アイドルが世界進出するには(4) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日127日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH

 

「世界進出」「ソニー買収」の大言壮語とは裏腹に、眉村ちあきの楽曲世界は、忘れそうになっている子ども時代の夢、ピュアなセルフイメージが、現実によって崩壊していく予感のような、不安や葛藤に満ちているように感じる。

『ぎっしり歯ぐき』(Copyright©2019レーベルじゃないもん)より、収録曲の歌詞を部分的に引用して、ちょっとだけ解説してみる。

「ゴッドタン」で紹介され、眉村ちあきを一躍全国区にした名曲「東京留守番電話ップ」。アルバムではDisk 1 5番目に収録されている。

 

―引用―

「東京留守番電話ップ」(#5

♪ダメだよと言われればしたくなるそんな僕が

働くことを覚えたフリして東京に染まる

教室を抜け出してチャリ置き場へ向かおうか

泥んこの中踏んだうんこに気づかないまま

ざわめく教師たちに私の差し歯を見せつけて

ついでに足の裏のうんこもみせてやれ

うんこを生み出した人の生き様なんて 知ったこっちゃないけど

うんこがうんこになるまでのうんこの生き様を

―引用終わり―

 

「うんこ」に共感するあまり、図らずも自虐的な比喩になってしまい、「生き様」という言葉がでてきてしまった。そこには、どうしようもなく世間から疎まれている奴にもそうなった経緯があるんだという感情があるのだろう。

アイドルなのにこんな表現を使ってしまうのは、「ダメだよと言われればしたくなる」性格だからだ。そしてその大胆さが、まんまと大人たちの好奇心アンテナに引っかかったわけである。

実は、Disk 2の方が、眉村ちあきの生い立ちから来る素直な感情をあらわした楽曲が多い。

 

―引用―

「ゴミ女がかいたウタ」(#26

♪あっという間に20歳 大人になんてなりたくなかった

酒もタバコもクラブに行ったって 誰からも何からも守られない

愛を失って 初めて死のうと思ったし頭狂って泣き叫ぶ日々を送った

どうして離れたくないのに

最低最低最低な女それでも愛を取り戻したくて

最強最狂どんなに狂ったところで 清純清純汚れた体でも受け入れてよね

ほんとはただ愛してるよね そう言ってよ早く

 

「タイトルなし」(#23

♪みんなが何かになりたくて みんなが誰かに憧れて

大量生産人間をしている場合じゃない

私も人のこと言えない 大量生産人間だ

唯一無二の存在になったら 君に愛してもらえるかな

 

「ひとりぼっちのアイドル」(#27

♪一人ぼっちのアイドルのはなし

私はひとりぼっちのアイドル

群れをつくる女子が怖いです

アイドル気質じゃないオラオラ

どっちかっていうと男前なの

私はちあき 清楚な女の子なんて演じたくねーよ

悔し涙で前が見えない帰り道で

どうして私は自分で自分を守れないの

―引用終わり―

 

恋愛は相手に自分のすべてを受け入れてもらう行為だから、自意識の強い人間にとっては、生き死にに関わるような大事件である。人前に立つアイドル=シンガーソングライターという生き方を選んだくらいだから、眉村ちあきという女性は、当然強い自我=自意識を持っている。

失恋経験を、アイドルになるという野心に切り替えたが、「清楚な女の子なんて演じたくねーよ」という気性から、やはりどこかで自分は誰にも認められないのではないかという不安と葛藤は消え去らない。

その宙ぶらりんな心理状態が、子どもっぽさ=多動児のように奇矯な言動や、下世話ともいえる歌詞の豊穣さにつながるのだが、そこに一途さや清純さ、コケティッシュな魅力が発生するところが、眉村ちあきの真骨頂ではないか。

だから、例えばファンの共感を呼ぶこんなフレーズも生まれた。

 

―引用―

I was born in Australia」(#2

I was born in Australia!!!!

生きてれば分かんなくなることも何千回もあるけどさ

今だけはこの瞬間だけはひょっとして笑いませんか!

―引用終わり―

 

曲の途中でリズムが変わるサイケな曲だが、このサビ部分は後半何度も繰り返され、屈託を抱えた眉村ちあき自身と、同じような心境にあるファンとが、「オーストラリアで生まれたんだ!」とわけの分からない「設定変更」をして、ライブを祝祭として楽しむ共感共同体のテーマソングになる。

そして、眉村ちあきの「出世戦略」が、ファンと共有されるのがこの曲である。

 

―引用―

「お天気お姉さん」(#13

♪ギラギラ光る夏の太陽に キラキラ染まる替えたてのネイルが

私の気分をまるごと ピンク色に染めていく

JDに受けそうな曲調 作ってみたんだけどどうかな?

これで女性の支持率が 大幅アップしますように

Yeah テキトウにラップを入れとけば 若い子は大体食いつくし

私のファンは大体オジサン 若者ウケもしてみたい だから

ファッションとかメイクをおしゃれに インスタ映え自撮りアップして

映画の出演が終わったら 次に手を出すべきところは そう

お天気お姉さん 朝の顔になって

全国に知らしめる とっておきの営業

―引用終わり―

 

「お天気お姉さん」になって、眉村ちあきの名前を全国区にしようという「戦略」。

ラップを入れれば若者は食いつくだろうという安易な「戦術」。

実際に局アナやお天気お姉さんになった元アイドルもいるが、そうした「アイドルとしての出世方法」は、この曲で半ば相対化され、茶化されているようにも思える。

ぼくの考えでは、眉村ちあきは「アイドル」を演じるアーティスト=メタアイドルなのである。

メタルではなく、メタ。

「~をあらわすための~」とか「~についての~」という自己言及的な使い方から、「超~」「~を含んだ」といった意味が派生する接頭辞。

例えば、メタ文法とは文法を記述するための文法のことであり、「メタメタル」といえば、「メタルについてのメタル」といった意味になる。これに太郎=メタル・ヒーロー=BABYMETALをつけたのが「META!メタ太郎」で、厳密に意味を取れば、「メタル・ヒーローについてのメタル・ヒーロー(BABYMETAL)の歌」ということになる。ややこし!

メタアイドルとは、「アイドル」について自己言及するアイドルという意味で、「アイドル」のふりをしてアイドルの定義を変えてしまうような存在という意味である。

BABYMETALはメタルで「アイドル」の定義を更新したが、眉村ちあきは、「アイドル」を演じることによってアイドルの定義を変えようとしているのだ。

その気概は、例えば次のような曲でわかる。

 

―引用―

CRAYON」(#8

♪小人の女の子 プリンセスになりたい

小人の女の子 プリンセスになる

さっぱりしたよ 1人でお風呂に入ったよ

儚い夢見たけど 勇気を出して

びっくりしたよ 君が倒れてきたから

何かのドッキリかと思ったわ私

スタート地点でゴールが決まる?

そんな世界にデスソース飲ます

私はね 1つずつ お姫様になる夢を壊して

スタート地点でゴールが決まる?

私の武器は何?そうこの音だ

なれ 必ず

 

「音楽と結婚ちよ!」(Disk 1 Present Track

♪本当に時が止まれば良いとか恋愛マンガのヒロインじゃないくせに思って

強く思ってバカみたいに明日が待ち遠しくて

こっちの弁当あっちの弁当早い者勝ち 音は今日もガチ

音楽に引き寄せられた仲間ってこういうことか

ウェディングドレスを選ぶ時もきっとこんな気持ちなの?

私は一生音楽をやめない

―引用終わり―

 

古風なほどの音楽や歌への愛。

「音楽と結婚ちよ!」は、音楽が自分の存在証明だという確信と、だから一生音楽をやり続けるという決意表明だ。

BABYMETALで言えば、「Road of Resistance」のBメロで「♪命が続く限り決して背を向けたりはしない」と歌いこみ、直後に「かかってこいやああああ!」とSU-が叫ぶところがそれにあたる。

音楽で生きていくと決意したものの、ライブをやれば数万人を集めてしまうBABYMETALと違って、眉村ちあきのファンはまだまだ多くはない。そのファンと交流することを、眉村ちあきが無上の喜びとしているのも、サービス精神というより、そうしていないと、不安や葛藤が頭をもたげてくるからだろう。だから色々企画して真剣に遊び、ふざける。

思うに、眉村ちあきにコアなファンがついているのは、「一緒に遊べるアイドル」だからという理由だけではないだろう。危うい感情を歌に昇華して乗り越えようとする彼女の姿そのものが魅力的で、心から共感し、応援したいと思っているからではないか。

そして、「アイドル」であると公言しながら、アイドルの定義そのものを変えてしまう表現者としての可能性に、大きな夢を見ているからだろう。「世界進出」はその具体的表現だ。

しかし日本の「アイドル」文化さえよくわからない欧米人に、はたして「メタアイドル」の意味や価値が理解できるのだろうか。

(つづく)