『おそろし 三島屋変調百物語事始 邪恋』 | 温泉と下町散歩と酒と読書のJAZZな平生

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人生の事をしみじみ噛み締め出す歳は人それぞれやろが、ワテもそないな歳になったんで記し始めました。過去を顧みると未来が覗けます。
基本、前段が日記で後段に考えを綴っとるんで、後段を読まれ何かしらの“発見”があれば嬉しゅうございます。

大学時代からのジャズ友達と銭湯を梯子する夢見て目覚めた建国記念日の振替休日の今朝は、7時に起きた。

体温めなならんと風呂に小一時間浸り、仮想通貨ちゅう呼び方されとる通貨もどきのネットワークの安全対策が不十分な事を考えとった。その不十分がグローバルであるハッカーに多大な利益もたらすがな。

朝食は炊き上がった秋田産あきたこまちでご飯に、カナダ産豚肉、愛知産ブロッコリー、千葉産菜の花、長野産エリンギを炒めて食うた。デザートは和歌山産八朔。

ウェイン・ショーターの「ウィズアウト・ア・ネット」をCDで聴き、井上陽介→中嶋美弥→清水絵理子→山口真文→原朋直とユーチューブで聴いた。

昼食に裏浅草「うんすけ」へ行って、健康志向で一汁三菜ランチを頼んで、飲み物は新たに加わった隠岐の島のふくぎちゅう植物を加工しとる福木島茶を選んだ。1000円也。

スーパーに寄って食料買うて帰宅。

「則天武后 美しき謀りの妃」第18話と「岳飛伝」第9話~第11話をギャオで見た。

夕食はタイ産鶏肉、メキシコ産アスパラ、千葉産もやし、長野産エリンギをタジン鍋で蒸して、ご飯食うた。デザートは栃木産とちおとめ苺。

 

 

宮部みゆきの『おそろし 三島屋変調百物語事始』の第三話『邪恋』ちゅうおちかが叔父夫婦の所へ来る事となった事情が明かされる物語を、一昨日土曜日に図書館でメモ書きしながら読了したわ。

邪恋、ごっつ怖いわな。邪恋の果てにちゅう事件が色々ありますやろ。

さて、今回の黒白の間での百物語の聞き手役は、おちかではないんや。彼女に指名されたのは、顔も身体もふっくらしとってちょっちいかつい顔立ちの人なんや。心根は優しい女なんや。

二つの話聞いて以来、おちかは夢の中でひどく怯えるようになりまん。その夢でのおちかは、ごっつ申し訳ない気持ちになって、頻りに謝っとる事多いんや。

万事に聡い三島屋の主人伊兵衛は、そうした姪おちかの様子を察し、黒白の間に百物語の客招くの、差し控えますんや。

内儀のお民は、変わり百物語などという面妖な趣向考え出しておちかを巻き込んだ夫伊兵衛の軽率を、少なくとも二度叱り付けとった。

清太郎に連れられて安藤坂のお屋敷を訪れてから十日後や。おちかは共に働いとるおしまから、浅草の観音様にお参りに行くとかしよと誘われるんや。伊兵衛とお民が、おちかを心配して休みを設け、古参の女中頭おしまに一緒に出掛け気晴らしするよう命じたんや。

すると、おちかは折角休日をもらえるなら、今日はずっと黒白の間に居たい、云いますのや。出掛けるよりも、ゆっくりこの座敷に居た方が気が休まる、云いますのや。そして彼女は、頼もしく温かいおしまに打ち明け話を切り出そうとすんねん。

そう、今回の黒白の間での百物語の聞き手役はおしまで、おちかが話し手になるんですわ。

おしまは急ぎ足で出て行き、茶道具載せた盆を持って戻るが、その後ろには盆持ったお民が居った。

お民は、おちかがこういう休日を望む事をお見通しのようなんや。夫を叱り飛ばしつつ、夫の思うところをしっかり聞き出して、彼女は彼女なりに、今の姪の為には何をどうすればええんか考えてくれとったんや。盆から茶菓子を並べ、お昼には仕出しを取ってあげると、にこやかに立ち去ったんや。

そうしておちかは、伊兵衛に頼まれた事柄と、ここで聞いた二つの話について、おしまに語って聞かせた。

それ聞き終えたおしまは、硬い物を噛み損ない呑み損なったみたいな顔をした。

そしておちかは、今からは自分が黒白の間に招かれた客になるから、おしまが自分の代わりに聞き手になってくれと頼んだちゅう次第で、それからおちか自身がおしまに心の闇に淀むもんを聞いてもらいますんや。

もう帰るまいと思い決めたおちかの川崎の実家丸千には、両親に七つ上の兄の喜一の家族と、旅籠やから他に大勢の奉公人達が居った。

おちかが六つになった年の正月明けの凍える程寒い日、丸千馴染みの行商人が助け求めて駆け込んで来たんや。男の子が街道沿いの斜面に転げ落ちとったんや。

そのおおよそ十位の子は、宿場の人々に助け上げられ、丸千に担ぎ込まれたが、四日目の朝に正気づく迄はこの夜とあの世行ったり来たり。床を離れたのは半月程。手足の指は欠けてしまっとった。

本人が何も語らぬから名前も分からず、おちかの父により松太郎と名付けられ呼ばれるんやが、その子の顔はごっつ綺麗やった。役者にしたいような美男やと、おちかの両親はよう云うとった。

兄喜一は、周りの人々の同情と関心を一身に集める松太郎が癪に障って仕方がなかった。妬いとったんですわ。

挨拶や返事程度はするようにった松太郎は、度外れた無口な子供やが、凍傷から不自由になった手足を動かす事にも次第に慣れ、よう学びよう働いとった。

そないな子やから、不憫だ、健気だと、松太郎を庇い褒める向きが多くなりますわな。

そうなると、喜一の嫉妬は益々膨らみますねん。喜一は松太郎を叩いたり突いたりすんねん。

けど、松太郎は口答えしたり仕返しそうとせんのや。

そんな松太郎を引き取りたいと、松太郎を発見した行商人が頼むんや。幼い子を亡くしたが、その子の代わりだ、と女房と話し合って決めたと申し出たんやけど、おちかの両親は色よい返事せえへん。二月ばかり話し合い重ねたが、どちらも譲らず折り合わない。  

松太郎自身に決めさせようちゅう事になったが、彼は丸千に残ることを選びますんや。

おちかの両親は手打って大喜びしたんやけど、後年、その事を二人してやつれる程深く悔いる羽目になろうとは思いもせん。

松太郎が何か身の上話を喜一にしてから、喜一はぱったりと松太郎に対する態度を変え、本当の弟のように扱うようになるんや。

すると、それ迄喜一より二つ年下で兄弟さながらにつるんでた旅籠波之家の良助が、今度は焼きもちを焼き始めるんや。

そしておちかが十四の時、波之家から丸千に縁談話が持ち上がりまんねん。

しかしながら、おちかの父母も兄もごっつ怒りますんや。

なぜなら、その相手は跡取り息子良助で、男前で無いのは置いとくとして、その時分はどうしょうもない放蕩息子で有名やったからですわ。

それで丸千側は、おちかが松太郎と一緒になって丸千を継げばええ、と軽口を叩く。

波之家では、丸千の言い分に筋が通っているだけに面目丸潰れで、きっとおちかは嫁き遅れになる、そうなってから泣き付いて来たって、とかこそこそ陰口や。

それ耳にした丸千は、おちかは松太郎と所帯を持てばええんやから。そない云い出しますんや。ただただ、波之家の人々の鼻を明かしてやりとうて。

波之家では、道楽息子のよりも、まだましだとでも云うんか、そう受け取って、更に気悪くするやろ。

丸千側は、その意図があって松太郎を引き合いに出したんや。最終から、本当におちかと松太郎を夫婦にする気など無いねん。母ちゃんの方は、云うた後で後ろめたさと濃い懸念が浮かんどったが、父ちゃんの方は、松太郎が本気にする訳はない。あいつは自分の身の程を心得てる、そう疑わんのや。父ちゃんも兄ちゃんも、松太郎を出汁にする事で放蕩息子をおちかに押し付けようとしよる波之家の面を潰す事が出来る面白さと気分のよさに夢中になってしまったんや。二人共、松太郎が気にするはずはないと思い込んどった。丸千に恩がある、松太郎やさかい、と。

おちかも、母ちゃんから、松太郎とは釣り合いとれん、世間の目ちゅうもんもある、と宥められ、松太郎の嫁になるなんて冗談なんや、と思いますんや。松太郎に好意抱いてたのにな。

線引きがあった。松太郎は、所詮余所者やった。それもどこの馬の骨か知れないばかりか、あない恐ろしい目に遭わされて、うち捨てられてたような子供で、どないな因縁を引きずってるか分かったもんやないと、線引きされとったんですわ。

その縁談騒動は当然松太郎の耳にも届いたろうが、彼の様子は何も変化見られんかった。

彼は分を弁えとったんや。身の程を心得とる松太郎なのが、切ないがな。

そして時が過ぎ半年前、おちかに縁談まとまったんですわ。何とその相手は、一度は冷たく断った幼馴染みの波之家良助やがな。

良助が改心して働くようになり頭下げた時には、喜一も納得したんやて。今度こそ本物の兄弟になれると。おちかも幼馴染の良助嫌いやなかった。

丸千は松太郎を家族みたいに扱っとったが、みたいはどこ迄行ってもみたいでしかなかった。心のどこかで線を引いとったさかい。

細かい仕事がうんざりする位沢山ある旅籠に、松太郎は重宝な働き手やった。奉公人のように働き、家族のように遇される。そんな半端な存在やった。

松太郎は五六年も経つと、指が欠けとると云われんと気付かなくなる位、手先の仕事も器用にこなすようになった事もあり、色んな職人達から、自分の所へ働きに来ないかと、随分声を掛けられとったんや。「いつまでも丸千の居候じゃいられまい、独り立ちできるように生業を持てって」勧めてくれとった。

だが、その度に、丸千では申し入れを断りますんや。松太郎本人が乗り気の様子の時も、父ちゃん「これは喜一の弟分で、倅も同様でございますから」と。これでは飼い殺しですわ。骨惜しみせずよう働く松太郎をすっかりあてにしてしまっとるさかい、手放したくないんですわ。給金要らずの奉公人もどきを手放したくないちゅうこっちゃ。

おちかも松太郎が居なくなったら寂しいが、不便にもなると分かってたんや。

跡取りの喜一が放蕩しとった時なんか、松太郎が丸千の内を仕切っとったんやからな。

丸千の人々は、松太郎の先行きを、彼の身になって考えてたとは云えへん。

松太郎が丸千で暮らして八年目、松太郎を引き取りたいと申し出たが叶わなかった行商人が、それ以来久々に訪れた。今一度、松太郎の身柄を預かりたいと申し出ますんや。けど、やはりおちかの両親首を縦に振らん。すると、行商人は膝詰め談判の勢いになったんや。「これまでの丸千さんのご苦労と温情があってこそ、今の松太郎がある。それはわっしも重々承知です。だが、このままではあれも可哀相だ。一生、返しきれない恩を背負って暮らすことになる」

もっともですわ。

しかしながら、おちかの両親は怒ったがな。「恩で縛っているつもりはない。松太郎はうちの倅も同然だ。あれが自分で江戸へ行きたいというのなら、いつだって喜んで出してやる。でも、余計なお節介はやめてくれ」

「本人には、たとえそう望んだって言い出せはしなません。だからわっしがお頼みしているんです」云うて、行商人は畳に額をすり付けたんや。

もっともですわ。

ところが、おちかの両親は、真っ当な事云う行商人を追い出すように帰してまうんですわ。

以来、またその行商人は丸千に姿を見せなくなった。

「岡目八目で、あの行商人のおじさんには、わたしたちの本音がよく見えたんでしょう。だから頼んでくれたのに、追い返してしまったんです」と、今なら分かるおちかやが、あの折の彼女は「おっかさん、塩をまいてやればよかったのに」と、大人達の尻馬に乗って、憎らしい口をきいとった。

丸千の人々には、松太郎が何をどう考え、どう感じているのか、察してみようちゅう気がそもそも無かった。

せめてあの時、松太郎を外へ出すべきやった、と思い返してももう遅いがな。

おちかの語りは苦しげになるんや。

良助が江戸からの土産持参で丸千訪ねて来たんや。

裏庭で良助とおちかが寄り添い話しとると、そこへ勝手口から松太郎が薪取りに現われた。

松太郎は二人に深く頭下げ、「お邪魔してあいすみません」と丁寧に云うた。それから、彼は本心押し殺し、二人を祝福する言葉を述べるんや。

ところが、良助は、お前なんかの居場所はねえ、お前なんかの居場所はねえ。餌をもらっただけで図々しく居ついた野良犬。悪口どころか、殴り、蹴るのし放題や。

そこには、子供の頃その儘のむきになる、決して云い負かされるの嫌う、喧嘩したら勝たずには収まらない良助が居った。

[良助はずっとこだわっていたのだ。忘れてはいなかった。恨んで怒っていた。先の縁談のときに、丸千の人びとが触れ回ったことで、こっぴどく顔を潰されたことを。いやそれどころか、もっと子供のころ、松太郎を挟んで喧嘩して、喜一に絶交されたことも。

二人を一度に取り返し、今や松太郎を見おろす立場になって、腹の底に呑み込んできた憤懣を、良助はいっぺんに吐き戻そうとしている。

やめてちょうだい、やめてちょうだい。おちかは空しく声を振り絞り、良助の袖にすがり、まだ松太郎に蹴りかかろうとする彼を必死でとめた。松太郎は蹴られ罵られるままになっている。顔に土がついている。蒼白になった頬に、血の筋が流れる。

それでも良助はとまらない。おちかに謝れ!何がよろしくだ!汚らわしい!おまえがおちかの何だっていうんだ?

―お願い、もうやめて!

おちかの悲鳴に、ようやく良助は大暴れをやめた。地面に倒れて身を縮めている松太郎の背中に、息を切らしながらも口を尖らせて、ぺっと唾を吐きかける。

―おちかに免じて勘弁してやるんだからな。有り難いと思えよ。

そう言い捨てておちかの肩を抱き、裏庭を回って建物の表へと踵を返した。

そのとき。

―お嬢さんもですか。

倒れ伏したまま、松太郎が呟いた。割れてかすれた声が、おちかの足元を這い上がってくるようだった。

―おちかさんも、俺のことそんなふうに思っていたんですか。

良助もおちかもその場に凍りついた。

おちかは恐怖のために。良助は怒りのために。

松太郎が痛そうに首を持ち上げて、おちかを見ていた。拝むように。すがるように。

責めるように。

―本当に?

その視線の熱が、その問いかけの切なさが、良助の堰を土台から壊した。怒りにまかせて松太郎に飛びかかる。殴られ蹴られるままだった松太郎が、今度は猛然と起き上がった。二人は取っ組み合い、もつれあった。おちかは金切り声を張り上げて助けを呼んだ。同格に組んだなら、さんざん痛めつけられた後だというのに、松太郎の方が強かった。良助歯が立たない。そのことに愕然として、良助はさらに我を失い、しゃにむに殴りかかってむいく。

―殺してやる。野良犬め!俺がこの手で殺してやる!

「場所が、悪かったんです」

ひとまわり小さく見えるほどに縮み上がり、声を失くして座り込んでいるおしまに、おちかはゆっくりとそう言った。

「薪割り用の―鉈が手近にありました」

先にそれをつかんで振り上げたのは良助だ。松太郎はきわどく避けると、あっさりとそれをもぎ取り、良助を張り倒した。

震える息をひとつするあいだに、おちかは見た。

松太郎は手にした鉈を見た。彼の足元に倒れた良助を見た。その顔にに、殺してやるという言葉がただの脅しでないことを見てとった。

そして松太郎は、おちかを見た。

おちかは腰を抜かしてへたりこんだまま、とっさに後ずさりして彼から逃げようとした。

助けて―と、言った覚えがある。

松太郎の目に涙が溢れた。

彼の手が鉈の柄を握り直すのを、おちかは見た。指の節が白くなるのを見た。

「わたしの目の前で、松太郎さんは良助さんを打ち殺しました」]

喜一と奉公人達が駆け付けたんやが、もはやその時は遅く良助は松太郎が手にした斧ででめった打ちにされとったんや。

おちかの傍ら駆け抜ける時、松太郎は一瞬足を止め云うた。「俺のことを忘れたら、許さねえ」

丸千から逃げ去った松太郎は、翌朝早う死骸となって発見された。その昔、宿場の人達に救い出された崖から身を投げ自裁死を遂げてしまったんですわ。

哀れな一生や。情けなく虚しい。松太郎、傷心ちゅう生半可なもんやなかったろう。

おちかは、松太郎を追い込んでしまったのは、他ならぬ自分やと思うとりますんや。呵責や。

こうしておちかが心を閉ざすようになったんや。

しかし、『邪恋』とは誰を指してなんやろうか?松太郎を指してるなら、如何にも情が無いがな。読み終えてまず思うたのがそれや。

松太郎は、横恋慕したんでもなければストーカー行為しとったんでもない。

それならおちかかちゅうと、事件迄の彼女は考え幼い子供で、お母ちゃんに従順や。

とすると、邪恋の主は良助?相手の置かれた立場に思いを致す事が無く、他人の気持ちを慮れず、気に入らぬ事には暴力に訴えようとする、ちっぽけな男ではあるが、邪恋とは云えぬやろ。もしあの儘縁付いて、おちかが幸せになれたちゅうと疑問やけど。

では、邪恋とは何なんやろか?良助が、松太郎のおちかに対する想いを表したもんなんやろ