京次郎誕生日記念小説 【王者の風格 (中篇) 】 の続篇です。
微妙にR16くらいの内容となっておりますので、閲覧の際はご注意ください。
王者の風格 (後篇)
式を無事に済ませた私たちは、魔死呂威組へと帰ってきた。
今日から私の住む場所になるんだと思うと、この妙な組の名が書かれた門にも愛着が湧いてくる。
門を見上げていた私の手を取り、京次郎さんはゆっくりと歩を進める。
それに遅れない様に、私も足を踏み出した。
これからの出来事を考えると、緊張と好奇心で胸がいっぱいになった。
離れにある京次郎さんの部屋に着くと、少しだけホッとした。
だけど、二人っきりの空間にはまだ慣れていない。
「きょ、京次郎さん・・・」
少しだけ声が上擦った。
「何じゃ?」
「えっと・・・」
声をかけたはいいが、話のネタが思い浮かばない。
ちょっと焦りつつも、目に付いた写真を指差してみた。
「これ・・・京次郎さん?」
「あ?おぉ、そうじゃ。ワシと叔父貴と若じゃ。」
「あ・・・先代さん?」
「おう。ワシの親代わりみたいなもんじゃけぇ、叔父貴にはほんとに感謝しとるんじゃ。」
「そっか・・・」
“若”と呼ばれた人の事を聞くのは、少し躊躇われた。
だって、京次郎さんが跡目を継いだって事は・・・
触れちゃいけないと言うよりも、京次郎さんが話してくれるまで待っていようと思った。
雪洞だけの頼りない明かりと、訪れた静寂が、私の鼓動を早めていく。
「なぁ~に、考えとるんじゃ?」
隣に座っていた京次郎さんが、急にもたれかかってきたので、バランスを崩して倒れこんでしまった。
「ちょ、京次郎さん!」
覆い被さる様な体勢で胸の上に頭を乗せたまま、除けてくれる気配はない。
「さと。」
「な・・・何?」
「心臓の音、うるさい。」
その言葉に、更に拍車がかかる。
「ちょ、ヤダ!除けてよ~!」
「はははは!さとは可愛いのう。」
そういう事言わないでぇぇぇ!は言葉にならず・・・とりあえず身を捩って、今の状態から脱しようと試みる。
・・・が、それを邪魔するかの様に両手首を押さえつけられてしまい、余計に身動きが取れなくなった。
「きょ、京次郎さん・・・痛いよ、離して?」
「さとはワシのもんじゃけぇ・・・もう逃がさん。」
もう限界だと思った。
今まで生きてきて、こんなにも心臓が痛くなった事はない。
「きょ・・・じろ・・・・・さ・・・」
暗がりに見えるその顔は、少しずつ近づいてきて・・・
そっと口唇が触れ合った。
軽く・・・だけど、何度も何度も降る口付けは、段々と深くなり。
漏れる吐息は甘さを増していく。
「んっ・・・・・・あ・・・」
「さと・・・好きじゃ・・・・・・」
「んんっ・・・・・・たし・・・も・・・」
熱を帯びた口唇は、場所をずらしながら降下し・・・
手首を押さえつけていた手は、慣れた手つきで帯を解く。
「黒引き振袖も良かったが・・・今の姿が、一番艶やかじゃのう・・・」
いつの間にか露になっていた肌を見下ろし、京次郎さんが悪戯っぽく微笑んだ。
「ばっ・・・!何言って・・・!」
「本当の事じゃけぇ、仕方ないじゃろ・・・?」
吸い付くように口付けられた場所から、どんどん火照っていくのがわかる。
私の反応を楽しむかの様に。
私の快楽を探してあてるかの様に。
じわりじわりと愛でられた身体は、治まる事を知らない。
「きょ・・・じろぉさ・・・」
「ワシも限界じゃ・・・」
さっきまでの事が嘘の様に荒々しく攻め立てられ、理性と言う名の箍はあっけなく外された。
「や・・・・・・あっ・・・」
「さとの・・・ナカを押し広げて・・・いくんが・・・・・・堪らん・・・」
「んっ・・・・・・あ・・・つい・・・」
「こんなにヨダレ垂らして・・・見かけによらず淫乱じゃのう・・・?」
「だっ・・・て・・・・・・きょ・・・じろぉ・・・さんのが・・・・・・あっ・・・!」
「さとのこんな姿・・・ワシの他に見た奴がいると思うと妬けてしまうわ・・・」
「ちがっ・・・・・・これは・・・きょ・・・じろさ・・・だから・・・」
「っく・・・・・・あんまり悦ばせんでほしいのう・・・」
「あっ・・・・・・もう・・・イっ・・・」
「おぉ・・・ワシは気にせんと・・・好きなだけ・・・」
「や・・・・・・っしょに・・・」
「わかったけぇ・・・そんなに締めたら・・・・・・ワシの方が先に・・・っく・・・!」
「あ・・・ああっ・・・・・・!」
その後、体勢を変えて二回程繰り返された行為のせいで、すっかり腰が立たなくなってしまったのは言うまでもなく。
初夜からこんなに激しい経験をしてしまった私は、これからの夫婦生活に、若干の不安を感じてみたりはしたものの・・・心のどこかでそれを愉しんでいる自分もいる訳で・・・
京次郎さんとならば大丈夫だ・・・と改めて思わされたのだった。
腕枕をしながら髪を梳いてくれる手の優しさに、夢見心地で見上げた京次郎さんの顔は、疲れた様子もなく・・・下手すれば、もう一回戦と言われちゃいそうな気がしないでもないけど、乱れて下りた前髪のお蔭で、少し幼い顔立ちに見えた。
いつもの京次郎さんもカッコイイけど、私の前ではこんな京次郎さんでいて欲しいな・・・と思うのは、ちょっとした独占欲なのかもしれない。
ゴロンと寝返りを打ち、背中をピッタリとくっつけると、後ろからギュッと包み込んでくれる。
その時、左腕に巻きつくようにして彫られた龍の刺青が目に付いた。
「ねぇ、京次郎さん?」
「何じゃ?」
「この刺青、いつ彫ったの?」
「いつじゃったかのう?昔の事で、忘れてしまったわ。」
「そっか。」
何か意味はあるんだと思うけど・・・追求はしない。
京次郎さんが話してくれた時に、聞いてあげよう・・・
「・・・新しく彫ろうかのう?」
「へ?何で?」
「いや・・・門出じゃけぇ、その記念にのう。」
「・・・・・・ね、刺青彫るのってどのくらい痛い?」
「あ?そうじゃのう・・・傷口を針で擦られる様な感覚・・・か。」
「うわ・・・痛そう・・・・・・」
「ははは。まぁ、人それぞれ感じ方は違うけぇの。」
「ふ~ん。・・・・・・私も、彫ってもらおうかな?怖いけど・・・」
「ダメじゃ。お前の柔肌を傷つけるんは、ワシが許さんわ。」
「えー、いいじゃん。ほら、お揃いのとかにしてさ?」
「ダメじゃダメじゃ。」
「・・・私も、京次郎さんとの門出の記念が欲しい。」
「さと・・・」
「ね、いいでしょ・・・?」
「・・・・・・はぁ。ったく、しょうがないのう。組長さんに怒られても知らんけぇの。」
「やった♪・・・ねぇねぇ、何にする?」
「そうじゃのう・・・何か彫りたいもんあるか?」
「う~ん・・・京次郎さんは既に龍がいるから、それに合うヤツにしようよ!」
「合うヤツ・・・定番は花じゃのう。」
「花かぁ・・・・・・いいね!大輪の花がいいなぁ・・・」
「龍に合わせるんは菊が多いのう。虎なら竹、唐獅子なら牡丹・・・」
「あ!牡丹がいい!牡丹にしようよ!」
「ワシはかまわんが・・・いいんか?」
「百花の王だもん、京次郎さんに相応しいよ!」
「そうかのう・・・?ま、いずれは須佐之男組を抑えて、この魔死呂威組を頂点に立たせたいとは思っとるけどのう。」
「あはは。じゃあ、牡丹に決定ー!」
そして翌日、京次郎さんとお揃いの刺青を彫ってもらった。
かなり痛くて泣きそうだったけど、京次郎さんがずっと傍にいてくれたお蔭で、何とか無事に終える事が出来た。
これからは、魔死呂威組と・・・この大輪の牡丹を背負って、京次郎さんと共に歩んでいくんだ。
「魔死呂威組を頂点に立たせたい」と冗談っぽく言っていた京次郎さんだったけど・・・この人なら、ほんとにそれが出来そうな気がする。
百花の王である牡丹の花の様に、王者の風格を纏った京次郎さんなら・・・
父や兄には悪いけど・・・いつか、そんな日が来るように。
何があっても護ると言ってくれた京次郎さんを信じて・・・誰よりも一番近い場所で、京次郎さんを支えていく。
私に出来る精一杯を、京次郎さんに捧げよう。
背中に咲いた真っ赤な牡丹に、私は揺るぎない誓いを交わした。
~完~