認知的不協和 | 私、BABYMETALの味方です。

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★今日のベビメタ
本日3月4日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

アメリカの社会心理学者レオン・フェスティンガー他の著書『予言がはずれるとき』(勁草書房、水野博介訳)は、アメリカに実在したカルト宗教団体に信者を装った学生を潜入させ、信者たちの不可解な行動を詳細に観察したスリリングなレポートで、社会心理学の古典となっている。


1953年の冬、この団体の創始者キーチ夫人(仮名)は、今は「サナンダ」と名乗っているというイエス・キリストと直接交信し、約1年後の1954年12月20日に大洪水が起こり、地球は滅亡するが、空飛ぶ円盤が飛来して信じる者たちを救うであろうという「お告げ」を受ける。
キーチ夫人は、州立大学教授で医師でもあるアームストロング博士(仮名)夫妻とともに、新聞に投稿するなどして信者を集める。信者の中には仕事をやめ、財産を全部寄付する者もいたという。
そして約1年後、ついにその日を迎える。
だが、ぼくらが今ここにいるように、大洪水もUFOの到来も起こらなかった。
信者たちはどうしたか。
「お告げ」がはずれたことに憤るより、自分たちの熱心な信仰と祈りによって、神の怒りが軽減し、地球滅亡の時期が延期されたのだと考える信者が多かった。仕事、家族、財産など、すべてを投げ打った信者ほど、その傾向は強かったという。
キーチ夫人は、いったん南米に渡るが、1961年に帰国し、別の名前で「サナンダ及びサナット・クマラ協会」という団体を設立し、少なくとも数千名の信者を集めたという。
この事例から、フェスティンガーは「認知的不協和」という人間心理を提唱した。
ある人間が、それまで信じてきたことと矛盾する現実に直面した時、普通はそれまで信じてきたことを疑い、行動を変える。
しかし、どうしてもそれまで信じてきたことを捨てられない人は、信念と矛盾する現実の方を否定し、今までの自分の行動を正当化してアイデンティティを保とうとする。そういう人は、一般的にはいかに非合理であっても、自分を正当化するのに役立つ理由なら何でも採用してしまう。
これが認知的不協和という心理現象で、合理的なA.I.にはできない芸当だ。
この心理状態で説明できる歴史的現象はいくつもある。
1989年に東欧革命が起こり、1991年にソ連が崩壊すると、それまで社会主義・共産主義を信奉してきた多くの人々が幻想を捨てた。だが、一途に革命を信じてきた人たちは「認知的不協和」のために夢から覚めることができず、教育現場、報道機関、市民運動などさまざまな分野に潜り込んで、少しでも自分の「信念」を追求しようとした。欧米の環境保護運動や性差別撤廃運動が時に過激化し、反資本主義の色彩を帯びるのは、そのDNAによるものである。


ヨーロッパで滅びた共産主義独裁国家は、アジアでは延命してしまった。
そのチャンスを作ったのは日本だ。
日本では1989年6月4日の天安門事件後も、中国との関係を維持しようという勢力が根強く残り、1992年には天皇の訪中が実現し、世界に先駆けて「武力弾圧容認」のメッセージを発してしまった。
さらにその10年後、2002年の小泉訪朝で金正日が拉致を認めるまで、北朝鮮はいい国だ、拉致はデッチ上げだと言っていた政党が生き残っていた。
そのため、中国は経済発展を続け、2000年代には日本を追い越し、その恩恵によって北朝鮮も核実験やICBMを開発できるほどの「実力」をつけてしまった。
普通に考えれば、国民を情報統制し、信教の自由を認めず、法輪功信者の臓器を生きながら切除して売買し、チベット人やウイグル人を民族浄化し、一国二制度の尊重を求める香港の学生を武力弾圧し、尖閣諸島水域に毎日軍艦を侵入させている中国の非道や、2002年に帰国した5人以外の拉致を認めず、武漢ウイルス禍の真っ盛りにミサイルを発射する北朝鮮の凶暴さという事態に直面すれば、共産主義独裁という体制がいかに危険であるかはすぐにわかる。
しかし、日本や韓国では、すぐお隣に中国と北朝鮮という「お手本」があり、社会主義「革命」を信奉する人々とその後継者世代が生き残った。もちろん現実社会ではそんな主張は受け入れられないから、彼らは一般人には理解しがたい「金一族の革命的血統」を信奉するチュチェ思想や、トンデモ陰謀論さえも、理論武装=自己正当化の理由づけに採用してしまう。韓国ではそういう人たちが政権をとってしまったからタチが悪い。
いくら理路整然と説いたとて、また不都合な現実に直面したとて、この人たちは決して自説を曲げない。「認知的不協和」という心理現象に自分で気づいていただくより、他はないのだ。
 

認知的不協和理論は、不合理なデマが起こるメカニズムも説明する。
Wikipediaの「認知的不協和」の項に出ている例をそのまま挙げる。

「あるコミュニティで何らかの災害が発生していると、その災害が起こっていない隣接するコミュニティで、不合理な恐ろしい噂が広がる。これは、脅威に直面していない人が、災害への不安を正当化する必要があるためである。」
これこそ、まさに今日本で起こっている現象ではないか。
「不合理な恐ろしい噂」とは、例えば武漢ウイルスが「HIVウイルスを組み込まれた生物兵器」だという説である。発生場所はBSL4(バイオセーフティーレベル4)のセキュリティを持つ「武漢病毒研究所付属国立生物安全実験室」だという説と、より海鮮市場に近い「武漢疾病対策予防管理センター」だという説があり、さらに「中国共産党が撒いた」説と「アメリカCIAが撒いた」説とがある。
「世界的パンデミックは国際ユダヤ資本の陰謀だ」というダレトク説もあるし、「武漢病毒研究所のA.I.が反乱した」という近未来SF説もある。「東京オリンピックが中止になった1940年、日本軍は武漢を攻撃していた。だからそれへの報復だ。」とか、もはや誰が悪者なのかわからん説もある。
「感染者が270人もいるのに、その人たちがSNSで情報発信していないのは、政府または闇の勢力から情報発信を止められているからだ」という説もある。
ちょっと考えればわかると思うが、罹患者は入院中だし、その多くが高齢者だ。回復した人たちが名乗り出ないのは、その人も家族も、あるいは同じマンションやアパート、近隣の方たち、勤務先へも風評被害が及ぶ危険性が高いからだ。当たり前ではないか。
「日本政府・安倍政権は、感染者数が増えるのを恐れて国民にPCR検査させないようにしている」というのも、こうした類の最も悪質なものである。
こういう「不合理な恐ろしい噂」が流れることは、逆に言えば「脅威に直面していない」証拠と言えなくもないが、それを流したり、信じたりする人たちほど、トイレットペーパーやティッシュを買い占めている可能性もまた、高い。うしろめたさを、こうした珍説で補強=正当化しているからだ。
 

ぼくとて、人間である以上、認知的不協和の心理に陥っていないとは限らない。
フェスティンガーの実験によると、学生を高い報酬を与えるグループと低い報酬しか与えないグループに分けて、ある単調な作業をさせつつ、「これは非常に面白い作業だ」と明示すると、報酬の少ないグループの方が、報酬の高いグループより、その作業を「面白かった」という学生が多かったという。
報酬の少ない方が、かえって「この作業は面白いんだ」と信じ込もうとする。つまり人間は悲惨な状況に置かれると、それをなんとか自己正当化しようとするのだ。
スペインやポルトガルの過酷な植民地支配に置かれた南米やフィリピンでカトリック信者が多いのもそのためだ。これを「カトリックの逆説」という。
「日本はいい国だ」と主張したがるのは、ぼくの人生や生活状況が悲惨だからかもしれない(^^♪。
逆に、左右を問わず、政権を痛烈に攻撃する人たちは、収入が高く、「日本はいい国だ」と思い込まなくてもいいからかもしれない。世田谷自然サヨク(Copyright©上念司)がその典型だろう。
それはともかく、認知的不協和の心理に陥らないためには、「信念」はむしろ邪魔で、感情の入る余地のないデータや事実のみに立脚するしかない。
インフルエンザは今季感染者数675万人に達し、肺炎等の合併症を含めた死者は3,000人を超えているのに、武漢ウイルスの国内感染者は277人、死者6人にとどまっている。
1月に2万人/日入国していた中国人は、2月中旬には800人/日にまで激減し、2月8日以降中国人旅行者から感染者は1人も出ていない。
日本政府、厚生労働省、国立感染症研究所および専門家会議は、各地の感染者クラスターを解析し、先行的にPCR検査を進める「積極的疫学調査」の方針を堅持し、国民には、密閉され人が多く集まる環境に行かないこと、アルコール消毒、うがい・手洗い・外出時のマスク着用などの基本的感染症対策と「発熱したら4日間は自宅療養」という医療マナーを呼びかけている。
その結果、3月3日現在、日本国内の感染者数は依然増えてはいるものの、韓国やイタリアのような爆発的拡大は起こっていない。ここ3日間の拡大指数は1.1を下回り、1.040~1.070で推移している。人口比感染率は77か国中23位(0.00022%)にまで下がった。
予断は許されない。だが、ここまでのデータを見れば、日本政府の武漢ウイルス対策は、万全とはいえないまでも、ある程度きちんと機能しており、国民は、政府の呼びかけに応えて冷静に行動すればよいと主張するのは、ぼくが認知的不協和を起こしているからだとは思えない。
「信念」に足元をすくわれないように、心を合わせよう。