京次郎誕生日記念小説 (中篇) | じゃすとどぅーいっと!

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京次郎誕生日記念小説 王者の風格 (前篇)  の続篇です。



王者の風格 (中篇)



すっかり京次郎さんとの会話を楽しんでいた私は、いつの間にか夕暮れ時になっていた事にも気付かなかった。


迎えの車が来たと聞いて、少し名残惜しい気もしながら・・・

京次郎さんに見送られて魔死呂威組の門をくぐる。


「あの・・・また来てもいいですか?」


「お?もちろんじゃ。いつでも来てくれてかまわんけぇ。」


「はい!また来ます!」


車に乗り込み手を振ると、少しだけ面映げに手を振り返してくれる。


車が動き出してから何度か振り返ってみたが、京次郎さんは車が見えなくなるまで見送ってくれていたようだった。


「いい雰囲気でしたね?」


ルームミラーに、ニヤけた舎弟さんの顔が映る。


「まぁね~。」


「お嬢、おめでとうございます!俺は嬉しいです!」


それを聞いてハッとした。


そう言えば、これってお見合いだったんだっけ・・・


家族以外で、歳が近く、素性も気にせず話が出来る人間なんて今までいなかったから、友達が出来たような気分で話してしまっていた。


・・・確かに、京次郎さんと話すのは、すごく楽しかったと思う。

顔も性格も、好みと言えば好みだし・・・

好きか嫌いかと聞かれれば、間違いなく“好き”と答えられる。


だけど・・・結婚となれば話は別。

この結婚は、軽いノリや心構えでしちゃいけない。

背負わなきゃならない物は、重くて大きいのだ。


何だか京次郎さんに悪い事しちゃったかな・・・


「今日は赤飯にしましょう!」


なんて言ってる舎弟さんを見て、更に罪悪感に苛まれてしまうのだった。






お見合いから数日後。

“野暮用”の一件以来、少しバタバタとしていた家の中が、やっと落ち着いてきた感じがする。


する事もなく、部屋でゴロゴロしていた私の元に、父と兄がやってきた。


「さと、入るぞ。」


「ん・・・あぁ、お兄ちゃん。・・・と、お父さんも?どうしたの、二人して?」


「この前の件じゃ。」


「この前って・・・」


嫌な予感がした。


「見合いの件に決まっとるじゃろう!」


「どうだった、京次郎は。」


「え・・・えっと・・・・・・」


「いい男であろう?」


「うん、まぁ・・・って、お兄ちゃんも会った事あるの?」


「あぁ。実は昔からの馴染みでな。俺が親父に紹介した。」


「そうだったんだ・・・」


それを聞いて、ますます断りにくい状態になった。


「あいつになら、安心してお前を任せられると思っているのだが。」


「あー・・・っとさぁ・・・」


「式は一ヶ月後じゃ!ド派手にやってやるから、楽しみにしとれ!」


「それはどうも・・・・・・って、はぁぁぁぁぁ!?ちょっ・・・何言ってんの!?私まだ、結婚するだなんて一言も言ってないよ!?」


「照れんでもいいわい!いい雰囲気じゃったと聞いておる。京次郎の方にも、既に返事はしてあるんじゃ。」


「や、ちょっと待ってって!私は、何て言うか・・・その・・・」


「白無垢は先祖代々のがあるから・・・黒引き振袖を急いで仕立ててもらわんとなぁ。小太郎、幾松はいるか?」


「部屋にいるはずだ。呼んでこよう。」


「だーかーらー!人の話聞いてよ!」


二人には私の声なんて全く聞こえていないのか・・・

当事者を放っておいて、勝手に盛り上がっている。


兄に呼ばれて部屋を訪れた幾松さんは、その様子を見てお腹を抱えて笑った。




「ね、酷いと思わない?」


「う~ん、そうねぇ・・・」


ズラッと並べられた反物を前に、幾松さんに愚痴を零す。

つい先日も、全く同じ様な事をした気がするは、錯覚じゃない。


「いくらなんでも勝手過ぎるよ!私の事なんて、まるっきり無視なんだもん。」


「ふふ。あれでもお義父さんなりに、さとちゃんの事心配してるのよ。」


「どこが!?」


「よく私のところに相談に来てたんだから。」


「・・・相談?」


「この家柄のせいで、まともな人付き合いをさせてあげられなかったから、結婚する相手もなかなか見つからないんじゃないかって。」


「んー・・・まぁ、確かにそうかもしれないけど。別にそれだけのせいじゃないし。」


「お義父さんがあまりにも悩んでいたから、見かねたあの人が京次郎さんを紹介したんだって。」


「そうなんだ・・・」


「そしたら、予想以上に京次郎さんの事気に入っちゃったみたいでね?『組長じゃなかったら、絶対婿として迎えてた!』なんて言ってたわよ。」


「あはは。・・・でも、もし京次郎さんが組長さんじゃなかったら・・・私も、この話すんなり受けてたかもしれない・・・かな。」


「脈ありって事かしら?」


「だって、いい人だとは思ったもん。でも・・・組長さんの奥さんなんて、私には荷が重過ぎるよ・・・」


「ねぇ、さとちゃん?」


「ん?」


「嫁いで行っても・・・さとちゃんは一人じゃないのよ。」


「え・・・」


「お義父さんも、小太郎さんも、須佐之男組の皆も・・・もちろん私も。ずっとずっと、さとちゃんの味方なの。」


「・・・・・・」


「それに、誰よりも心強い味方がいるでしょ?」


「心強い味方・・・?」


「そう。この先、ずっと一緒に歩んでいく人が出来るなんて、これ以上頼もしい事はないんじゃない?」


「あ・・・」


「さとちゃん一人が背負い込むんじゃなくて、お互いがお互いを支え合って生きていくの。だから、さとちゃんが不安に思う事なんてないのよ。」


その言葉が私の気持ちを軽くしていく。

経験者であろう幾松さんだからこそ、言葉には説得力があった。


「・・・・・・そう・・・だね。幾松さん、ありがとう・・・」


「どういたしまして。・・・じゃ、一生に一度の晴れ舞台を飾る着物、選んじゃいましょ!」


「うん!」


こうして、私は魔死呂威組に嫁ぐ事を決めたのだった。






月日が経つのは早いもので。

あっという間に結婚式当日を迎える。


京次郎さんとは、お見合いしてから今日まで、数える程しか会っていない。

それは、京次郎さんが忙しい人なのだから仕方がない事。


最後に会ったのは、二週間くらい前だったかな・・・

とぼんやり考えながら、着付けの済んだ私は、部屋で一人待機していた。


父や兄や幾松さんは、来客の対応で忙しいのだろう。

さっき少しだけ顔を出したっきり、戻ってこなくなってしまった。


「あー、暇だなぁ・・・」


ポツリと口にした時、


(トントン)


と襖がノックされた。


「はーい?」


「ワシじゃ。入ってもいいかのう?」


「あ・・・うん。どうぞ・・・」


久しぶりのご対面に、少しばかり緊張していた。

それを覚られない様にと俯くと、綿帽子がそれを手伝ってくれる。


「白無垢に綿帽子。花嫁って感じじゃのう。」


「い、一応花嫁ですから・・・」


「ははは!一応は余計じゃ!よう似合うとるわ。」


不意打ちの褒め言葉にドキリとしつつ・・・

お礼を言うと、京次郎さんが近づいてきた。


「のう?」


「な、何?」


「何でさっきからこっち見んのじゃ?」


「別にっ!そんな事・・・ない・・・よ・・・?」


慌てた返事に、クスリと笑う声が聞こえた。


「さとは・・・綿帽子が何でそんな形しとるんか知っとるかのう?」


「・・・へ?」


「挙式が済むまで新郎以外に顔を見せないようにする為らしい。」


「そうなんだ・・・」


「じゃけぇ、ワシには見せてくれてもいいじゃろ?」


スッと伸びてきた手が、頬に触れた。

ゆっくりと顔を上げると、紋付袴に、いつもよりしっかりと撫で付けられた髪の京次郎さんが目に入る。


「京次郎さんも・・・よく似合ってます。」


「何じゃ、急に?・・・ま、褒められるんは悪い気せんけぇ・・・ありがとうのう。」


浮かべた笑顔には、あの皺がなくて・・・つい、ボーっと見惚れてしまった。


「・・・さと?」


「っぁ、何?」


「いや・・・・・・こんな事、今更なんじゃけどのう?」


「ん?」


「今まで直接言った事なかったけぇ・・・式の前に言っておきたいんじゃ。」


改まった様子で話し始めた京次郎さんに、ドキドキと鼓動が高鳴っていく。


「これから、さとの事はワシが護る。何があっても、必ずじゃ。じゃけぇ・・・ワシの傍で、ワシの事支えとってくれ。ワシは二人でこの道を歩いて行きたいんじゃ。」


「京次郎さん・・・・・・私も、同じ気持ちです。」


「大事にするけぇの。」


着物が着崩れない様に、そっと抱きしめてくれる。


この人とならば、私は安心して歩んでいける・・・

そう確信するには十分過ぎる程、腕から伝わる京次郎さんの気持ちは、すごくすごく温かかった。



                                          ~続~



                  京次郎誕生日記念小説 王者の風格 (後篇)  に続きます。