施設長と不倫関係になった葵さん。その後、どうなったのでしょうか。


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そんな幸せな日々のはずでしたが、彼の住んでいる家は私の家から遠いこともあり、彼が今の仕事をやめたらもう会いにはこないのだろうと、それはずっとわかっていました。



週に2回、多いときは4回ほど彼は仕事帰りに私の家へと寄ってくれたし、デイケアから一緒に彼の車で帰ることもありましたが、私の友人もどんどん結婚していたから、なんだかつらかったのです。



私は、この時はいつもその彼に「死にたい」や「寂しい」と言っては電話をもらっていました。彼が私の家から帰った後は、切なさと寂しさがあふれすぎていたのです。好きになってしまったから苦しいのだ、そう思っていました。



ずっと一緒にはいられない、それはいつでもわかっていました。それでも、その時私にとってその彼は必要な存在だったのです。



それでも、私も結婚したいと思ったことがあります。そうしたら彼とも対等な関係になれると、そう思っていたのです。それでも、他の男性に会ったことをその彼に話すと。彼は「他の男に2人で会うなら、もう俺達は会うのをやめよう。」と言いました。私は、会えなくなるなんて嫌だ。そう思い、他の男に会うことをやめ、その彼に会い続けることを選びます。彼は私のことを好きなのかもしれない、とその時思ったし、立場など2人の感情には関係ないのだから、私のことが一番好きなのだろう、そう思っていました。



彼以外に会った男性の中に、2人でいる時に使うお金をいつも私に払わせる男がいました。その話を彼にした時です。彼が「罰金だな。」そう言ったのは。そして、それから私は親からの仕送りで生活しながら、節約しては貯金をして。彼にあげていました。帰りのガソリン代がないと言われ、ガソリン代をあげたこともあります。彼といる時間は大切だったから、その時間を買っているつもりだったのです。



彼に心配してほしくて。でも、それを願ってはいけないことくらいわかっていて。なんだかとても苦しくて。何度も自傷行為をしていました。何度か、入院もしました。



彼は既婚者だし、立場もある人だし。好きになってはいけないと、最初からわかっていたはずでした。それでも、一緒にいる時間が多くなるほど私の気持ちを伝えたくなっていたのです。



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エリクソンという心理学者は、フロイトの精神分析理論を発展させ、人の心は生涯にわたって8つの段階を経て発達していくことを示しました。



その8つの発達段階の第一番目にくるのが『「基本的信頼感」対「基本的不信感」』と呼ばれる段階です。この基本的信頼感がないと、自分自身を愛することができず、ありのままの自分を受け入れることができません。



喧嘩が絶えない夫婦関係や仮面夫婦、DVや虐待、アルコール依存などの機能不全家族で育った子どもには、この基本的信頼感を獲得することが難しいことは言うまでもありません。



彼らの多くは、「私なんか価値のない人間だ。ダメな人間だ」「私が愛されるわけがない」「何か特別なことをしないと私は愛してもらえない」という信念が深層心理の中に形成されていきます。



これが「必要とされることを必要とする」「ひどい状況、ひどい相手でも我慢する」「常に自分を後回しにする」理由です。



基本的不信感があると、何から何までネガティブに考える傾向が強くなります。恋愛も例外ではなく、「恋愛なんていいのは最初だけ!」「どうせ裏切るに決まっている」「優しい愛を注いでくれる人なんて、いるわけがない」などと、恐れとも絶望とも怒りともとれるようなネガティブな信念を恋愛に対して形成していくのです。



すると、興味深いことに、人間の心理メカニズムとして、その信念の正しさを証明できるような相手や恋愛をあえて選ぶということが起こってくるのです。



こういう人は、口では「つらい」と言っていても、深層心理では自分の信念の正しさが証明されて安心しているのです。「ひどい相手」を選び、共依存的恋愛のサイクルからあえて抜け出そうとしない理由の一つがそこにあるのです。