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Promise 【Ⅱ】
急遽行われる事になった飲み比べ対決。
別に何か言うことを聞かせたい訳ではなかったけど、言うことを聞かせられるのは癪に障るから負けたくはない。
そもそも、この四人が言うことなんてまともなモンじゃないだろうし・・・
周りでは、飲み比べに参加していない連中が誰が勝つかを予想して、賭け事までし始めた。
そこでの一番人気は、文句なしでヅラ。
確かに、この中で一番お酒が強いのはヅラだと思う。
そもそも、この提案をしたのもヅラだ。
本人も自信があってのことなんだろう。
だけど・・・私はまだ、本領を彼らに見せたことはない。
・・・と言うか、私自身、限界まで飲んだことがないので、どこまで飲めるのか・・・酔ったらどうなるのかなんて全然わからないのだ。
今回は、それを彼らに見せ付けてやろうと思う。
“必勝”の二文字をスローガンに掲げた私は、グッと拳を握り締めた。
「よし。じゃあ、始めるか。」
その声と共に顔を見合わせた私たちは、カツンと杯をぶつけ合い注がれた酒をグイッと飲み干す。
もちろん、それくらいじゃ皆まだまだ余裕の表情。
二杯目、三杯目・・・と杯を傾ける。
だが・・・何杯目を過ぎた頃だろうか。
最初に雲行きが怪しくなったのは銀ちゃんだった。
「銀時。お前、顔が真っ赤じゃねぇか。」
「あ~?だぁ~からんだってんだぁ?そう言うおめぇだ・・・って赤ぇじゃねぇか・・・」
「呂律も回らなくなってきてるようだしな。」
「るせぇ・・・よっ・・・!」
「こりゃ、やっぱ最初に潰れるんは銀時か。」
皆それなりに顔が赤くなったりはしているものの、銀ちゃんのそれは明らかに重症だ。
ま、元々相手になんかしてなかったんだけど。
そんな事を考えているうちに、銀ちゃんはあえなく撃沈。
近くにいた連中に、トイレへと連行されたのだった。
「ふっ。アイツはほんとに張り合い甲斐がない奴だな。」
「人数は多い方が盛り上がるし、いいんじゃないのー。」
「そう言うお前も、そろそろヤバイんじゃねぇのか?」
「な訳ないじゃん。少なくとも、晋ちゃんには負けませんー。」
「だっ!だから、その呼び方やめろって言ってんだろ!」
「あはははは!まぁまぁ、そう喧嘩せんと。」
いがみ合っていた私たちの間に座った辰馬に酌してもらい、その酒を飲み干すと、晋助も負けじと杯を空にする。
「おぉ。いい飲みっぷりじゃ!こりゃ、楽しみじゃのう!あはははは!」
再び盛り上がりを見せた飲み比べ対決は、次に辰馬が酔い潰れるまで、賑やかなものとなった。
夜もかなり更け・・・
日付も変わり、二十四日のクリスマスイブ。
周りで囃し立てていた連中も、既に大半が夢の中。
トイレで散々もどしてきたであろう銀ちゃんと辰馬も、今は気持ちよさそうに眠っている。
今目の前にいるのは、平然とお酒を飲んでいるヅラと、意地だけで現状を保っている様子の晋助だけ。
残りの数名は、見回りの為に表へと出て行った。
「ヅラ、やっぱお酒強いね・・・」
酔ったと言うより、眠気が強くなってきた私は、トローンとした目でヅラを見ながら口を開いた。
「ふっ。まぁ、貴様らよりは強いだろうな。」
「ズルイ・・・」
「・・・っは・・・・・・俺は・・・まだまだいける・・・ぜ?」
「高杉。無理はせぬがいい。二日酔いになっても知らんぞ。」
「なる訳ねぇだろ・・・・・・俺より、コイツに言った・・・方がいいんじゃねぇか・・・?」
「酔ってないもん。眠いだけだもん。」
「どうだかな・・・」
「そんな軽口がたたけるのなら、まだ大丈夫だな。さ、飲め。」
ヅラが差し出した酒瓶に応えるように杯を出すと、なみなみと酒が注がれた。
ボーっとした頭でそれを口に運ぶと、同じ様に酌してもらっていた晋助の杯がボトリと落ちた。
「・・・・・・ZZZ」
「・・・眠ったか。」
「何だ。自分だって眠かったんじゃん・・・」
「高杉にしては、よくもった方じゃないか?」
「あはは。そうかも。」
「ま、明日は二日酔いで起きれぬだろうがな。」
「だね。・・・さぁて。残るはヅラか。」
「俺は、三人のようにはいかんぞ?」
「私だって、三人のようにはいかないよ?」
顔を見合わせて笑うと、ヅラとの一騎打ちが始まった。
その勝負に決着が付いたのは、丑三つ時を過ぎた頃だと思う。
二人とも、ほぼ呂律が回らなくなっていて、いつ潰れてもおかしくない状態だった。
「ヅ~ラァ~、ま~ら潰れらいろ~?」
「まだまdくぁwせdrftgyふじこlp・・・」
「ん~?何らっれ?」
会話にならない会話をしながら、酒を酌み交わしていた時・・・
ヅラの体がグラッと揺れたかと思うと、そのまま後ろに倒れるようにして眠ってしまった。
「アレェ~?ヅラァ?」
声をかけてみたけど、戦の疲れと大量に飲んだお酒のせいで、全く起きる気配はない。
・・・ということは、この勝負は私の勝ちだ!
虚ろな意識の中、勝利の余韻を噛み締める間もなく・・・既に限界を突破していた眠気に負けて、私も眠りについたのだった。
翌朝。
先に戦へと出向く連中が戦場へと向かう時刻。
まだお酒の残る身体と、眠い目を擦りながら見送ると、皆、笑顔で「行ってくる!」と告げ宿舎を後にした。
昨晩、飲み比べをしていた四人は、今日は昼からの出陣。
「もう少し寝てられるかな・・・」などと考えた私は、二時間ほど眠る事にした。
それから・・・どのくらい経ったのだろう。
急に外が騒がしくなって、戦に向かったはずの一人が血相変えて飛び込んできた。
「オイ!起きろ!」
「んぁ~?何だ騒々しいな・・・」
「どうした。何かあったのか?」
「やべぇよ!大変なんだよ!」
「まずは落ち着かんか。ホレ、水じゃ。」
辰馬に渡されたコップの水を一息に飲みほすと、大きく深呼吸を一回して、言葉を続けた。
「今朝、俺と一緒に戦に行った連中のほとんどが・・・敵に、やられちまった・・・」
「嘘・・・でしょ・・・?」
脚の力が抜けてしゃがみ込みそうになるのを、銀ちゃんが支えてくれる。
「もっと詳しく話せ。」
「あぁ。・・・まぁ、最初はいつもみたいに戦ってたんだけどよ・・・いきなりでっかい宇宙船が現れたかと思ったら、見たこともねぇ化けもんみてぇな天人が降りてきてよ・・・そいつに・・・・・・」
「そいつって・・・たった一人の天人にやられたってぇのか?」
「・・・そうだ。しかも、どうやら奴はこの近くまで来ているみてぇなんだ。」
「何!?それは本当か?・・・・・・晋助、急いで計画を練り直すぞ。」
「そんな時間もねぇかもしれねぇが・・・・・・とりあえず、お前らは外の警戒を怠るな。いいな!」
晋助とヅラは、部屋に篭って今後の作戦を考えている。
銀ちゃんや辰馬、その他の連中は宿舎の周辺を見張りに行った。
それぞれが与えられた指示を受け行動する中、どうしたらいいのかわからずに、私は途方に暮れてしまっていた。
何か私に出来ることを・・・
そう考えてはみたものの、作戦を考えられる程の頭も、天人を撃退する程の腕も持ち合わせていない。
そんな私が、唯一出来ることと言えば・・・
台所へと向かい、長くなるであろう戦に備えてたくさんの食料の用意と・・・怪我をして戻ってきた皆をいつでも手当て出来るように、薬や包帯などを準備すること。
正直、こんなことが役に立つかはわからない。
だけど、何もしないでいるよりはいいと思った。
そうこうしているうちに、外から大きな声が聞こえてくる。
「高杉~!ヅラ~!敵さんのお出ましじゃ~!」
その声に答える様に、閉ざされていた襖が開いた。
いい作戦が思いついたのか、それとも何も浮かばなかったのか・・・
二人の表情から、それを読み取ることは出来ない。
おずおずと口を開こうとした私に、ヅラが笑って「大丈夫だ」と言ってくれた。
いつもは顔を合わせれば喧嘩を売ってくる晋助も、何も言わずに頭をガシガシと撫でてくれる。
宿舎に戻ってきた銀ちゃんは、おにぎりの入った包みと、小さなチョコレートを目敏く見つけると、「サンキュ」と一言だけ言って、懐にしまった。
そして、銀ちゃんと一緒に戻って来た辰馬に、「ワシらに命令は?」と問われた。
一瞬、何のことだかわからなかったけど・・・四人の顔を見ていたら、昨晩の一件を思い出した。
「あ・・・そう、だよね。私が勝ったんだもんね。・・・うん、じゃあ・・・・・・」
あまり長く考えている時間はない。
と言うよりも、今、彼らに伝えたい言葉は一つしかない。
「・・・絶対。絶対に・・・・・・ここに、帰ってきて。誰一人欠けることなく・・・皆、揃って・・・」
泣きそうになるのをグッと堪えながらそう言うと、四人は笑って答えてくれた。
「当たり前じゃ!今日も明日も、パーティーするんじゃき!準備、頼んだぜよ!」
「あ、ケーキの準備も忘れんなよ。俺ァ、それだけを楽しみにしてんだから。」
「当然だろ。お前に負けたまま引き下がる訳にはいかねぇからな。」
「俺も、次こそは負けぬぞ。・・・それじゃ、行ってくる。」
次々と踵を返す四人の背中を見送りながら、「どうか無事に帰ってきますように」と、それだけを祈り続けた。
~To be continued~