『おそろし 三島屋変調百物語事始 魔鏡』 | 温泉と下町散歩と酒と読書のJAZZな平生

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人生の事をしみじみ噛み締め出す歳は人それぞれやろが、ワテもそないな歳になったんで記し始めました。過去を顧みると未来が覗けます。
基本、前段が日記で後段に考えを綴っとるんで、後段を読まれ何かしらの“発見”があれば嬉しゅうございます。

今朝は7時半に起きたら、くしゃみ出た。ちょっち鼻水も出る。今年も花粉症が始まったか・・・

風呂に小一時間浸り考えとった。現在の我が国において、高度経済成長期の如く企業が競争的な市場機構で成果をもたらしとるんやろうかと。市場機構が弱まっとるような気がすんねんけど。

朝食は秋田産あきたこまちを炊き、長崎産真鯵開きを焼いてご飯二膳食うた。デザートは青森りんご。

寺久保エレナ→アーチー・シェップ→ジョー・ロバーノ→クリス・ポッターとサックス演者をユーチューブで聴いた。

「則天武后 美しき謀りの妃」第19話をギャオで見た。

昼食は千束「ソージュ」に行った。注文したのは肉ランチで豚フィレ肉のパン粉焼き、スープ、サラダ、ライス、コーヒーが付き1000円也。旨かった。

昨日は強風やったんでどこにも出掛けず土曜図書館も行かなかったさかい、ゆいの森あらかわへ行って『おそろし 三島屋変調百物語事始』の第四話を読了した。

スーパーに寄って食料買うて帰宅。

筋トレ30分した。

夕食はタイ産鶏肉、愛知産ブロッコリー、長野産ぶなしめじ入れタジン鍋で蒸して、ご飯食うた。デザートは福岡産あまおう苺。

小平奈緒が平昌でスピードスケート500mで待望の金メダルに輝いたの、ラジオ中継で聞いとった。

 

 

宮部みゆきの『おそろし 三島屋変調百物語事始』の第四話『魔鏡』ちゅう物語を今日メモ取りながら読了したわ。

おちかは叔父伊兵衛に呼ばれ、黒白の間に四人目の客を呼んだ云われますんや。三人目はおちかや。

おちかは叔父が変わり百物語の趣向をし、聞き役として自分を据えた意図がもう分かったんや。世間には様々な不幸があり、とりどりの罪と罰があって、それぞれの償い様がある。暗いもん抱え込んでるのはおちか一人やあらへんちゅうの、他人様の体験談として聞かせる事で、おたかの身に染み込ませようちゅう考えなのをな。

三人目のおちかは、おしまに聞き手になってもろて、全てを打ち明けた。楽になってはいないものの、随分すっきりしましたんや。

けれども、伊兵衛はまだまだ足りないちゅう診断や。それで四人目の客呼んだんや。

あの事件から生き延びとるちゅう事だけで罪人な意識が抜けないおちかなんやから、伊兵衛の診断は正しいわ。

[あのとき、どうして松太郎は、良助を打ち殺した鉈を持ち替えて、おちかをも打ってくれなかったのだろう?そうすべきだったのに、なぜおちかの命を捨て置いて、丸千から逃げ去り、自分の命をなげうったのだろう。

これまでにも、何度となく自問自答してきたその答えが、今のおちかには、やっとわかったような気がする。おしまに語ったことで、事件の直後から今まで、混乱したまましまいこまれていたものが整理されたからだろう。

松太郎は、おちかを生かしておくことが、いちばんふさわしい罰だと考えたのだ。どうしてそうなのかといえば、おちかが命乞いをしたからだ。

助けて。

あの身勝手で浅ましいおちかの懇願に、松太郎は悟ったのだ。目が覚めたような思いだったことだろう。

こんな女に、俺は心を寄せていた。こんな女が、悪戯にでも子供心にでも、自分を好いてくれていることを嬉しく思っていた。

もとより、自分の立場では、おちかと添い遂げることなどできるわけもない。それは百も二百も承知の上だ。だが俺は、それでもいいと、こんな女に己の人生を預けていた。この女の幸せのために、この女の影になり、何の見返りも求めずに、どんな不遇にも文句を言わず、傍らに寄り添い、力を尽くそうと思っていた。一生を捧げようと決めていた。それが丸千で受けた恩を返す道だと思っていた。

だからこそ、蚊帳の外扱いされてもおちかの縁談に祝いの言葉を述べ、面憎い良助にも頭を下げて、おちかの幸せを願ったのに。

それが何だ。

良助の悪口雑言はまだわかる。覚悟してもいた。だが、おちかはどうだ。

良助と一緒になって、松太郎を罵倒し嘲笑うなら、それもひとつのけじめかもしれない。おちかへの松太郎の想いを踏みにじり、松太郎を切り捨てるというのなら、いっそ潔いとも言えるだろう。その結果、松太郎が丸千を出てゆくことになっても、松太郎はおちかを憎んだりはできない。

松太郎の想いは、松太郎だけのものだから。

しかしおちかは、良助の肩を持ちはしなかった。それでいて、良助を諫めることもしなかった。良助に黙っていろと言われたら、口をつぐんで、彼が松太郎に痛罵を浴びせるのを黙って見ているだけだった。

挙げ句に、目の前で良助を殺されて、それでも俺を憎むでもない。罵るでもない。理由を問い詰めることもなく、さりとて泣いて謝るわけでもない。放った言葉はたったひとつ。助けて。

それほど己が可愛いか。良い子のままでいて、松太郎にも憎まれたくはないか。

助けてとすがれば松太郎が許すと、まだそれが通用すると思っている。

手にかけるほどの価値もない。松太郎はそう悟ったのだ。

そして、こんな女のために嫉妬に狂い、怒りに我を忘れ、良助を殺した自分自身が哀れになった。こんな女に賭けて堪え忍んできた丸千での日々が無になったことが、情けなくて忍びなくてたまらなかった。

だから、死を選んだのである。]

さて、今回の黒白の間での百物語の語り手は、四人目の客は、おしまの肝煎りやった。おしまが以前奉公しとったお店のお嬢さんで、今は若内儀のお福ちゅうふくよかな頬の笑うと目が糸のように細くなり目尻が下がる福顔の三十歳位の女なんや。

読み終えて分かるんやが、おしまがお福に黒白の間での話を頼んだのはおちかを案じての事なんや。三島屋もええ奉公人得たもんや。

そのお福は、石倉屋ちゅう日本橋小松町の繁盛しとる仕立て屋に生まれ育ったんやが、家族は父三代目鉄五郎と母おかねと姉に兄。

父は蒲団縫わせたら江戸でも指折りの腕前でもあった。

姉のお彩は、赤ん坊の頃から病弱で咳に悩まされとった。どうにか三つになった時、どこか暖かい土地に転地させるのがええちゅう話が持ち上がり、両親は愛しい娘を手離すの忍び難いものの、咳に苛まれるお彩の命守ろうと、懇意にしとる呉服屋の大磯の親戚である大店の問屋に、乳母役務める女中一人を付けて預ける事にしたんや。

跡取りである兄の市太郎は、お彩とは年子で生まれ、綺麗な顔立ちやった。

お福は、お彩の七歳下、市太郎の六歳下や。

お彩の激しい咳は、大磯の温暖な空気に触れとるせいで、そう月日が経たない内に治まった。しかしながら、試しに江戸へ連れて行ってみよとすんねんけど、品川宿辺りで酷い咳の発作起こしてもうて足留めくらって、結局大磯に引き返さざるを得んのや。季節を変えてみても結果は同じなんや。そんな事が繰り返され、お彩は「江戸に帰りたくない」と云い切った。

ところがお彩が十七歳となったら、本人が石倉屋に帰ると云い出して、養父母は狼狽し傷心や。それでも動じぬお彩。

養父母は、腹の内では号泣しながら顔は笑うて、お彩を江戸に送り出したんや。また品川宿辺りで酷い咳の発作起こさんもんかと期待したやろなあ。虚しい期待やったが。

それ迄の事が不思議に思われる程、お彩は咳に悩まされず実家に戻れたんやがな。戻って来た彼女は見事に健康で、血色ええし、髪には艶があった。立ち居振る舞いは優美ながら活気に溢れとった。しかも、度外れた美しさやったんや。

鉄五郎とおかねの心配は、弟妹と気が合わなかったらちゅう事やったが、それは杞憂に終わったがな。十日も経ぬ内に、しっくりと馴染んでしまったんや。

[市太郎は想い人を遇するように姉を遇し、お彩もまた、生真面目で優しい弟の気性を愛し、一方で跡取りとしての彼を立てることも忘れない。阿吽の呼吸というか、連理の枝というか、ときにはまわりが呆れるほどに、この姉弟は、たちまちのうちに親しんでいたのである]

しかもお彩は、針持たせたら修業始めたばかりの職人見習いなど、足元にも及ばぬ手筋なんや。天は二物を与えたんですわ。

そしてお彩の美貌は江戸の水に磨かれて、一層輝き増しとった。そんなお彩やから仰山縁談が舞い込むわな。けれども彼女はそれらを最初から断ってまう。話を聞く事さえせえへんのや。

姉さんが一緒に行ってくれるなら寺子屋に通うと云い張るお福の為、その往復にお彩が付き添ったんやけど、度外れて綺麗なお彩を目にした擦れ違う人達が金魚の糞のようについて来たり恋文渡そうとしよるんで、用心の為石倉屋に住み込む古参の腕ええ職人頭宗助も付き添いを務めたんや。

ごっつく怖い顔やが無口で優しい宗助がどうしても身体が空かない時には、代わりに市太郎がお福とお彩に付き添ったんやが、美女に美男が加わったんやさかい金魚の糞も一層長くなった。

しかし、お彩にも市太郎にも、付いて来る人達は金魚の糞でしかなかった。ふたりは連理の枝やさかい。

連理の枝ちゅうのは、相思相愛の男女を喩える表現なんやて。初めて知ったわ。

つまり、姉と弟が女と男の仲やった。近親相姦やった。

「生まれたときからずっとひとつの屋根の下で暮らして、物心つく前に姉弟として馴染んで―おかしな言い方ですけど、姉弟としてできあがってしまっていたならば、そんなことにはならなかったと思うんですよ」と云うお福やった。さらに「姉が幼いうちは、姉をわたしたち家族から引き離しておいて、姉が美しく育ち上がったら、けろりと本復させて、返してきた―。ええ、姉の病はそういうふるまいをしたんです。意地悪じゃございませんか。病というより、呪いみたいなものでございまます」と、病に意思があるかのように云うんですわ。

ふたりの仲をまず女中達が気付き、宗助でさえ気付いて、とうとう気付かぬのは両親とお福だけとなりましたんや。

奉公人達は気付いとっても云うに云われず黙っとったんやけど、朴訥律儀な宗助が意を決してご注進に及んだ。独り身やし鉄五郎に次ぐ腕前の彼なら、主人夫婦の勘気に触れ追い出されても、生計の道には困らぬからな。石倉屋もええ奉公人得たもんやったが・・・

果たして、忠義な宗助の申し立ては裏目に出た。

人倫にもとる爛れた関係を告げられた鉄五郎とおかねは、最初面食らい、そして胸の悪くなる冗談だと退け、それが過ぎると、鉄五郎は猛然と怒り、おかねは震え上がった。怒りに支配された鉄五郎は、宗助を殴る蹴るやで、重態の身にしてしまうんや。

ごっつ哀れにも宗助、五日後に死んでまう。

ところが両親の所に来たお彩は、宗助が告げた事はほんまやけど、それが悪い事とは思われん、誰もそんな事教えてくれんかった。そう言い放つ。

両親に問い詰められた市太郎は、道を外れた悪い事だとは知っていたけれども、どうしても己の気持ち抑えられんかったと云いますんや。姉の美に魅せられ、引きずられて深みにはまったんや。

鉄五郎、その時蒼くなってももう遅いがな。真実告げた宗助を殺してしもたんやから。

鉄五郎とおかねは、宗助は酔って暴れて階段から転げ落ちた事としてそそくさと始末してまう。また、市太郎は牛込の方にある鉄五郎の知り合いの仕立屋へ二年間奉公に出す事にすんねん。

市太郎が奉公に行く前日、十七歳のお彩は首括ってしまいますんや。

それで、愛する人失った市太郎がどないなってまうやろと思うたら、お彩の死で市太郎は見事に正気づきましたんや。

でもな、母おかねが亡くなった娘の身の回りのもんを捨ててまうやけれど、奉公に行く前、市太郎はお福に姉の形見として手鏡を差し出し、内緒でしまっておくんやでと、行李を取り出して仕舞うんですわ。「姉さんのことを思い出して悲しくなったら、取り出して覗いてご覧。でも、けっして誰にも見られてはいけないよ」云うて、固く指切りすんねん。

何か怪しいやろ。お福も嫌な感じして、手鏡を覗く事は一度もなかったんや。

奉公に出た市太郎は、約束通り腕を上げ二年で石倉屋に帰って来ましたんや。修業先の十七歳の次女おかめ顔のお吉を連れてな。

絵双紙から抜け出たような美女に懲りて、おかめさんだけど気立てのええ女を妻にするんやと、思われた市太郎やったが・・・。

三月の後、お吉は嫁いで来た。陽気で賑やかで、働き者。そそっかしいところがあって、姑のおかねに叱られても右から左に聞き流す。誰にも何の遠慮もなく、開けっ広げなお吉やった。

誰の目にもそんなお吉と市太郎は旨くいっとると見えたがな。

お吉が嫁に来て一月も経たない内、市太郎がお福にあの手鏡を返してくれと頼むんや。

お福は知らんぷりしとった。

すると、市太郎は行李から勝手に手鏡持ち出してしもて、お吉に渡してしまうんや。

お吉の手にお彩の手鏡があるの見たおかね、色をなして怒った。市太郎を問い詰めるが、作り話しよる。おかねはお福呼んで手鏡の件聞くと、経緯を打ち明けられ、お吉からそれを取り上げましたがな。

それから何日か経つと、宗助の幽霊が出たんや。しかも夜も昼もなくひょいと現れるようになったんですわ。宗助は一所懸命に何かを伝えようとしとる様子なんや。いやいやするみたいに首振る事もあったんや。

それ見えるの、鉄五郎とおかねにお福の三人だけやった。

三人は幽霊に気が向いとったからすぐではなかったが、お吉が次第に変わって行くのに気付かされますんや。顔形に変わりはないんやが、立ち居振る舞い、仕草、好き嫌い、声音や言い回し、お吉が日に日に首括ったお彩になってますんや。おかねは、お吉にお彩が憑いてしもた、そうしてお彩が戻って来た、と思い込む始末やった。

或る夜、市太郎は父に黒絹の蒲団を仕立ててみたいと申し出たんや。

おかねは思う。雪のように色白やったお彩の為、黒絹の蒲団を仕立てようとしとると。白い肌は黒絹の蒲団によう映えるからな。

お彩が鏡を依り代にお吉に憑りついたと思うた両親、おかねが仕舞っておいた形見の手鏡を鉄五郎が覗いてみると、何とそこにお吉が居るやないかい。声は聞こえぬが、叫んどるんや。お吉が鏡の内側叩き、ここから出してくれと必死で訴えとるんや。

それ見たおかねは手鏡をもぎ取り、若夫婦の寝所に飛び込みまんねん。そして、手にした手鏡でお吉を打って打って打ち殺してまう。

鉄五郎、腰を抜かして為す術も無かった。

お吉、なぜ打ち殺されねばならぬか分からず死んだんや。可哀相や。

この事件で、おかねは伝馬町の牢で獄死。家内仕置不行届を咎められた鉄五郎は百叩きの上江戸払いの刑。

市太郎はちゅうと、お彩が首括った座敷の同じ鴨居に黒絹で首を括って命絶った。

そうして、石倉屋は滅んだんですわ。一人、お福だけが残ったんですわ。

時に見えないもんも見えてまうのが、人間や。宗助の幽霊や鏡の内側のお吉は、呵責が見せたんやろな。

語ったお福が今は幸せに暮らしとるのがええ。

しかしや、もしお福が手鏡を覗いとったらと考えたら・・・もっと怖い話やでえ。