沼津便り12月-2
2023年12月23日 松本 徹編集
今年沼津便りを書くつもりはなかったが、ダイハツ工業の不正事件を知って様々な事が走馬灯の様
に蘇って来た。車の開発に携わった事のある人ならこの事件を聞いて腹立たしく思った人は多く
いると思う。車をお客様に安全に乗って頂く為には実に多くの安全試験を実施し、これなら大丈
夫だと言う確信を持てた時点で初めて生産し販売店に車を届ける。それでも市場に投入すると品
質問題は発生してしまう。現在もエアバック、燃料ポンプ
等の問題で大規模のリコール問題が発生している。僕はト
ヨタ紡織で仕事をしている時にダイハツの仕事に携わった事
がある。ダイハツに収める一部のシートはトヨタ紡織が
Tier1になっており、Tier2は大阪に本社のあるシート会社
が生産をしていた。当時の僕はシート工程の重要工程の監
査改善活動を実施するグループで仕事をしていた。その中
でも指定自動車関連の監査はとても重要で例えばシートに
装着するヘッドレスト1個でも違う製品を取り付けて出荷す
ると出荷停止の対象になってしまう事もある。現在自動車の組み付け工程は順建て方式で組み付
けられており、自動車の生産順番とシート及びヘッドレストの順番を同じ順番にして自動車工場に
納入している。よってこの順番を間違えると誤品となってしまう。トヨタでは○の中に指と書い
て指定自動車関連がわかる様に図面に記入している。新車時の車検は自動車会社が国に変わって
実施しており、生産工場が指定自動車の認可を受けている。だから指定自動車のルールに反した
事が見つかると出荷停止の対象になってしまうのだ。この様な背景の中で各社様々な工夫をして
誤品が発生しないように日々改善を続けている実態がある。今回ダイハツが34年間に渡り、不正
を行ってきた安全試験の未実施、データ改ざんは最も基
本である安全性に関わる事柄を改ざんして販売していた
と言う事であり、このことは決して許してはいけない事
なのだ。今後この事件の処分については冷静に見守る必
要があるが、当面はダイハツでの自動車開発と生産、販
売の権利を剥奪する必要があると僕は考えている。また
なぜこの様な事柄が長年にも渡って続けてこられたのか
分析する必要があるが、今回も内部告発によってこの事
件が明らかになっている。とにかく馴れ合いで仕事をす
ると碌なことにならないので、第三者による監査が今後
も重要な仕事になると考えている。僕は昔から「人の言いにくいことを論理的に話す事で品質改
善に結びつける」を基本に仕事をしてきた。だから監査に行くと工場の長から「とても厳しい監
査ですね」と良く言われた。今も海外の工場に行って監査の仕事を実施しているが、ここでも会
社の長に「とても厳しいですね。」と釘を刺された。しかし僕が今ここで言わなければ大きな品
質問題が発生すると思い、厳しく指摘している。またこの事で首になっても仕方ないと思いなが
ら仕事を続けている。それだけ品質の仕事を続けて行くには覚悟が必要だと言う事なのだ。しか
しながら製品の開発をスタートすると日程、コストが優先され品質の事が疎かさにされてしまう
現実もある。僕はトヨタで多くの事を勉強させて頂き、良い先輩にも出会うことが出来た。仕事
をしながら現地、現物でTPSの考え方を教えて頂いた。例えば異常があると生産現場では作業者
が赤い紐を引くとラインを止める事が出来る。アメリカの自動車会社ではこの事が信じられな
かった。アメリカではラインを止める事が出来るのはマネージャー以上の役職しか出来ず、トヨタ
の生産方式に目を疑ったのだ。
トヨタの自工程完結の基本は悪い製品は次の工程に送ってはいけない事を基本に成立している。
このことは誰が考えてもそうだと思うが、いざ生産が始まるとこの事がなかなか守れなくなって
しまう事実もある。ダイハツでも当然自工程完結と言う言葉
は使われていると思うが、自分の工程さえ良ければ良いと
言う内容に変換されて使用されていたと今朝のテレビ
ニュースで報じていた。
さて今回のこのダイハツの事件について様々な意見がある
と思うが、とにかく品質一番で企業活動を実践してほしと
改めて思いを強くしているところだ。毎年12月になると、
なぜか大きな品質問題のニュースが飛び交うのか不思議で
ならないが、2024年も「人の言いにくい事を言う」をモッ
トーに頑張りたいと考えております。
来年も引き続きご指導、ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げ
ます。
皆様にとっても良い年になりますようお祈り申し上げます。
追伸;車をCHRから青のヤリスに変えました。
敬具