介だ。

だが、それを見込んでコイツを選んだ。

だから、万斉はそれ以上踏み込んではこない。

そう・・・これでいい。

このくらいの距離を保つのがいい。

アイツの様に、近づき過ぎれば・・・


そんな事を考えていた時だった。

静まり返った廊下から、物音が聞こえた。


この時間は、誰一人としてこの部屋の前を通る事を禁じている。

物音が聞こえる訳がない。


万斉の動きがピタリと止まり、襖の方へと顔を向ける。

俺も同じ様に、襖の方を見遣った。


「・・・誰かいるでござるか?」


その問に、返ってくる声は聞こえない。


手早く身支度を整えた万斉が襖を開けると・・・

そこに立っていた人物の顔を見て、絶句した。


「坂本殿・・・?」


「邪魔してしもうたかの?」


「いや・・・何か用でも?」


「おぉ。忘れ物、があったんじゃ。」


「忘れ物?」


「すまんが、ちょっと席を外してもらえんがか?」


辰馬の言葉に、万斉は視線をコッチへ向けた。


「・・・・・・万斉、部屋に戻れ。」


「・・・わかった。では、坂本殿・・・失礼いたす。」


「すまんの。」

万斉が去った後の部屋で、辰馬は何も喋らずに酒を口に運んでいた。

「辰・・・」


「晋助。おまん、その怪我どうしたんじゃ?」


サングラスの上から覗く視線が、左目の包帯を捉えていた。


「・・・何でもねぇ。お前には関係ねぇよ。」


「最近か?」


「・・・もう忘れた。」


「そうか。」


わかってて、あえて聞いたような口ぶりだった。

大方、銀時やヅラから聞いてたんじゃないかと思う。


「・・・忘れ物って、何なんだ?」


「ああ・・・・・・コレじゃ。」


俯いていた顎に手をかけ、クイッと上を向かせられたと同時に、懐かしい感覚が口唇を覆う。


何が起こったのかわからず、少しの間されるがままになっていたが、割り込んでくる舌にようやく我に返った。


辰馬の胸を強く押し返すと、ニヤリと笑う顔が見えた。


「・・・何の真似だ。」


激しく動揺していたが、それを覚られぬ様に睨み付けた。


「変わっちょらんのう。」


ヤツの身体を突き放し、行き場もなく宙を彷徨っていた手を、辰馬は優しく包み込んだ。


「おまんの手は、いつも冷たい。」


「離せ。」


引き抜こうとすると、今度はしっかりと摑まれる。


「ワシは、随分と嫌われてしまったようじゃの。」


まるで西洋の騎士でも気取るかの様に、手の甲にソッと口付け、そのままの体勢から俺の顔を見上げた。


「っ・・・!」


その視線に、虚勢を張っていた俺の心が脆くも崩れ落ちた。


然程、力も入れずに腕を引かれただけだが、俺の身体は辰馬の胸元へと納まっていた。

ずっとそうしたかったと言わんばかりに・・・


背中に回された手が後頭部へと移動し、左目の包帯を解いていく。


この傷は、今まで誰にも見せた事はない。

万斉にも、この包帯の下がどうなっているのかは話していない。


「深い・・・傷、じゃの・・・」


「大した事ねぇよ・・・」


「そう、か。」


傷口を癒す様に口付けられた箇所が、ジンジンと痺れてくる。


「たつ・・・ま・・・」


離れまいと。離すまいと。

しがみついた俺に、辰馬は笑って応えた。


「晋助、大丈夫じゃ。ワシはおまんの傍におるきに・・・」



                                         ――続く