英会話に文法知識は必要か
日本人は英語の文法知識があるのに、英会話は苦手であるなどとよく言われます。そこから、英会話の上達には文法は必要ないのではないか、日本人が英語を話せないのは、文法中心の学習方法に問題があるのだ、といった主張をよく聞きました。そのような声に配慮してか、今の小学生教育の英語では文法を教えないようです。
読み書きの技能に関しては、文法の知識は必須です。これに疑問の余地はありません。外国語を学ぶ上で、正しい文法の知識なしで正しい文章を書けるとは到底思えません。複雑な文章を正しく理解するには文法の知識が役立ちます。この点から、外国語を学ぶ上で文法知識が有用であることは間違いありません。
しかし、会話(リスニングとスピーキング)となると、文法をいかにマスターしていたとしても、流暢に話せるわけではありません。日本語で考えて、それを英語に翻訳して話すというプロセスでは時間がかかりすぎます。文法に頼っていては自然な会話はできません。このことから、文法は会話に役に立たない、といった言明が生じるのでしょう。
日常の会話は論理を組み立てて話をするわけではなく、もっと自然な物です。感じたことをそのまま言葉にしています。そのような会話は潜在的な記憶の中から生み出されています。
人は幼い頃、自国語のシャワーを浴びて、潜在学習によって言語の辞書のようなものが作られるそうです。成長するにつれ、さまざまな体験を繰り返すことで言葉の辞書が発展し、自分の感じたことや考えたことを話せるようになるのです。
英語を流暢に話すためには、日本語の辞書とは別に、英語の辞書を作る必要があります。そのために、英語圏の国に住んで英語だけの世界で生活する、と言う方法もあり得ますが、多くの人にとって無理があります。では他にどんな方法が考えられるでしょうか。
流暢に話せるよう、自分の中に英語の辞書を作るには、何度も繰り返し練習する方法が有効です。楽器の演奏やスポーツなどと同様です。基本的な動作を何度も繰り返し、体に覚えさせるのです。英語の音声を聞いて、それを繰り返して何度も発音する。一つのフレーズを完全に覚えるまで繰り返す。最低でも百回、通常は3百回ほど繰り返す必要があるそうです。それくらい何度も繰り返して、はじめて自分の中に英語の辞書が作られるのです。
それでは、このような作業に文法知識は不要なのでしょうか。私はそうは思えません。フレーズを覚える際、文法の知識があった方が覚えやすいと思います。文法を全く知らなくても、フレーズを完全に覚えることができるのかもしれませんが、効率が悪いと感じます。基本的な文法ルールを知っている方が、明らかに記憶しやすいはずです。
まとめると、流暢に会話するためには、文法を知っているだけでは不十分で、フレーズなどを繰り返し練習する必要がある。何度も繰り返すことで、自分の中に英語の辞書のようなものが作られて、流暢に会話できるようになってくる。効率的にフレーズを記憶するためには文法の知識が役にたつ。よって、文法を学ぶことは無駄ではない。