解題メタル銀河(11) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日10月31日は、2012年、日経トレンディネットにKOBAMETALインタビューが掲載され、2018年、World Tour 2018 in Japan@神戸ワールド記念ホール二日目が行われた日DEATH。

次に宇宙船BABYMETAL号が巡るのは、「メタルパワーの惑星」である。
メタルには人の心を動かす力がある。
爆音。激しいドラムスのビート、うねるベース。歪んだギターの倍音たっぷりの美しいサウンド。バンドの生み出すグルーヴがバイブレーションとなって客席に伝わり、ジャンプ、ヘドバン、モッシュ、クラウドサーフなど、身体を動かさずにはいられなくなる。
その一体感の中で、日常性は解体し、眠っていた荒ぶる魂が呼び覚まされる。
メタルこそBABYMETALの音楽性の基盤であり、他のアーティストと決定的に異なる要素でもある。
『METAL GALAXY』には、時間軸や空間軸に沿って、さまざまな音楽にメタルを融合させた楽曲が収録されているが、「Distortion」、「Elevator Girl」、「Starlight」、「Shine」、「Arkadia」は、最新のメタルらしくDjentっぽいリフを多用しながら、正統的なパワーメタルの曲調を持っている。
まずは、収録曲中最も早く、2017年5月にリリースされた「Distortion」の考察。
2017年12月Legend-S-@広島でSU-は成人したが、2018年1月5日に小神こと藤岡幹大氏が不慮の死を遂げ、YUIは引き続き欠場することになった。
待望の新曲であり、かつ苦難のDarksideを象徴するのが「Distortion」だった。
ディストーションとは、アンプの中で、増幅された音響信号が、出力波形を整えるクリッピング回路に過大入力されることで、音がつぶれ、歪むことを指す。
ハイファイオーディオで、歪みは禁物である。
1950年代に誕生したエレキギター/ベース用に真空管で作られたフェンダーなどのギターアンプも、歪みの少ないクリーントーンで、カントリー、ブルース、ジャズを奏でていた。
ザ・ビートルズやローリング・ストーンズ、ヤードバーズなど1960年代のイギリスのバンドも、基本的には歪みの少ないVOXなどのアンプを使用していた。
ところが、1960年代後半、ジミ・ヘンドリクス、リッチー・ブラックモアら、真空管アンプをフルボリュームにして歪ませると、倍音を含んだ豊かなサステインが得られることに気づいたアーティストたちがいた。
ロンドンにあった元ドラマーのジム・マーシャルのショップに出入りしていた彼らのうち、The Whoのピートタウンゼントは、100Wの大出力アンプと、8発のユニットを組み込んだスピーカーキャビネットを注文した。だが、そのキャビネットは持ち運びに不便だったため、ジムのアイデアで、スピーカーを4発ずつに分離し、アンプヘッド+2つの縦積みスピーカーキャビネットからなる「スタックアンプ」(1959、Majorなど)という形状が生まれた。
以来、マーシャルのスタックアンプとそこから生み出される歪んだ爆音が、ハードロックの歴史を作っていった。


大出力アンプで大音量を出さなければ美しい歪みが得られないことから、1970年代には、小出力の真空管アンプやトランジスタアンプでも歪むように、ギターとアンプの間につなぐさまざまなエフェクターが開発された。
バイポーラトランジスタの増幅回路の非対称歪みを用いた「ファズ」(Fuzz Faceなど)や、ダイオードのクリッピング素子に過大入力させる「ビッグマフ」(Big Muff)、エフェクター内に電圧増幅段(オペアンプ)を設けた日本のメーカーによる「オーバードライブ」(OD-1、TS-9、808など)、「ディストーション」(D&S、DS-1など)が開発され、現在ではさまざまな音質や特性を持つ無数の歪み系エフェクターが存在する。
1980年代になると、マーシャルJCM800・900シリーズやピーヴィ5150などのハイゲインアンプがメタリカ、ブラックサバス、ヴァン・ヘイレンなどのアーティストに愛用され、深いディストーションサウンドは、ヘヴィメタルのアイコンとなった。
現在では、デジタルモデリングアンプも普及し、多様なエフェクターと相まって、クリーントーン、軽いクランチから深い歪みまで、プレイヤーが曲目やパートによって自由自在に扱えるようになっており、様々なアーティストのサウンドが再現できるようになっている。故・藤岡幹大神のケンパーモデリングアンプの音=BABYMETALのディストーションサウンドは、ピーヴィ5150、ENGL-RB(リッチーブラックモアモデル)をベースに設定されていた。
なぜ、ぼくらはディストーションサウンドに惹かれるのだろう。
ホモ・サピエンスという種は、生まれつきの普遍音楽文法を持っている。
これは言語学者のノーム・チョムスキーが、人類の脳には生まれつき言語を習得する文法の枠組みが備わっているとして提唱する「普遍文法」に倣って、ぼくが提唱している概念である。
例えば、4:5:6の周波数比を持つ「ドミソ」の和音は、明るい感情を引き起こし、長調(メジャー)となるし、ミを半音下げた10:12:15の周波数比を持つ「ドミ♭ソ」の和音は悲しい感情を引き起こし、短調(マイナー)と呼ばれる。これは、誰に習ったわけでもないのに人類が共通して持っている本能である。
本来、アンプ(Amplifier)の目的とは、原音に忠実に、音量だけを大きくすることであって、歪んではいけないものだが、なぜかギターアンプが歪んだ音は美しく感じられる。
これもまた本能的な普遍音楽文法なのだとすれば、何不自由なく幸せいっぱいの人より、不幸や苦難の中で必死に生き抜く人の方が、人間らしく崇高に見えるのと同じようなことなのかもしれない。
エレキギターの原音を忠実に増幅したクリーントーンではなく、アンプの回路がギタリストの魂に共鳴するかのように咆哮するディストーションサウンドは、聴く者の心を強く揺さぶるのだ。


さて、BABYMETALの「Distortion」だが、歌詞がおおむね3つのブロックに分かれているとぼくは考えている。
まずはグロウルの「Give up Give up!」とSU-の「Can’t stop the power、Stop the power 、Is this a bad dream?」の掛け合いのブロック。
これは、SU-の内面的葛藤をあらわしている。
『METAL GALAXY』でアリッサ・ホワイト・グラズ(アーチ・エネミー)を起用した理由として、KOBAMETALは、女性がグロウルすることで、SU-METALの心の中の“もうひとつの顔”を表現できると思ったという趣旨を述べている。(『ヘドバンVol.24 』P.85中段)
次のブロックはSU-が歌う1番、2番、3番だ。
全ての連に「ひずんだ」が入るが、最初の行の「カラダ叫び出す」と、2行目最後の「キタナイセカイだった」は各番共通している。
ここがこのブロックの第一パートだ。
1番「ひずんだカラダ叫びだす」「ひずんだイタミ切りつけるキタナイセカイだった」
2番「ひずんだカラダ叫びだす」「ひずんだギセイ傷つけるキタナイセカイだった」
3番「ひずんだカラダ叫びだす」「ひずんだヒカリ奪われるキタナイセカイだった」
「ひずんだ」状況に叩き込まれ、「カラダ」が「叫びだす」。「イタミ」がわが身を切りつけ、「ギセイ」を強要されて傷つき、「ヒカリ」を奪われる。そしてこの世界が「キタナイセカイ」だったことに気づかされる。
ここまでは、絶望的な状況である。
だが、その後を「ひずんだ」を除いて並べてみると、ひとつの物語が浮かび上がってくる。
これがこのブロックの第二パートにあたる。
1番「ツバサ飛べるなら」「シハイ恐れない」「偽善者なんてKill 捨てちまえよ」
2番「コトバ届くなら」「ネガイ叶えたい」「WohWohWohWoh!」
3番「キズナ終わるなら」「チカイ忘れない」「このセカイが壊れても」
1番では、絶望的な状況でも、自分に「ツバサ」があるなら、「シハイ」など恐れない。偽善者=いい子ちゃんであることなんて捨て去ってしまえと自分を鼓舞する。
2番では、「コトバ」が届くなら、目標としていた「ネガイ」を叶えたいと訴え、3番では、仮に「キズナ」が終わるとしても、自分たちは決して「チカイ」を忘れない。たとえ、この「セカイ」が壊れても、と叫ぶ。
2017年12月のYUI欠場、2018年1月の藤岡神逝去、2018年5月からのツアーでのYUI欠場、2018年10月のYUI脱退と、一連の出来事を考えれば、この歌詞が、SU-とMOAが運命に立ち向かう意思を示していることがよくわかる。
ぼくなりに深読みすれば、「ツバサ」とはメタルのパワーのことであり、「コトバ」とは自分たちの気持ち。「ネガイ」とは、以前と変わらぬ「メタルで世界をひとつにする」「BABYMETAL道」の完成である。
そして、終わる「キズナ」、忘れない「チカイ」とはYUIとの関係性を意味しているだろう。
もっともMOAは、『Rolling Stone Japan』のインタビュー中、アルバムが出たことで入手した歌詞カードを見て、「偽善者なんてKill 捨てちまえよ」というフレーズを「初めて知った…(笑)」と言っているのだが。(『Rolling Stone Japan 2019年11月号』P.121中段)
この曲のもう一つのブロックは、ぼくら観客が歌う「WohWoh Woh Woh!」である。
ライブでは、この曲の冒頭、不穏なギターのDjentリフとドラムスの音が響く中、遠くからこの「WohWohWohWoh!」が聴こえてくる。ぼくらはそれに声を重ね、5回目の「WohWohWohWoh!」で音程が上がり、イントロが始まる。
各番の1行目と3行目の合いの手にも「WohWohWohWoh!」が入り、2番の最後も「WohWohWohWoh!」で、ここから間奏部が始まる。SU-は「Sing!」と観客を煽り、ぼくらはBABYMETALへの愛と尊敬をこめて「WohWohWoh Woh!」と繰り返し叫ぶ。
藤岡神の逝去、YUIの欠場―脱退は、思っても見なかった結成以来、最大の危機だった。
だが、BABYMETALは2018年、DarksideのChosen Sevenで進み続け、今年に入ってからは、新たな「三人目」としてのアベンジャーや銀河神バンドの帯同、そして『METAL GALAXY』の世界同時リリースによって、新たな戦いを始めた。
そんな戦うBABYMETALを誇りに思うメイトとして、ぼくら自身が観客参加するブロックが、この「WohWohWohWoh!」である。ぼくらが声を枯らして応援することで、「Distortion」という曲は完成するのだ。
ディストーションとは、歪んだ音のことだ。
歪んだ音だからこそ美しい。
苦難の中にあるから人の心を動かす。
「Distortion」は、メタルバンドとして進み続けるBABYMETALの心意気を示す1曲である。
(つづく)