四年間、お世話になったのに研究室に入るのは初めてだった。
扉を開けたそこは、夢のような世界だった。
床から天井まで、本 本 本……
圧倒された。乾いた匂いがした。
少し古びたその匂いは、冬の空気に似ている。
砂漠みたいだ、黄ばんだ背表紙が埋め尽くす世界。
たぶん人生を三回くらいやり直しても、この人の読書量にはかなわないのだろう。
ソファに座ると、ガシャポンを渡された。
「さっき、くら寿司でやってきた」
はあ、となんとも間抜けな声でカプセルをあけると、シールだった。
忍者シール。いらねえ。
とりあえず感謝して、机の上に置いといた。
そして就活の報告。
「私が一番似合わないところです」
「金融?」
一発かよ。
あたりです、と言ったらゲラゲラ笑いはじめた。おい、失礼だぞ! なんて突っ込めないため、微笑みで受け流す。えらいぞ私。
ただ流石に笑いすぎなので、「笑いすぎです」と言っておいた。
「いやね、秋川さんだから笑えるんだよ。笑えるところでよかった」
「?」
「いいじゃないか、金融。まったく未知の世界だ。また君は深くなる」
なるほど。そういう考えがあるか。
ここに決めたことに何ら後悔はなかった。総合職で、安定してて、一人でも生きていけるし…まとめると生きていきやすい場所だと思ったのだ。
昔はこんな発想は大嫌いだった。
だから日本文学科という、就活に絶対不利!と叫ばれているところにも進んでいった。やりたいことをやる、それが一番幸せだと思っていた。
けれど、その生き方は、生きづらい。
就活で骨の髄まで理解した。文学など、一部を除いて何の貢献にもならない。少しも理解されることはない。趣味でいいじゃん? と一蹴される存在。
つらかった。
自分の好きなものが、こんなにも受け入れられないことが。
でも…私だってそうだった。興味のあること以外は排除してきた。
たとえばサッカー観戦とか、アイドルのコンサートとか
金がかかるだけじゃんって一蹴していた。
一緒だ。
趣味でいいじゃんと言ってきた人たちと。つらい、など嘆く資格などない。
自分だってやってきたのだから。
だから私は金融を選んだ。
きっと生きやすいと思ったから。努力すれば、資格もとれるし、サービス業のアルバイトの経験も営業で生かせる。本の知識は全くいらないけれど。通勤の途中で読めればいいやと思った。
教授の言葉で、また世界は広がった。
未知の世界に飛び込んでいく。規律も厳しく、ミスができない、そんな私に似合わない場所。知らないことばかりだ。だからこそ大きく成長できる。
「ありがとうございます」と心の底から感謝を言った。
がんばります、と付け加えた。
単位ください、と少しだけお願いした。