『紅の玉』 | 温泉と下町散歩と酒と読書のJAZZな平生

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人生の事をしみじみ噛み締め出す歳は人それぞれやろが、ワテもそないな歳になったんで記し始めました。過去を顧みると未来が覗けます。
基本、前段が日記で後段に考えを綴っとるんで、後段を読まれ何かしらの“発見”があれば嬉しゅうございます。

居酒屋でA君夫妻と酒飲んどったら酔っ払い客達に絡まれ安倍晋三政権を議論する長~い夢見た今朝も7時半に起き、植物に水遣りした。

朝食は昨夜スーパーで半額やったお稲荷さんとエビチリ。デザートは和歌山産八朔2個。

風呂に小一時間浸り、基幹統計?奇観統計?厚生労働省は統計に弱い人達の集まりなのか、それとも忖度が生き甲斐の人達の集まりなのか、いざという時に役立つ人達なんやろかと考えとった。

ウェイン・ショーターのアルバム「スーパー・ノヴァ」をレコードで聴き、デクスター・ゴードン→ベン・ウエブスター→レスター・ヤングとサックス演奏をユーチューブで聴いた。

和食の気分やったんで昼食は「浅草みくも」に行ったが、やっとらんやないかい。それで、西浅草「先斗」へと歩き、いつもの鯖塩焼き定食を食うた。800円也。

スーパーで食料買うて、郵便局で金下ろした。

帰宅後、筋トレ30分し、りんごジュース飲んだ。

友人達にメール送付した。

 

 

宮部みゆきの「幻色江戸ごよみ」を第四話迄読んどるが、その中から『紅の玉』。

この世が因果応報で回ってないんは理解しとるが、やるせない話に心痛んだがな。

この物語は、老中首座の水野忠邦【天保の改革】により贅沢奢侈が禁じられた時期ですわ。それも鳥居甲斐守耀蔵が讒言し、水野忠邦が有能な矢部定謙を南町奉行罷免し幽閉させて、腹心の目付鳥居甲斐守耀蔵を南町奉行に据えてからは、容赦ない取り締まりやった。

ちなみに、【天保の改革】を改革と云うのは大いに疑問やな。水野忠邦の【天保の改革】は、例えばそれ迄例のない厳しい倹約令と風俗の取り締まりや、大奥は例外なんやけど。水野忠邦は、消費や投資を減らし、庶民の楽しみ奪ったらどないになるか分かっとらん。分からん者、現代にも多く居るが、世の中に活気が無くなり停滞するやろ。

水野忠邦のやった政策を未だに改革としとる教科書あるんやろか?そんなもんは改革やあらへん。

主人公は石原町の裏長屋に住む若い飾り職人の佐吉。ほとんど寝たきり状態の病弱な妻お美代の為に懸命に働いとった。

けれども、ふたりが夫婦なったその年に【天保の改革】が始まって、奢侈禁止ですわ。高価なもんは作るのも売買するのも禁止されて、腕のええ佐吉も職を半ば奪われてもうたんや。しかも鳥居耀蔵ちゅう甲斐守が奉行になってからは、手心を一切加えぬ厳しい監視の目光らしとんねん。

そやから夫婦はその日の飯にも事欠く位金に困っとった。充分な栄養摂れずろくに治療も受けさせられぬからお美代は弱ってゆくんや。お美代念願の王子稲荷詣に行どころやない。切実に金が欲しい。

そこへ降って湧いた如く耳にした事が無いような大金入る仕事が舞い込むんや。

佐吉等の暮らす長屋を頭巾被った用人風体の武士が訪れましたんや。その老いた武士は見事な真紅に近い深い赤の珊瑚の玉を持参しとって、それに見合う銀のかんざしを作ってくれと乞う。

娘の嫁入りに際して、こっそり持たせてやりたい云いますんや。危ない橋を渡るので、前払いで材料の代金五両と手間賃に十両も払うと云う。勿論、ご禁令に背くんやから、極秘裏にや。見つかれば作らせた方も作った方も罰せられる。

佐吉、そりゃあ躊躇するわな。贅沢品を取り締まる諸式調掛のおとり捜査も考えられるし。

身の上話や信じられぬなら証拠の玉や金と一緒に奉行所に突き出せと聞かされ、佐吉は意を決した。引き受けましたんや。

それから佐吉は久し振りに熱を入れて仕事をし、自分の腕を存分に振るえた。納得の出来に、佐吉はそのかんざしに自分の名前も刻ませてもらおうと思い立つんや。職人の誇りを入れようとしたんや。

[久しぶりにお美代も床から出てきて、佐吉の仕上げた品を手に取り、それがまるで天から降ってきた贈り物ででもあるかのように、目に涙を浮かべながらしばらく見入っていた。

佐吉も誇らしかった。久しぶりに、本当に何年かぶりに、自分の職人としての技量と才覚を試されるような仕事をさせてもらった。金の問題でさえどうでもいいほどの満足感があった。もしもお美代がいなかったら、自分の口さえ心配していればよかったならば、自分はきっと、あのお武家さんに、金は要らないと言うだろうと思った。材料費だけでいい。おかげさんで立派な修業をさせてもらいました、と。

そんな高揚する気持ちが、最後の最後になって佐吉の心を動かし、手を動かせた。

「小さくていいから、俺もこのかんざしに名前を刻ませてもらおうと思うんだけど」

お美代にきいてみると、彼女も大きくうなずいた。

「刀鍛冶だって、銘を入れるでしょう。そうなさいな。あのお武家さまも、怒ったりしないと思う」

お美代の言葉はあたっていた。老人は怒らなかった。見事なものをつくってくれたと、言葉を尽くして佐吉の腕を褒めあげただけだった。

「自分の名を誇りに思うというのは立派なことだ」と、佐吉の心の高ぶりにつられたのか、老人もまた、まだ悪くなっていないほうの目を輝かせながら言った。

「どんなものにも曲げられぬ、おのれの筋というのはあるものだ。この御時世に、堂々と名前を刻んで残しておこうというおまえの心ばえは、町人ながら見上げたものだ」

「こんな馬鹿なご禁令なんて、いつか消えてなくなっちまいますからね」と、佐吉も言った。

「残るのは、俺の仕事です」

そのとおりだ、とうなずき、驚く佐吉を尻目に、さらに五両の金を増し払いして、老人は帰っていった。]

お美代に滋養のあるもんを食わせられた。

ところがそれから二日後、若い武家娘による仇討の噂が巷に広がってん。喝采されとってん。

その娘の御家人の父親は賄賂をもろた疑いかけられて、身の証を立てる為に切腹しちまったんやが、遂に謀をして父に詰め腹切らせた輩を討ち果たしたんや。

女の細腕で大の男をやっつけた。その討ち取った相手ちゅうのが、鳥居甲斐守耀蔵の手下ですわ。経済の混乱を招き庶民に恨まれて妖怪と呼ばれる南町奉行の仲間ですわ。

そして親の仇を討った時の若い娘、白装束で髪に紅珊瑚が付き家紋入りの銀のかんざしが良う映えとったんや。

そう、そのかんざしは佐吉の作った禁制の品やった。

老いた武士の話の中には真っ赤な嘘があったんや。

元御家人の隠居の孫娘は大義を果たす事出来た。隠居もごっつ嬉しかったやろ。

だが、かんざしに己の名前を刻んで残した佐吉は・・・・

佐吉の前に厳しい顔した差配が諸式調掛らしき者と現れますんや。

逃げる所などどこにも無かった。

一体俺の身はどうなる、ひとり残される病弱の女房はどうなる、と悔やむ佐吉やった。

世の中、落とし穴があんねん。大義の陰に落とし穴があんねん。

冷静な者は云うに違いない。佐吉は何とも迂闊やった。お美代もな、と。

世の中、大義がある無いにかかわらず、老いた武士の如く己等の事しか考えられぬ者が少なからず居んねん。

でもな、その前に愚かな政治がなされたから佐吉やお美代等庶民は苦しまなければならんかったのや。それも忘れてはならぬ。

落とし穴を出来得る限り少なくするんが政治や。