陸奥誕生日記念小説 【乃亜side】 | じゃすとどぅーいっと!

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陸奥誕生日記念小説 【Prologue】  / 【陸奥side】



誰そ彼 ―たそかれ―



「陸奥ってさ、好きな人とかいないの?」


「・・・興味ないのう。」


この質問をすると、いつも陸奥は顔色一つ変えずに同じ答えを返してくる。


ほんとに興味ないんだな・・・勿体無い。


女の私が見ても見とれてしまうほどの整った顔立ち。

ポーカーフェイスで滅多に見られないが、たまに笑顔になる瞬間は思わずドキっとしてしまう。


性格も、一見サバサバしていて他人に興味なさそうに見えるけど、実は誰よりも周りを気にしていて、人の二手、三手先を見据えて行動する。

だから、クラスの皆や先生方からの信頼も厚い。


そんな人間だから、当然モテる・・・のだけれども。

当の本人は全くその気がないようで、告白してきた人はことごとくフラれている。


まぁ、らしいと言えばらしいんだけど。


でも、ここ最近・・・陸奥の様子がいつもと違う。

何かを考えているのか・・・ボーっとしてる時があったり、切ない表情を見せたり。


悩みがあるなら聞いてあげたいとは思うけど、陸奥が自分から相談してこないって事は、きっと話したくないんだろうし・・・

陸奥が言いたくなるまで待っていようと思っていた。



そんなある日の放課後。

いつものように日誌を書きながら陸奥と話をしていた。


「ねぇ、陸奥~。」


「何じゃ?」


「まだ好きな人出来ないのー?」


陸奥の答えはわかっていた。

だけど、いつか陸奥がこの質問に対して照れを見せてくれる事を期待して質問をする。


「き、興味・・・ない・・・」


・・・ん?今、明らかに動揺してるよね?

マジで?陸奥もついに!?


「・・・そっかぁ~。まだかぁ~。」


「な・・・!何ニヤニヤしちょるんじゃ?」


「べっつにぃ~?」


陸奥はこういう事、絶対言いたがらないよね。

相手が誰なのかすっごい気になるけど・・・しばらく様子見とこ~♪



その日から、陸奥の言動を気にしてみるようになった。


案外、すぐわかっちゃたりして?

例えば、ついつい目で追っちゃう・・・とか。

他の人とは違う態度をとっちゃう・・・とか。

何事にも優秀な陸奥だけど、恋愛に関しては疎そうだし。


・・・ま、そんなベタな展開ある訳ないか。


「陸奥~!ちょうどいいところにおった!」


休み時間、廊下を歩いていると坂本先生が声をかけてきた。


「・・・何じゃ?」


「この前の小テスト、皆に返しておいてもらえんかのう?」


「わかったぜよ。」


「点数の悪かったもんは補習じゃき。」


「えー?先生、私は大丈夫だよね?」


「乃亜は・・・補習じゃ!あはははは!」


「嘘ー!もー、数学嫌いなんだもん!」


「今日の放課後、居残りじゃ。」


「マジで!?陸奥と買い物行こうと思ってたのにー!」


「頑張れば、早く終わるかもしれないのう。」


「うぅ・・・頑張ります・・・」


「あはははは!」


「そういや、陸奥は何点?」


「陸奥は唯一満点じゃ!さすがじゃのー!」


そう言って、笑った先生の手が陸奥の頭を撫でた瞬間・・・


(バサバサッ!)


「ちょ、陸奥!?」


陸奥の持っていたプリントが床に散らばった。


「す、すまん!ちょっとボーっとしちょったぜよ・・・」


「大丈夫?具合悪いとかじゃない?」


「お、おう・・・」


俯いた陸奥の顔を覗き込むと、顔が真っ赤になっていた。


コレって・・・もしかして・・・!?

いやぁ、でも陸奥が坂本先生を選ぶとは思えないしなぁ・・・


「陸奥でもボーっとする事なんてあるんじゃのう。」


「・・・・・・」


「しっかりしてるように見えて、たまに抜けてるとこあるんだよね。」


「完璧な子がどっか抜けてるんは、可愛いぜよ!あはははは!」


「あはは!だよね!だから陸奥ってすごいモテるんだけど、好きな人はいな・・・」


「乃亜!そ、そろそろ授業始まるき・・・行くぜよ。」


「・・・そうだね。んじゃ、先生放課後ねー!」


「おう!プリントたくさん用意しておくきに!」


・・・コレはやっぱ、決定でしょ!

へぇ~・・・陸奥って、こういう人が好みだったんだ。

何か意外~♪

でも、結構いい組み合わせだったりして?


一人ニヤニヤしながら考えていると、陸奥がコッチを見た。


「何笑っちょるんじゃ・・・」


「いやいや。ちょっと考え事♪」


それからの授業は上の空で・・・ずっと陸奥の事を考えていた。


陸奥の事だから、絶対告白なんてしないだろうなぁ。

下手に色々と手を貸すより、しばらく様子見た方がいいのかなぁ?

焦ってる陸奥見てるのも面白いし。

じゃ、とりあえず様子見て・・・坂本先生がどう思ってるのかも、さり気なく聞いてみちゃおうかな~♪






陸奥の様子を見守ると決めてから約1ヶ月。


相変わらず、陸奥は坂本先生の前だといつもとは別人のようになり・・・

たまにボーっとする視線の先を見ると、坂本先生の姿があったり・・・

初々しいと言うか何と言うか。


それなりに見てるのは楽しかったけど・・・いい加減じれったくなってきた。

ここは、親友のために私が一肌脱ぐべきかな。

まずは、坂本先生に探りを・・・


なんてぼんやりと考えながら、掃除を終えた私は陸奥の待つ教室へ急いでいた。


「・・・ぅわっ!」


考え事をしていたせいで、足元に落ちていたペンに気付かず・・・

階段から、足を滑らせて落ちる!


・・・と思った矢先。

後ろからガシッと大きな腕に支えられた。


「・・・!」


とっさの事で何が起きたのかわからず。

呆然とする私に、その腕の主が声をかけた。


「乃亜、大丈夫か?危なかったのう。」


耳元にかかる息が背筋をゾクゾクとさせる。


「坂本先生・・・?」


振り向くと、普段からは想像も付かないような真剣な顔でコッチを見ていた。


ドキドキしていた鼓動が、更に早鐘を打つ。


「まったく、そそっかしかヤツじゃのう!気をつけんといかんぜよ。」


「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・」


お礼を言うと、ニッと笑って頭をポンポンと撫でて階段を下りていった。


坂本先生の姿が見えなくなると、足の力が抜けて階段に座り込んでしまった。

未だに続いているこのドキドキは、驚いたからなのか・・・それとも・・・


さっきから思い出すのは、逞しい腕と優しい声。

そして、あの真剣な顔と可愛い笑顔。


・・・え。マジで?

コレって・・・“恋におちた”ってヤツ?

階段からは落ちなかったけど、恋にはおちた・・・みたいな?

誰がうまい事を言えと・・・いや、全然うまくねぇよ!

て言うか、何?何この気持ち!

ちょっと・・・え・・・マジでェェェ!?


今までにない感情に、一人パニック状態に陥る。

そんな暴走する脳内を止めたのは・・・不意に思い浮かんだ陸奥の顔。


あ・・・陸奥と同じ人好きになっちゃった・・・・・・どうしよ・・・

陸奥の恋を応援したい気持ちはある。

だけど、気持ちを押し殺して・・・無理して笑うのは陸奥に嘘をつく事になる。

でも、陸奥と気まずくなるのは嫌だ・・・

どうすればいい・・・?


しばらく悩んだ後、意を決して陸奥の待つ教室へと向かった。



「乃亜、随分遅かったのう?」


「あ・・・うん。ちょっと掃除が長引いちゃってさぁ。」


「そうか。」


「ごめんね。・・・どこまで書いた?」


「あと半分くらいじゃのう。」


サラサラと日誌にペンを走らせる陸奥の手元を見つめた。

「ねぇ~、陸奥~。」


「何じゃ?」


「坂本先生ってさぁ・・・カッコイイよね!」


これが牽制となるのか、煽りとなるのか・・・

その時の私にはわからなかった。


だけど、私は陸奥に正直な気持ちをぶつける事を決めた。






それから数日後。

相変わらず、坂本先生に対する好意を口にする私とは対照的に・・・

陸奥は悩む事が多くなっていた。


陸奥は優しいから、きっと私に遠慮してるんだよね・・・

やっぱ、失敗だったのかなぁ・・・


数学の授業だと言うのに、あまり気分がのらない。

先生を見つめながら、陸奥の事を考えていた。


「じゃあ、この問題を・・・陸奥!前に出てきてやってみるぜよ!」


スラスラと問題を解く陸奥を見つめていた時、その様子を見つめるもう1人の視線に気がついた。


坂本先生・・・?

今まで見たこともないような優しい表情。

それに、すごく愛おしそうに・・・


もしかして、坂本先生って・・・


「わしの間違いまで見つけるとは、さすがじゃのー!」


そう言いながら陸奥の頭を撫でる姿に、胸が痛んだ。


頭を撫でられた陸奥はと言うと・・・


先生に頭を撫でられた恥ずかしさ。

そして、多分・・・私に対する罪悪感。

その重圧に耐え切れず、教室を出て行ってしまった。


「ワシは、陸奥に何ぞ悪い事でもしたんかのう?」


陸奥がいなくなった後、先生がポツリとつぶやく。


その先生の表情を見て、胸が痛くなった。

すごく辛そうで・・・


あぁ、先生は・・・陸奥の事・・・好きなんだな・・・

そう感じた。


「先生・・・私が見てきますよ。」


席を立ち、ドアに手をかけると先生が近づいてきた。


「お、おう・・・じゃあワシも・・・」


「先生はちゃんと授業続けないとダメでしょ~?」


「じゃけど・・・」


「せんせっ!ちょっと・・・」


廊下に引っ張り出すと、不思議そうにコッチを見遣る。


「何じゃ何じゃ?」


「先生、陸奥の事好きなんだね?」


「・・・!」


驚いた拍子にサングラスがずれ、藍色の瞳が大きく見開かれているのが見えた。


「あはは。・・・先生?陸奥はさ、大丈夫だよ。」


「・・・・・・」


「怒ってる訳でも、嫌がってる訳でもないから。」


「乃亜・・・」


「今まで通り、先生らしく陸奥と接してあげて。」


「お・・・おう。」


「・・・じゃ、陸奥の様子見てくるね。」


「あ、乃亜!」


「ん?」


「あの・・・何で・・・何でワシが陸奥の事を好きじゃってバレたんかのう?もしかして、他の奴らも知って・・・」


困ったような、焦ったような表情を浮かべる先生に、言葉が詰まった。


「・・・・・・」


「乃亜・・・?」


「あ、ごめんごめん。大丈夫だよ。他の人は、多分誰も気付いてないから。」


「じゃあ、何でおまんは・・・」


「・・・先生の事、いつも見てたから・・・かな。」


「え・・・」


「・・・・・・」


「乃亜・・・ワシは・・・その・・・」


「ぷっ!あっははは!」


「何・・・」


「冗談だって!もう、本気にしないでよ~!じゃ、行ってくるね~!」


気持ちを伝える事は出来た。

それだけでもう十分。

結果を期待していた訳じゃないし・・・

コレで、心置きなく陸奥の応援が出来るもんね。


保健室へ行くと・・・意外にも、陸奥はスッキリした顔を見せてくれた。


そっか・・・陸奥、決めたんだ。

な~んだ。私が手を貸す必要もないんじゃん!


その時ズキリと痛んだ胸に、気付かないフリをした。






その日の放課後。

陸奥に話があると言われた時に、気持ちの覚悟は出来ていた。

・・・はずだった。


でも、いざ陸奥の口から話を聞く時になって・・・怖くなった。


坂本先生から想われる陸奥に対する嫉妬の気持ち。

陸奥との関係が気まずくなるんじゃないかと言う不安。


このまま話をさせないように・・・逸らしてしまえば・・・


「早いトコ終わらせて、どっか遊びに行こ♪」


最低だと思った。

親友の真剣な気持ちから逃げるなんて。

でも、怖くてたまらない・・・


「・・・その前に、話したい事があるんじゃ。」


逃げずに向き合ってくれる陸奥の想い。

ここで受け止めなくて、親友と呼べる・・・?


私は、今度こそ覚悟を決めた。



陸奥の正直な想いは、私と似ているところがあってちょっと可笑しかった。

坂本先生の気持ちを知っているだけに、この恋の結末がどうなるのか・・・

それは想像がつく。


「遠慮してないで、先生のとこ行っといで!」


「でも・・・」


「決めたんでしょ?」


「・・・おう。だけど・・・」


だからこれ以上、陸奥に遠慮はして欲しくない。


陸奥、ごめんね。

今だけ・・・嘘をつくことを許してください。


「陸奥が玉砕したら、次は私の番だからね!陸奥は特攻隊長ってことで♪」


陸奥は少しだけ驚いたような表情を浮かべていたが、すぐに優しく笑いかけてくれた。


「乃亜・・・ありがとう。」


「何言ってんの!それは、坂本先生と付き合う事になったら言ってよね~!」


「・・・ありがと。」


「ほら、早く早く!日誌は私が書いて出しておくから。」


バタバタと教室を飛び出した陸奥の背中を見送ると・・・

フッと何かが切れたのを感じた。


あはは・・・やっぱり、私は陸奥が大事なんだ。

坂本先生の事好きだったけど・・・陸奥の方が・・・もっと・・・


誰もいなくなった教室に、涙の落ちる音が響く。


「でも・・・先生の事、ほんとに・・・好きでした。」


この想いは、もう2度と口にしないから・・・

もう少しだけ、先生の事を想って泣かせてください。


溢れ出る涙は、とどまる事を知らず。

スカートには、たくさんの雫の痕がついていた。


鞄からハンカチを取り出そうとした時・・・ふと目の前に白いハンカチが差し出された。


「コレ、使ってください!」


その人は、驚いている私に構いもせず・・・

手を取りハンカチを握らせると、そのまま教室から出て行った。



                                          ~続~