携帯がなる、ピピロピピロ単調な音。
音楽に親しくない彼は着メロや着うたとは
無縁な人だ。
誰からの電話でもピロロピロロ
メールだとピリリリリピリリ。
出てもいいか と言う目で彼が私を見たから
どうぞ と席をたつことで言わずにかえす。
コーヒーの豆ってあとどれくらい残ってたっけ?
1LDKの小さな部屋だから
どこにいても彼の声はきこえる。
ああはい、もしもし、ゆ…ああ、えっと、
いま、名前呼ぼうとしてやめたな。
コーヒー豆の瓶の蓋を開けながら、
思う。ポン、っと蓋のあく間抜けな音。
別に、私は相手が誰かなんてはじめから分かっているのに。
意識して相手の名前を呼ばないまま閉じた口は、
今、電話の相手に
うんごめん、今度ちゃんと埋め合わせするからさ
と言っている。
悲しくはない、でも腹がたったし、
泣きたくなった。
唇開いて名前を呼んで
私にちゃんと見せ付ければいい。
はじめから、電話の相手はわかってる。
音楽に親しくない彼は、
彼女からの電話だけはピピロピピロ、
彼女からのメールだけはリリリリリリに
設定している。それくらい、私は知ってる。
コーヒーの濃い香りがした。
飽和するくらい砂糖を入れてやろうと決めた。