■日系企業が中国から撤退する理由
中国事業の縮小や中国からの撤退を検討している日本企業が増加している主な原因として、以下のような問題が挙げられる。
1、 外資優遇税制の撤廃と競争力の低下
従来は中国に技術革新をもたらす主体は、外資系企業でしたが、最近は急速に本土系民間企業の競争力が向上し、市場環境は大きく変化しつつあります。その一因となっているのが、外資優遇政策の撤廃と本土系企業保護政策です(下記は、代表的事例)。
「外資優遇の撤廃」
・2008年1月 “新企業所得税法の施行”
概要:
外資企業に適用されてきた優遇制度
①製造業の2免3減措置、②輸出企業の半減税率、③経済技術開発区などの特別区に対する優遇税率、④再投資税額還付の撤廃が決定。
・2010年12月 "都市維持建設税と教育費付加制度を内外無差別化"
概要:
外資系企業にも、従来は中国本土系企業にのみ適用されてきた都市維持建設税及び教育費付加制度を適用することとなった。都市維持建設税、増値税、営業税、消費税の合計額の、最高7%、教育費付加制度は一律3%が納税額となる。
「中国本土系企業の保護」
・2008年8月 “独占禁止法”
概要:
企業による違法なカルテル、市場の支配的地位の濫用、「行政独占」を禁止し、一定の企業結合には申告を義務付けた。さらに、外国企業による中国企業の買収について国家の安全に関わる場合、「国家の関連規定に従って国家安全審査を実施」する旨の規定も設けられた。
・2007年4月 "自主開発製品政府調達予算管理弁法"
概要:
中国政府調達の際、自主開発製品を優先的に調達することが明確に規定された。
・2009年11月 "国家自主開発製品認定制度の導入を通知"
概要:
中国政府が各省・自治区・直轄市の自主開発製品目録に登録する製品の申請・予備審査・推薦業務を行うよう要求し、登録された製品を優先的に調達することを通知。
このような政策的後押しもあり、中国本土系企業は、近年、急速に競争力を増し成長を遂げつつあります。これら政策的な恩恵を受けた本土系企業の台頭に加え、台湾及び韓国系企業の技術レベル向上により市場競争が激化しており、家電や自動車、IT関連製品、服装、食料品などの多くの分野において本土企業や台湾系、韓国系企業の競争力が絶えず強まっている一方、日系企業はその技術的優位性を徐々に失い、競争力が低下し続けています。
また品質とサービスを優先する日系企業は、様々な経営コスト(原材料、人件費等)がかさみ、価格的競争力においても本土企業に及ばず、市場シェアの確保が困難となりつつあります。更に多くの分野で本土企業の生産過剰による市場価格の下落が激しくなっており、日系企業の中には採算割れの危機に直面している企業も出ています。
2、人件費上昇と労務問題
近年、中国における労働コストの上昇が大きな問題となっており、JETROや国際協力銀行が実施した中国進出中の日本企業に対するアンケートでも、数ある経営課題のうち、人件費の上昇が課題と回答する企業が年々増加しており、今や最大の課題となっています。
以下は中国の平均賃金の推移を示すグラフであるが、2000年半ば以降、労働市場の逼迫と政府の所得拡大志向が相まって2001~2010年にかけての平均賃金上昇率は15%弱となっており、急激な上昇となっている事が分かります。
しかし、賃金上昇率が高くとも、それを上回る労働生産性の上昇率があれば、生産1単位あたりの労働コストを示す、単位労働コスト(ULC)はむしろ減少し、実質的にコスト減となります。
このULCの推移(下図参照)をみると、中国の製造企業は、2000年から2007年頃までは、労働生産性を上昇させる事により、ULCを抑える事に成功してきたと考えられます。しかし、それ以降は労働生産性の上昇率よりも賃金の上昇率が上回るようになり、ULCが上昇傾向に転じた事が見てとれ、2000年を100とすると、2007年の84が底となり、2010年時点では90に上昇しています。
このように、労働生産性の上昇率を上回る大幅な賃上げは、単位労働コストの上昇を招き、企業収益に打撃を与えていることは間違いありません。
また、こうした賃金及び社会保障費の増大のみならず、労務管理コストも増大しつつあります。2008年施行の労働契約法により、労働争議仲裁費用無償化をはじめ、労働者の権利が大幅に強化されたため、ストライキが多発し、労働争議受理案件も急増しました。
2011年に在中国日本大使館が実施したアンケート調査では、ストライキ発生が日本企業で相対的に多いという結果が出ており、労務管理体制の整備が重要な課題となりつつあります。
今後もこの傾向は続くとみられる。中国は2012 年2 月に,国民生活の底上げを目的に,就業促進規画(2011~15 年)において全国低賃金を年平均13%以上引き上げる方針を打ち出しました。また、人口動態から見ても、生産年齢人口の伸びが鈍化し、2015年をピークとして減少に転じ、需給面から見て、賃金上昇圧力になると考えられています。
3、深刻化する日中間の政治的リスク
領土紛争による不意打ち。昨年9月、日本政府の「島購入」に反対して中国各地で反日デモ(暴動や破壊活動も含む)と日本製品不買運動が起こった。国交回復以来の最大規模の反日行動であり、日系企業に思い掛けない損失をもたらし、多くの日系企業は中国の「政治的リスク」の深刻さを改めて認識させられました。
以上のような理由から、現在、中国からの撤退を検討する日本企業は増加しております。
しかしこのような課題があるにもかかわらず、中国撤退を考えている企業よりも、中国での事業規模の拡大を検討している日本企業の方が多数を占めています。
共同通信社のグループ会社、アジアの経済ビジネス情報に特化した通信社NNAは、中国各地で抗議デモが発生した1カ月後の、10月15~19日に調査を実施し、調査対象となった104社の日本企業のうち、60.6%は現在の事業規模を維持するとし、30.8%は事業拡大もしくは増資を検討しているとしました。中国事業の縮小や中国からの撤退を検討している日本企業は8.7%でした。
撤退を検討している企業の中には、中国での販売を行わず、製造拠点のみを保有している企業もあり、これらの企業が中国国内の製造コスト上昇を理由に国外に製造拠点を移転する事は、合理的な判断だと思われます。
しかし、このように経営環境が厳しいにも関わらず、大多数の日系企業は中国から撤退しようと思っていません。昨年11月に開催した広州モーターショーで、トヨタ、ニッサンなどの日系企業は「決して中国から撤退しない」、「中国事業を引き続き推進する」との方針を明確に表示しました。
日系の大手企業にとって製造拠点を他の国に移転すること自体はさほどの大事ではないのですが、世界一の潜在的巨大市場としての中国の存在はどの国にも代替されず、企業の継続的発展のためにも失う訳には行かない存在なのです。
中国事業の不振を反日情緒や環境の変化という外的要因に求めるのは簡単なことですが、その他、特許技術に対する過度な保護意識、新鋭製品を優先的に中国に投入しない、市場ニーズの変化に対する意識の低さ、裁量権の少ない中途半端な現地化などの経営スタイルが、日系企業のブランド力と競争力の低下を招く内的要因であることも否めないと思われます。
日中関係が悪化した昨今でも、日系ブランドの商品が一概に中国消費者に拒絶されたわけではありません。例としては、昨年の12月、中国の北方地域に濃霧天候が続き、深刻な大気汚染が発生しましたが、松下やシャープなどの日系企業がこの機に乗じて空気清浄機の宣伝を一段と強化して販売量を2~3倍にも拡大しました。
またトヨタなどの日系自動車メーカーも反日デモ被害車の賠償や無料修理、新車発売など対策により、ボイコットによって大きく躓いた新車販売を4ヶ月で回復しました。
「日本が好きなわけではないが、商品がよければ買う」という心理が中国消費者に普遍的に存在するので、両国関係の如何を構わずに、企業は合理的、適正な対策を講じて迅速に応対すれば経営不利の局面を改善することが十分可能です。
BtoB企業でもBtoC企業でも、その技術、製品、サービスにより「日本の企業が中国に来てビジネスを行なうことは、中国の人民にとって良いことだ」という認識を幅広く伝え、顧客との絆作りを通してより多くの中国消費者に日本製品の必要性を理解させ、日系企業の製品とサービスに対する依存度と好感度を高めることは極めて重要なことです。
海外に販路を広げたい企業にとっては、中国から撤退することは最終の対策であり、止むを得ない事情がない限り、なるべく避けるべきことだと思われます。
一方、中国に販売拠点を持たず、製造拠点としてのみ活用しているような企業にとっては、外資企業の税制優遇や人件費や労務コストの上昇が続く中国で、価格競争力を維持する事は困難となってきており、中国撤退は合理的な選択となりつつあります。
次回は、そのような企業様のご要望にお応えし、中国事業撤退の具体的な方法とその際の注意点についてお話したいと思います。
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