90. Blue Note 1569 | BACKUP 2024

BACKUP 2024

備忘録

 

 

 

ポール・チェンバースはファースト・コール・ベーシストだった。
最初に声が掛かる、という事だ。
マイルスバンドのベーシストでもあった。
本作A面1曲目「イエスタデイズ」のアルコ(弓弾き)など凄い演奏だと思う。
だが正直に言う。ブライアン・ブロンバーグなんかと比較してしまうと、あまりの違いに驚くのだ。
これが50年の差である。
ジャズは半世紀の間に、特にベースとドラムが大変進歩した。

本作はベーシストのリーダーアルバムなのだが、当時のベースは4ビートのリズムをキープするのが主な仕事だったので、リーダーとして前面に出るのが容易でない。
それゆえのアルコであったと思う。
それをバンゲルダーが恐ろしい音質で捉えるのに成功した。
本作の価値はそこにある。
いや、そこにしかない。
後はチェンバース、リズム隊に終始している。
これではもたないので、アルフレッド・ライオンはケニー・バレルを参加させた。
ケニー・バレルは確かに天才ギタリストなのだが、何もベーシストのリーダーアルバムに出てこなくても良いのだ。
 

当時まだベースという楽器は、ステージの中央でスポットライトを浴び続ける術を知らなかった。これに尽きる。
だからアルフレッド・ライオンもチェンバースをリーダーにして、トリオやデュオで一枚録ろうという発想には到底ならなかった。
チェンバースのベースはベースの中ではオン・トップだったが、まだまだバンドの中でトップを張る所までは行かなかったのだ。

トランペットやサックスやピアノはこの50年どうだったのか?
ベースとドラム程の激変はなかったのだ。
これは何故だろう。
ホーンとピアノには最初からスポットライトが当たっていた。
だから街灯に群がる夏の虫の如く、多くの才能がそこに集まり、50年前既に大方の所をやり尽くしていたのだろう。
地味なサポート役だったベースとドラムには、ホーンやピアノ程の才能は集まらなかった。
だから50年後まで有望な鉱脈がほぼ手付かずで残された。
そういう事だと思う。
間もなく2024年を迎える現在、ベースとドラムの鉱脈にまだ残量があるのか、それは私には分からない。
ただ、20年前と比べれば明らかに変化のスピードが落ちてきたように思う。
ジャズは相当シビアな局面を迎えている。