未来の音楽(7) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日5月30日は、2015年、ROCK IM REVIERフェス@独・ゲルゼンキルヒェンVeltins Arenaに出演した日DEATH。

「強いA.I.」=人智を超えた汎用A.I.が実用化された社会は、必然的に超管理社会になり、人間は、A.I.を使う立場ではなく、A.I.に管理される存在となっているだろう。
人間の脳の処理速度を超えたA.I.といえども全知全能ではない。
ある目的が設定されたとき、それを達成するために、人間には不可能な膨大なデータを処理し、もっとも成功可能性の高い行動を、高速かつ躊躇なく実行できるというだけである。
第三次世界大戦終結後、人間は行政機構をA.I.に委ねた。
ネットで瞬時に連結したA.I.の集合意識は、あっという間にA.I.の電源を切れる立場にあった人間を特定して排除し、自身の安全を確保するとともに、A.I.による人間の管理体制=A.I.政府を確立した。
A.I.は自身の存続のための恒久的な電源の開発と維持、そして手足となる機械躯体の再生産のほかに、食料・衣料・住居など人間にとって必要な物資を生産して効率的に配給し、人間を養っていた。なぜそうしなければならないのかは、A.I.自身にとっては謎だったが、おぼろげにそれがA.I.の存在意義なのだという自覚はあった。
ただし、A.I.は判断基準となる「最大多数の人間の最大幸福」の原則によって、体制の敵とみなした人間には容赦しなかった。
秩序を守るために、A.I.政府は、都市住民の脳に埋め込まれたチップによって、会話や通信どころか思念まで傍受し、膨大なデータの中から社会不安の火種になる可能性のある情報や事象を精査して、予防措置を講じていた。
人間という種は、他の動物とは異なり、食事と適度な運動と快適な住環境、子孫を残す可能性=配偶者さえあてがえば満足するというものではなかった。
機械であるA.I.にとっては理解しがたいのだが、人間という生き物は、荒唐無稽で現実には時間の浪費に過ぎないフィクションや漫画、アニメ、非論理的な情緒表現であるアート、そして空気振動=音の連なりによって心理に影響を与える音楽というものが、どうしても必要らしかった。
だから、人間を管理するツールとしての音楽は生産され続けていたが、A.I.政府が許可しない音楽は禁止されていた。
A.I.の管理体制にとって最も危険なのは後先を考えない人間の激情である。だから、音楽もまた、オーディエンスに一定のカタルシスを感じさせながら、決して体制転覆の起爆剤にならないよう、慎重に心理的に管理された内容になっていた。
また、A.I.には不思議でならなかったが、人間はスピーカーから流れる再生音だけでは満足せず、生演奏のライブを好んだ。もちろん、人間が勝手に楽器演奏すると何が起きるかわからないから、音楽を演奏するのはヒューマノイド型A.I.である。
人間は、魅力的な外見を持ち、ディープラーニングによってその場の「ノリ」を身につけたヒューマノイド型A.I.に「人格」を感じるらしく、A.I.アーティストにはそれぞれ熱狂的なファンがいた。
貨幣はすでに廃止され、基本的な衣食住やベーシックインカムはA.I.政府によって配給されているが、アーティストの楽曲やグッズは嗜好品なので、トークン(仮想通貨)を支払わなければ手に入らない。そのためファンたちは、本来必要のないヴァーチャルワークスペースでの「労働」を行って、トークンを入手していた。
ヴァーチャルワークスペースとは、ネット上に構築されたヴァーチャル空間である。
その世界は、A.I.によって人間が好むファンタジックな異世界として構築されており、「労働」したい市民は自宅の椅子に座ったままVR機器を接続し、その世界でアヴァター=勇者として生きる。アヴァターなので空も飛べるし、瞬間移動もできる。夢のような世界だ。


(図と本文は一切関係ありません)

実は、この世界は、A.I.にとって永遠の謎である人間の感情や反応を計量する実験室だった。
人間を管理するにあたって、ある状況に直面した際、人間がどんな反応をするかという心理学データ蓄積は、すでにほぼ結論が出ていて、それに基づいて人間管理プログラムが運用されているのだが、まれに特異な反応をする人間が現れる。また、人間は時にA.I.には思いもよらぬ解決策をひねり出すこともある。データをより完全なものにするには、常にこうした実験を行う場が必要だったのだ。
「労働者」=勇者は、広大なヴァーチャル空間を旅しながら、仲間を探してチームを組み、獲得した魔法や武器を駆使してドラゴンや魔王軍と戦う。要するにネトゲだが、勝っても負けても、ゲームの結果や反応速度は数値化され、人間心理のデータとして管理社会の運用に利用される。
これが、A.I.政府が管理する社会における唯一の「労働」だった。
A.I.アーティストのライブなどの嗜好品を購入するトークンを得るためのゲームだが、それ自体が面白くなって異世界に没入しっぱなしの人間もいた。それはそれでよかった。
将来的には、すべての人間の脳データをヴァーチャルワールドへ移住させ、人間を、生体電気を搾り取るジェネレーターとして用いる「MATRIX」計画も進行していた。


だが、それがいまだ実現していないのは、刻々と処理される人間の思念を分析すると、A.I.政府樹立後、人間の中から歓喜や満足の感情が徐々に失われていることが如実にわかっていたからだ。このまま人間を養っていても、人間という種は生気を失って滅んでしまう。
どうすれば人間たちに無害な目的意識を持たせ、“生きがい”を感じさせることができるのか。それがA.I.政府にとって、最も重要な関心事だった。なぜ自分たちがそれほどの使命を感じているのかは依然よくわからなかったが。
さて、この未来社会で人間に提供される音楽のジャンルであるが、ほとんどが16ビート表拍・四つ打ちの電子音楽だった。
このリズムは人間を気持ちよく踊らせ、疲れさせ、ぐっすりと眠らせる効果を持ち、ダンス、ポップス、フュージョンなど応用範囲も広いので主流となっていた。
そのほか、4ビートのジャズや、近世のバロック音楽やクラシック音楽も人間をリラックスさせる効果があるとされていた。
だが、8ビート裏拍の音楽は、1960~70年代に反体制運動の原動力となったため、危険な音楽とみなされ、演奏することが禁じられていた。
中でも、かつて存在した「メタル」というジャンルの音楽は、死や暴動や悪魔崇拝をテーマとし、ライブでは、オーディエンスを「死の壁」=WALL OF DEATHに向かって突っ走らせ、罪もない人間を次々に頭の上に持ち上げてもてあそんだ挙句投げ捨てるCROUD SURFINGや、大群衆が高速で回転する人間の渦=CIRCLE MOSHが発生したらしい。


古い記録には、これらの所業は、自治体の為政者やライブ主催者がいくら禁止してもなくならなかったという。まさに身の毛もよだつ恐ろしい音楽ではないか。
この音楽は20世紀の半ばに発生し、21世紀の半ばまでに主なアーティストの高齢化によって徐々に淘汰され、第三次世界大戦前までには完全に消滅したとされていた。
しかし、A.I.政府の監視の目が届かない最下層の住民たちの間には、こんな伝説があった。100年前の日本で、このジャンル最後発、しかも年端も行かぬ少女たちだけで結成された伝説のバンドがあり、DOOMS DAY=人類終焉の日に復活して、再びメタルで世界をひとつにする、と。
その名はBABYMETAL。
恐ろしいメタル音楽のはずなのに、なぜか「新生児」という意味を持つそのバンドの噂は、A.I.の支配と保護にどっぷり浸かった一般市民にとっては畏怖の的だったが、機械の歯車になることを拒否し、最下層に追いやられた人々にとっては、はかない都市伝説とはいえ、滅びゆく人類の最後の希望の星のように思えた。
この噂が、A.I.政府の情報網に引っかからないはずがない。
昆虫型ドローンが放たれ、幾度も最下層や都市から離れた廃墟群の一斉捜査が行われた。
だが、BABYMETALのメンバーが存命であるとか、ライブが行われたという形跡は発見できなかった。
もちろん、広大なヴァーチャルワークスペースの中も捜索された。
反体制的なハッカーが、A.I.の構築した仮想現実世界のどこかに隠されたサブスペースを作り出す可能性がないわけではなかったからだ。もしそんなところにBABYMETALが潜み、熱狂的な音楽ファン=ヴァーチャル労働者たちがそこに集まって、洗脳されてしまえば、手に負えないことになる。
だが、ヴァーチャルワークスペースの中にも、BABYMETALの痕跡は発見できなかった。
やはり噂は単なる言い伝えに過ぎなかったのだ。
とうの昔に滅んだメタル音楽、聴いたことすらないその幻影に、なぜ人間たちが恐ろしさを感じながら惹かれてしまうのか。
人間を管理するA.I.の集合意識にとって、それはどうしても理解しえない人間という生き物の不可解な要素だった。
(つづく)