10のキーワード(2) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日11月30日は、2013年、SKULLMANNIAフェス@新木場Studio Coastに出演した日DEATH。

Keyword #2:キツネ様のギミックと本物の演奏力

BABYMETALには、ヘヴィメタルのアーティストやファンがやるメロイックサイン(プロレスファンにはスタン・ハンセンの「ウィー(Yooouth)!!」)をもじった「FOXサイン」という独自のハンドサインがある。何のことはない“影絵のキツネさん”である。
BABYMETAL結成当時、小中学生だった中元すず香、水野由結、菊地最愛の三人は、ヘヴィメタルというジャンルの音楽を聴いたこともなかった。
そこで、アミューズのサラリーマンプロデューサー小林啓氏は自らKOBAMETALと名乗り、中元すず香にSU-METAL、水野由結にYUIMETAL、菊地最愛にMOAMETALという「メタルネーム」をつけ、メロイックサインを教えた。すると三人は、「わあ、影絵のキツネさんだ!」と手遊びを始めた。
それを面白がったKOBAMETALは、「キツネ様」こそBABYMETALの守護神であるとし、BABYMETALは、「“巨大勢力アイドル”に支配されている世界を解放し、ヘヴィメタルで再びひとつにするため、メタルの神キツネ様が召喚した三人の美少女メタル戦士、アイドル界のダーク・ヒロインである」という荒唐無稽なギミック=アイドルの「設定」=BABYMETAL神話を創った。


そのため、Kawaii顔をしたメンバーはインタビューで、語尾には必ず「〇〇DEATH!」をつけ、「ライブ中はキツネ様が降臨しているので記憶がない」と言い張り、目標として「世界征服」を掲げた。
その戦い、すなわちBABYMETALとしてのライブ活動を、METAL RESISTANCEという。
以降、2012年~2013年をMETAL RESISTANCE第1章、海外デビューした2014年をMETAL RESISTANCE第2章といった具合に、年度または大きな出来事のたびごとに章が改められ、2019年~現在はMETAL RESISTANCE第9章となっている。
そして、この荒唐無稽なギミックがライブ中のストーリームービー=「紙芝居」として初披露された2012年10月6日のライブ、Legend “I”において、「キツネ様は、戦いの長期化に備えて、BABYMETALにさらなる力を与えるため、ギターの神、ベースの神、ドラムの神からなる、神のごときテクニックを持つ楽団を降臨させる」として、初めて生バンド=神バンドが登場した。

2013年のライブは神バンドと骨バンドが半々だったが、2014年以降は、BABYMETALのライブは、神バンドの生演奏が標準となった。


SU-METALこと中元すず香は、Perfumeを輩出した広島の芸能学校アクターズスクール広島(ASH)に、特待生入学したほど、幼い頃から歌唱力に秀でていた。アミューズにスカウトされ、小学校5年生で可憐Girl’sのメンバーに抜擢されたのも、その天才の故だった。
もともとメタルマニアだったKOBAMETALは、可憐Girl’sの「任務完了コンサート」で中元すず香の類まれな歌唱力に感銘を受けて、「メタル少女歌劇団」を構想した。
中元すず香がさくら学院に入り、担当プロデューサーとなったとき、KOBAMETALはメインボーカルの中元すず香と、その周りで踊る天使たち=水野由結、菊地最愛というトライアングルのイメージから重音部=BABYMETALを結成した。
最初期のBABYMETALはカラオケで歌っており、2012年4月の「第2回アイドル横丁祭り」出演時から、カラオケに合わせて当てぶりで踊る全身タイツのBABYBONE、通称「骨バンド」がついた。
だが、SU-METALの歌声は、正確なピッチと、裏声やビブラートをほとんど使わないストレートボイスで、メタルの生バンドの大音量の中でも響き渡る特性を持っていた。
そこで、KOBAMETALは、「キツネ様」のギミックの一方で、カラオケ、口パクが主流の「アイドル」の常識を超えて、ロックフェスや海外でも通用する生演奏、生歌をBABYMETALに課した。
演奏を担当する神バンドのメンバーは白塗りもしくは覆面をしており、ライブごとに入れ替わることもあるが、いずれもプロを教える「講師級」のメンバーであり、日本人の演奏レベルを見せつける腕利きのサポートミュージシャンたちだった。
主なメンバーは以下のとおり。
<ギターの神>
Leda(元Far East Dizainメンバー)…Leda神様
大村孝佳(C4、dCprGメンバー、MI Japan講師)…大神様
藤岡幹大(TRICK BOX、仮バンドメンバー、MI Japan講師)…小神様
<ベースの神>
BOH(元BINECKS、仮バンドメンバー)…禿神様
<ドラムスの神>
青山秀樹(EVER+LASTメンバー、日本芸術専門学校講師)…青神様
前田遊野(元Blue Man Group IN TOKYO打楽器担当、仮バンドメンバー)
中でも、藤岡幹大、BOH、前田遊野の3人は、マスロック、Djent、フュージョンといったテクニカルな音楽をミックスさせた「神バンド」ならぬ「仮バンド」を結成して、独自に演奏活動もしていた。
2018年1月、2014年以降の海外ライブには必ず帯同していた小神様こと藤岡幹大氏が、自宅での天体観測中に屋根から滑落して逝去された。
それ以降、神バンドのギタリストには、藤岡氏の盟友でもあったISAO(元Cube-ray、元The Fadedメンバー、元MI Japan東京校講師)、弟子であった平賀優介(GIT MASTERS 2015グランプリ、G.O.D COMPETITION 2016 グランプリ受賞、Arise in Stability、Guitarists On Demandメンバー)が加わった。2018年10月に公開された「Starlight」は同氏に捧げる楽曲である。
また、2019年9月の全米横断ツアー以降は、Star Warsの音楽をDjent風に演奏するアメリカのメタルバンドGALACTIC EMPIREを主体とする「西の神バンド」がツアーに帯同した。
<西のギターの神>
Chris Kelly(元GALACTIC EMPIREのDark Vader、現ALUSTRIUMメンバー)
C. J. Masciantonio(GALACTIC EMPIREのKyle Ren)
<西のベースの神>
Clint Tustin(GALACTIC EMPIREのRed Guard)
<西のドラムスの神>
Anthony Barone(Beneath the Massacreメンバー)


神バンドの生演奏で歌い踊るようになって、BABYMETALのパフォーマンスは一層磨きがかかった。
Legend ”I”で、初めて神バンドの生演奏で歌ったとき、中学3年生のSU-METALは、臆するどころか、「後ろから後押しされているようで心強い」と言った。
2015年、Zepp名古屋でのライブの際、会場外の待機列に並んでいたメイトたちは、漏れ聴こえてくる会場内で始まったリハーサルの音を聴いて驚愕した。大音量のはずのバンドの音は微かにしか聴こえないのに、SU-のボーカルはライブハウスの分厚い防音壁を貫いて、朗々と聴こえてきたのである。証拠の動画がYouTubeにアップされている。
つまり、SU-METALというボーカリストは、アイドルの枠をはるかに超えて、大音量のメタルバンドの生演奏を従えてしまう破格の歌唱力を持つ、天性のメタルクイーンなのだ。
また、ダンスについても、BABYMETALはほかのアイドルグループとは一線を画している。
さくら学院およびBABYMETALの振り付けは、同じくアミューズ所属の振付師MIKIKOが担当した。
MIKIKOの哲学は「表現としての振り付け」であり、幼い三人はその薫陶を受け、激しいメタル楽曲でも、ダンスで観客に内面を伝える表現をすることを叩き込まれた。
そのため、ダンス担当のYUIMETALとMOAMETALは、海外の巨大な野外ステージでも、日本語のわからない観客に、ダンスで歌詞の意味を伝えようと全力で踊った。
メタルとダンスは「水と油」というのが欧米の常識だが、BABYMETALはその枠を超え、ダンスもギターのリフと等価であることを証明するように、キレッキレ、かつ心のこもったダンスを披露する。
BABYMETALのライブでは、いくつかの楽曲で、いったんメンバーがステージを捌け、神バンドの各メンバーがアドリブソロを繰り広げたあとに、再びメンバーがステージに登場するというシーンがある。
初期では「Catch Me If You Can」、「悪夢の輪舞曲」、「あわだまフィーバー」、最近では「Kagerou」でそうしたシーンが見られる。その瞬間、超絶技巧の神バンドの演奏と、踊りながら再登場して歌に入るメンバーのコントラストに、ファンならずとも「うわあ、カッコいい!!」と思わず叫んでしまう。


「キツネ様」の意志によりメタル音楽のすばらしさを世界に広めるという「ギミック」だったはずのBABYMETALの使命が、リアリティをもって感じられる瞬間である。
そのキツネ様に捧げた、BABYMETALのメジャー2ndシングルが「メギツネ」である。
BABYMETALのメジャーデビュー曲は、2013年1月の「イジメ、ダメ、ゼッタイ」で、日本人好みの北欧風メロディックスピードメタルの曲調だった。
だが、2ndシングル「メギツネ」は、MVが阿佐ヶ谷神明社の能舞台で撮影され、イントロが「さくらさくら」のメロディで「♪キ~ツ~ネ~、キ~ツ~ネ~」と始まるように、和風メタルだった。


せっかくついた洋楽ロックファンも、この曲はアイドルっぽくもメタルっぽくもないと思った。
ところが、2014年に海外でライブをやってみると、「メギツネ」は大ウケだった。
「さくらさくら」のメロディは、「日本」の象徴であり、続いて始まるヘヴィなギターのリフと、繰り返される機械音に、欧米人は禁断の邪教=メタルの神キツネ様を思って戦慄した。
曲に入るとYUI・MOAの「狛ギツネ」のようなポージングや、和楽器のオカズ、まるで空中を浮遊しているかのような三人の片足平行移動ジャンプ、SU-METALの迫力あるボーカル、「ソレ!ソレ!ソレ!」「ソイヤ!ソイヤ!」と客席を煽る姿、時折入る「キツネ火」を思わせるピッキングハーモニクスは、まさに「Land of Rising Sun=日出づる国、日本から来たFOXGODの美少女戦士」そのものだった。
現在でも、「メギツネ」MVのYouTube視聴件数は「ギミチョコ!!」に次ぐ6835万回で、大人気曲である。これもまた現実とリンクする「キツネ様」のお導きかもしれない。
他にも、キツネ様=稲荷神=宇迦之御霊の日本神話とBABYMETALを取り巻く人間関係の類似点や、広島の「被爆お守り狐」が起こした奇跡の連鎖など、「ギミック=設定」のはずのキツネ様=BABYMETAL神話が現実の出来事と重なる不思議は数多い。
つまりBABYMETALは、「キツネ様」というギミックと本物の歌唱力・ダンス力・演奏力が混然一体となったアーティストなのである。
(つづく)