破顔一笑 ~ハガンイッショウ~ “天駆ける侍”
11月15日 AM12:25
「いつまで寝ゆうつもりじゃ」
「うーん・・・おりょうちゃーん・・・結婚してくれー・・・」
「・・・ふぐり蹴りとばされる前に起きるぜよ」
殺気を感じたのか、辰馬は目を覚ました。
「・・・お?何じゃ、もう朝か?」
「もう昼じゃ、バカが・・・」
「あはははは!もうそんな時間か!昨日は飲みすぎたきに!あはははは!」
「今日は用があるんじゃろうが」
「おー、そうじゃったそうじゃった!すっかり忘れとったぜよ!」
「さっさと支度して出かけてこい」
そう言って部屋を出て行こうとする陸奥に、辰馬は声をかけた。
「のぉ、陸奥?」
陸奥は足を止める。
「今日は何の日か知っちょるか?」
振り向いて、辰馬の顔を見て聞く。
「11月・・・15日か。・・・何かあるがか?」
「あはははは!今日は七五三じゃ!子供は可愛くていいのう!あはははは!」
辰馬の言葉を最後まで聞かずに、陸奥は部屋から出て行った。
「・・・はは。覚えちょる訳ないか・・・」
部屋に残された辰馬はため息をついた。
「・・・誕生日にこんなに暗くなっちょってもいかんのう!今日は地球に行ってぱーっと祝ってもらうぜよ!」
布団から出た辰馬は、着替えて部屋を後にした。
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地球に来て真っ先に向かう先はここ。
スナック“すまいる”
「いらっしゃいませ、坂本様。ご指名は誰になさいますか?」
「もちろん、おりょうちゃんぜよ!」
「かしこまりました。こちらのお席へどうぞ。」
席について少しすると、おりょうの姿が見えた。
「おりょうちゃ~ん!結婚して・・・」
「ノーサンキュー!」
床に倒れこんだ辰馬は、痛みを必死にこらえながら言う。
「きょ・・・今日は誕生日なんじゃ・・・祝ってくれんかのう?」
「え?坂本さん誕生日なんですか?それなら早く言ってくださいよ~!」
「祝ってくれるがか?言ってみるもんじゃのう!あはははは!」
ニヤリと微笑んだおりょうの顔に気付きもせず、辰馬は喜んだ。
「それじゃあ、坂本さんのために私がメニュー決めますね♪」
「おお!それは嬉しいぜよ!」
「すいませ~ん!ドンペリとフルーツの盛り合わせとキャビア・・・あ、やっぱドンペリじゃなくて、ピンドンお願いしまぁす♪」
「あはははは!あはははは!」
ただのカモにされている事にも気付かず・・・辰馬は“すまいる”での一時を楽しんだ。
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十分に酔いも周り、店を出た辰馬が次に向かった先は・・・
万事屋銀ちゃん
ピンポーン♪
「ごめんくださぁーい!金時くんいま・・・」
「てんめっ!遅せぇんだよ!いつまで待たせる気だ!」
戸ごととび蹴りをかましながら突っ込んできた銀時に殴られる。
「あはははは!すまんのう、遅くなって!ついついおりょうちゃんのところに長居してしまったぜよ!あはははは!」
「あっはっはー!じゃねぇんだよ!朝から準備してやってたのによぉ!何のために手紙送ったと思ってんだ!時間厳守って書いただろうが!」
「そうだったかのう?あはははは!」
「もういいから、さっさと来い!皆待ってんだろうがよぉ!」
「いだだだだだ!痛っ!ちぎれるっ!やめてってば!金時!」
「金じゃなくて銀!何回も言わすなよ、バカが!」
銀時に髪をつかまれ、ずるずると家の中へひっぱられて行った。
部屋に入ると、新八・神楽・桂の3人が椅子に座っていた。
「遅いですよ、坂本さん!」
「遅いアル、モジャモジャ!全部食べてしまおうかと思ったネ!」
「やっと来たか・・・」
口々にそう言われ、辰馬は笑う。
「あはははは!待たせたのう!さぁ、酒じゃ酒!今日は飲み明かすぜよ!」
「遅れてきた奴が仕切ってんじゃねーよ!」
「あはははは!」
2時間遅れで辰馬の誕生日パーティーは始まった。
「それじゃあ、仕切りなおして・・・坂本さん、誕生日おめでとうございます!」
「おめでとうアル、モジャモジャ!」
「坂本、おめでとう」
「おめでたいのはコイツの頭だろ」
「いやぁ~、ありがとうのう!わしゃ~、いい友人ば持って幸せじゃ!あはははは!」
「俺ぁ、こんな奴が友人で不幸だよ!」
「照れる事ないぜよ、金時!」
「てめぇ、まだそのネタ引っ張るつもりかよ!金じゃなくて・・・」
「銀さん!今日ぐらい大目にみましょうよ!折角のお祝いの席なんですから!」
「そうじゃ、金時!細かい事気にしちょったらいかんぜよ!」
「良い訳ねぇだろーが!お前ら、もし俺の名前が金・・・」
「銀ちゃん、ゴチャゴチャうるさいアル!飯がまずくなるネ!金でも銀でもどっちでも変わりないアル。」
「何言ってんの、お前?ここ重要だよ?テストに出るよ?第一、お前だって、“神楽坂ちゃん、あはははは!”とか言われたら嫌だろうが!」
「そんなに心の狭い女じゃないネ。誕生日ぐらいは大目に見るアル。」
「酢こんぶ一枚食われたぐらいで暴れる奴の、どこが心が広いってんだよ!」
「酢こんぶは別ネ!」
「酢こんぶより、名前の方が重要だろうがよぉ!」
「あはははは!金時、そんなにイライラせんと、飲め飲めぇ!」
「てっめ!誰のせいでイライラしてると思って・・・」
「銀時!リーダーの言う通りだぞ。名前ごときでグチグチグチグチ。そんなに現状に不満があるなら、攘夷志士にでもなりな!もぅ!」
「何で途中から勧誘に変わってんだよ。何でお母さん口調なんだよ。つーか、名前の事でグチグチグチグチ言ってんのは、お前だろうがよ!ヅラ!」
「ヅラじゃない、桂だ!」
「もー、皆さんいい加減にしてくださいよ!坂本さんの誕生日パーティーなんですよ?銀さん、いつまでもそんな顔してないで!ケーキもありますから!」
「何で俺が悪者なんだよ・・・諸悪の根源はコイツだろうが!」
「銀さん!」
「あーあー!わーったよ!俺が大人になればいいんだろ!新八!いちご牛乳持って来いよ!」
「いや・・・大人だか子供だかわかんないですよ・・・」
新八のお蔭で、騒動もとりあえずは収まり、やっと誕生日パーティーらしさを取り戻してきた。
「じゃあ、みなさんプレゼントも用意してる事ですし、プレゼントタイムにしましょうか!」
「お?プレゼントも用意してくれてるがか?」
「コレは僕と神楽ちゃんからです。」
「何じゃ?」
「あんまりお金ないのでいいものは買えなかったんですが・・・」
「マフラーと手袋アル!」
「おぉ!これから寒くなるからのう!ありがたくもらっとくぜよ!」
「俺からはコレだ。」
「おー、ヅラもすまんのう。」
「ヅラじゃない桂だ。お前にはエリザベスの礼もまだだったからな・・・奮発したのだぞ。下駄と攘夷志士タオル・・・それに、エリザベスの着ぐるみだ!どうだ可愛いだろう!ははははは!」
「何かよくわからんが、礼ば言うぜよ!あはははは!」
「お前、またソレかよ・・・。高杉ん時もソレやって斬られたんだろうがよぉ。」
「アイツにはエリザベスの良さがわからないのだ。まったく・・・可哀そうな男だな。」
「可哀そうなのは、お前の頭の方アル。」
「あはははは!」
「じゃあ、最後は銀さんですよ!」
「あ?俺?んなモン用意してる訳ねぇだろうが。」
「銀さん!自分は貰ったのに相手にはあげないんですか?」
「銀ちゃん最低ネ!」
「銀時、お前がそんな男だったとはな・・・」
「金時はケチな男じゃのう!」
「だっ・・・!何ですか、その目はぁ!仕方ねぇじゃねぇか!金ねぇんだからよぉ!」
「パチンコばっかりしてるからですよ!」
「うるせぇよ!いいんだよ俺は!こういう性格なんです、銀さんは!」
「ちょっと、銀さん!」
「いいきにいいきに!金時には、これっぽっちも期待してなかったきに!あはははは!」
「坂本さんがそう言うなら・・・」
「・・・何かムカつくんですけど」
それから5人は、時間を忘れて騒ぎまくったのだった。
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神楽も新八も騒ぎ疲れて眠ってしまい・・・そろそろ辰馬も帰る時間。
「今日はほんとにありがとうのう!皆に祝ってもらえて嬉しかったぜよ!」
見送りにきた2人に向かって、辰馬はそう言った。
「気にするな。仲間の誕生日くらい、祝ってやるのが当然だ。」
「ま、そう言う事だな。」
「あはははは!あの2人にも礼ば伝えちょいてくれ。」
「あぁ、わーったよ。」
「やはり、アイツは来なかったか・・・」
桂は天を見上げて言った。
「奴は奴で自分の道を進みよるんじゃ。忙しいんじゃろうて。」
「元々、他人の誕生日ぐらいで動くような男じゃねぇだろうが。」
「それもそうだな。」
「あはははは!じゃあ、わしゃ~そろそろ戻るぜよ!」
「またな、坂本。」
「じゃ~な。」
「あ!辰馬!」
船に乗り込もうとした辰馬を銀時は呼び止めた。
「何じゃ、金時?」
「てめぇ・・・いい加減、その呼び方やめ・・・はぁ~・・・まぁ、今日は大目に見るか・・・」
「あはははは!で、どうしたがか?」
「ほらコレ・・・プレゼントの代わりにやるよ。持ってけ。」
「おぉ?すまんのう!後でじっくり見させてもらうきに!じゃあ、また来るぜよ!」
辰馬の乗った船は宇宙に飛び立って行った。
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帰り道・・・辰馬は、銀時から受け取った封筒の中身を見ていた。
その中には、1枚の写真が入っていた。
銀時、桂、辰馬・・・そして、高杉の4人が写った唯一の写真。
(そういえば、こんな写真も撮ったのう・・・)
そう思いながら、裏返した写真の後ろには何かが書かれていた。
『コッチは俺とヅラがなんとかする。だから、お前は皆が笑って暮らせる国でも作ってくれや。俺たち・・・4人全員が笑って暮らせる国をな。』
「・・・はは。銀時もやってくれるのう!あはははは!」
サングラスを外した辰馬は、ポケットに写真をしまいながら笑った。
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11月15日 PM11:40
快援隊の船に到着した辰馬は、自分の部屋へ向かっていた。
そして、背後から不意に声をかけられた。
「今日はまた随分と遅かったのう・・・」
「お?何じゃ、陸奥か。ちょっと行くところが多くてのう。こんな時間になってしまったきに!」
「皆待ちくたびれてるぜよ。主役のおまんが不在じゃ始まらん。さっさとくるぜよ。」
「・・・何かあるがか?」
言われるがままに、陸奥の後について行った。
坂本が連れてこられた広間は・・・真っ暗だった。
「こんなところに連れてきて・・・どうし・・・」
「坂本さん!誕生日おめでとうございます!」
真っ暗だった部屋は一瞬で明るくなり、隊士たちの声とクラッカーの音が響いた。
驚いている辰馬を余所に、陸奥は続けた。
「頭の誕生日くらい、覚えてるのが当たり前ぜよ。」
「坂本さん、待ちくたびれましたよ!早くコッチ来て下さい!」
隊士にひっぱられ、辰馬は席に着いた。
「はは・・・ははは!参ったのう!こりゃ~ビックリじゃ!あはははは!」
ようやく事態を理解した辰馬は笑った。
本日、3度目の誕生日のお祝いの始まり。
「皆すまんのう!さぁ、目一杯飲め飲めぇ!あはははは!」
そう言って笑う辰馬のサングラスの下が、涙で滲んでいる事に気が付いていたのは・・・陸奥だけだった。
「・・・誕生日、おめでとう。」
~完~