メタル・ファンタジー(5) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

May the FOXGOD be with You―

★今日のベビメタ

本日9月17日は、2015年、World Tour 2015 in Japan @大阪・Zepp Nambaが行われた日DEATH

 

アメリカボストン出身のプログレッシヴ・メタルバンド、ドリームシアターのデビューは1989年だが、世界的な大ヒットとなった1992年の2ndアルバム『イメージズ・アンド・ワーズ』が、事実上のデビューかもしれない。

昨年2017年、このアルバム発売25周年を記念して、「IMAGES, WORDS & BEYOND 25th Anniversary Tour」が行われ、9月には来日公演も行われた。

『イメージズ・アンド・ワーズ』は、プログレッシヴ・ロックとしての幻想性と、メタルバンドとしてのヘヴィさを併せ持ち、楽曲のスケール感、演奏の卓越性ともにパーフェクトなアルバムだった。

ボストン出身のテクニカルなプログレバンドというと、MIT出身のプログレ・ハードロックバンド、ボストン(1976年『幻想飛行』でデビュー)が想起されるが、ドリームシアターも、その端正な音作りとクオリティの高さで、“土地柄”を引き継いでいるように思う。

ただ、ボストンが、マルチプレイヤー兼エンジニアのトム・ショルツのプロジェクトなのに対して、ドリームシアターは、凄腕の演奏者の集団である。

マイク・ポートノイ(D2010年脱退)は、周囲をぐるりと埋め尽くしたドラムやパーカッションを縦横無尽に叩きまくるし、ジョン・ペトルッチ(G)は、7弦ギターを駆使して、ものすごい速弾きと変拍子をこなす。これに6弦ベースのジョン・マイアング(B)、壮大なスケールと、テクノ色を併せ持つケヴィン・ムーア(K1994年脱退)が加わったオリジナルメンバーの組み合わせは、ひとつの奇跡であったかもしれない。

昨年ツアーが組まれたように、『イメージズ・アンド・ワーズ』は、現在聴いても全く古臭くなく、CDから音楽が映像のように立ち上がってくる感じがする。

rdアルバム『アウェイク』(1994年)は、より幻想性・物語性が強まり、4曲目の「Erotomania」(インスト)、5曲目の「Voices」、6曲目の「The Silent man」は、共通タイトルの「A Mind Beside Itself」というトータル約20分の組曲の構成になっている。

ぼくが最初に入手したのはこのアルバムで、70年代イギリスのイエスやジェネシスや、フランスのパルサーを思い出し、『イメージズ・アンド・ワーズ』を購入した思い出がある。

前にも書いたが、ぼくはプログレハードというジャンルが好きで、日本では四人囃子や新月の大ファンだったのである。

もし、BABYMETALを知らなかったら、ぼくにとってドリームシアターが現役最高のバンドだっただろう。

YUIMOAが生まれた1999年、5thアルバム『メトロポリス・パート2:シーンズ・フロム・ア・メモリー』がリリースされた。

これは、『イメージズ・アンド・ワーズ』所収の「メトロポリス」のテーマを全編にわたって展開したコンセプトアルバムで、ニコラスという大都会に住む神経質な一人の青年の“前世”をさかのぼっていくストーリーとなっている。

それを全12曲、29場に仕立てており、文字通りドラマティックな「音楽劇」にしてある。ライブツアーも同じ構成で、観客は、Dream Theaterというバンド名どおり、夢の中の劇場で、次々と起こるストーリーを見ている感じになる。(ライブDVD『メトロポリス2000』)

もちろん演奏は超絶的であり、ジェットコースターに乗せられたような激しいグルーヴがあり、ただの”お芝居“ではない。メタルバンド、Dream Theaterにしかできない、メタル・ファンタジーの世界であった。

BABYMETALが結成された2010年、ドリームシアターから、オリジナルメンバーのマイク・ポートノイ(D)が脱退したが、オリジナルメンバーのジョン・ペトルッチ(G)、ジョン・マイアング(B)、1991年からのジェームズ・ラブリエ(V)、1999年からのジョーダン・ルーデス(K)らは健在である。

最新作『ジ・アストニッシング』(2016年)所収の「The Gift Of Music」のMVはまるで一編のSF映画であり、音楽から映像が立ち上ってくるというドリームシアターらしさもまた継続している。

ドリームシアターは、世界中の誰もが認めるプログレッシヴ・メタルの帝王であるが、オリジナル楽曲からなるライブを、一貫したストーリー性をもったミュージカル仕立てにしてしまうのは、(2)で書いたように、実はジェネシス以来のプログレバンドの「伝統」である。

日本でも70年代の新月や、現在の人間椅子、陰陽座などがあるが、BABYMETALもまたLegend ”I”以降、Legend-S-に至るまで、その「伝統」を受け継いでいるのだと思う。

つまり、BABYMETALは演奏力や楽曲の複雑さも含めて、プログレッシヴ・メタルの要素も併せ持つ。

ライブがミュージカル仕立てであること以外にも、その要素はある。

例えば、ドリームシアターの『メトロポリス・パート2:シーンズ・フロム・ア・メモリー』の最終曲「ファイナリー・フリー」の最終コードは、次作『シックス・ディグリーズ・オブ・インナー・タービュランス』(2002年)の1曲目「グラス・プリズン」のイントロと同じコードになっている。この魔法的構成は、なんと2005年の8thアルバム『オクタヴァリウム』まで続く。

BABYMETALも似たようなことをやっている。

まだ2枚しかないが、『BABYMETAL』最終曲の「イジメ、ダメ、ゼッタイ」の最終コード(E)が、『METAL RESISTANCE』最終曲の「THE ONE」のイントロコード(E)になっており、かつ、「THE ONE」の最終コード(C#)は、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のイントロのリフ(C#m)につながっている。

なぜメタルに、ギミックや演劇的要素、魔法的要素が必要なのか。

それは、メタル表現が、日常では抑圧されている感情、潜在意識の中に潜んでいる欲求不満や不安感、もっといえばデモーニッシュな感情を解放するためにあるからである。

仕事に追われるぼくらの日常で、そういう感情を表出することは許されない。

嘘でも、明るく正しく振舞わなければ、社会は成り立ってゆかない。勝手気ままに感情を爆発させられる人を、ぼくはうらやましいとは思わない。それが自由だとも思わない。誰もが自由にふるまえる社会などない。それが自由だと思う人は、誰かが我慢していることを知らないおバカさんに過ぎない。

ぼく自身も、あまりに理不尽な目に合えば、感情を爆発させることがないわけではない。だがそのあと猛烈に落ち込む。

そんなとき、ヘッドホンではあるが大音量でメタルを聴く。ギターを弾きまくる。一番いいのはメタルのライブに行くことだ。大音量に身も心も浸され、ヘドバンし、モッシュに加わることで、くたくたになり、感情は浄化され、デモーニッシュな衝動はおさまる。

BABYMETALが「アイドルとメタルの融合」といった時の「メタル」の中身は、単に、アイドルの「設定」としてヘヴィメタルを取り入れてみました、というレベルではない。

ハードロック、プログレ、NWOBHM、ジャパメタ、ニューメタルといった全HRHMの歴史を一身に背負っているのがBABYMETALなのだ。だからヘヴィメタルなのにロックミュージカル仕立てなのであり、卓越した演奏力の神バンドを擁し、楽曲のコード進行には、“魔術”が仕込まれているのだ。

それが、BABYMETALが見せてくれるメタル・ファンタジーの正体である。

荒唐無稽なキツネ様神話も、へんてこなコスチュームも、壮絶な歌唱力も、負担の大きいYUIMOAのダンスも、すべて、メタルの伝統であり、魅力であるファンタジーを観客に味わわせるためにある。そうして、日常生活で鬱積した負の感情を浄化してくれる。そう考えると、BABYMETALとは、なんとすさまじいプロダクトであるかがわかる。

9月の半ばを過ぎ、今年初の国内ライブ、World Tour 2018 in Japanが行われる10月が近づく。

ああ、待ち遠しい。

(この項終わり)