ブラックメタルという問題 | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

THE ONE NEVER FORGET MIKIO FUJIOKA

★今日のベビメタ

本日3月5日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

 

「ブルータルの研究」番外編。

一般音楽ファンから見ると、デスメタルをさらに「過激」にしたジャンルのように思ってしまうブラックメタルというジャンルがある。

BABYMETALは、神バンドや「白キツネ祭り」でコープスペイントをフィーチャーしているし、YUI、MOAはBLACK BABYMETAL(BBM)と称しているので、デスメタルとブラックメタルがごっちゃになっている。

しかし、本来、デスメタルとブラックメタルは「敵対」しているとされる。

「タモリ倶楽部」の「こんなところにデスメタル」の記事でもご紹介した辺境音楽マニア、ハマザキカク氏のブログ『永久保存版! 誰でもわかる「デスメタル」と「ブラックメタル」の違い12選』

https://rocketnews24.com/2017/01/26/853801/

では、11項目にわたって、その違いを説明している。

1. メイク…デスメタルはノーメイク、ブラックメタルは白塗り

2. テーマ…デスメタルは「死」や「殺人」がテーマ、ブラックメタルは「悪魔」や「反キリスト」

3.発祥…デスメタルはアメリカ、ブラックメタルはヨーロッパ

4.サウンド…デスメタルは重さ重視、ブラックメタルは速さ重視

5. ボーカル…デスメタルは低いボーカル、ブラックメタルは高い金切り声

6.曲調…デスメタルは無調、ブラックメタルはメロディアス

7.頭髪…デスメタルは髪型にこだわらないが、ブラックメタルは長髪

8. ファッション…デスメタルは短パン・スニーカーOK、ブラックメタルは革ジャン・軍パン

9.楽曲構成…デスメタルは複雑、ブラックメタルはシンプル

10.トーン…デスメタルはジャケットがカラフル、ブラックメタルは白黒

11.主張…デスメタルはノンポリか左翼、ブラックメタルは右翼

もちろん、バンドによってこの定義に当てはまらない例もあり、ハマザキカク氏の文章は、その辺もきめ細かく、配慮された説明になっている。詳細はぜひ直接当たっていただきたい。「12選」となっているのに11項目しかないのは、ご愛敬。

ぼくが考え込んでしまうのは、ブラックメタルと括られるバンドやそのファンの中には、本当に自殺、殺人、反キリスト教や悪魔崇拝を実践してしまう人々がいることだ。

1980年代前半にノルウェーで結成されたメイヘム(Mayhem)のボーカリスト、デッドは、コープスペイントをして、ライヴで過激なパフォーマンスをすることで知られたが、1991年にショットガンで自分の頭部を撃って自殺した。

Mayhemのリーダーだったユーロニモス(G、V)は、オスロの下町で Helvete (ヘルヴェテ)というレコードショップを経営し、ここに集まったファンや他のバンドのメンバーとともに「インナーサークル」という反キリスト教グループを作った。このグループの実態や指揮系統は不明だが、ブラックメタルを信奉するあまり、「インナーサークル」のメンバーは、1992年に10件、1993年に10件、1994年に14件、1995年に7件のキリスト教関連施設(教会、墓地等)放火や破壊などを行った。被害総額は当時の日本円で40億円とされる。(ノルウェーの新聞『Aftenposten』記事による)

さらに、イギリスのゴシックメタルバンド、パラダイス・ロストのツアーバスを転倒させたり、ヘルヴェテの店員が同性愛者をリレハンメルの森の中で刺殺したりした。

そしてとうとう1993年8月、「インナーサークル」のメンバーでもあり、Mayhemのアルバムにもベーシストとして参加したBurzumのヴァルグ・ヴィーケネスが、大手レーベルとの契約を巡る意見の相違から、リーダーのユーロニモスを殺害して逮捕される。かつて起こした自身の教会放火事件と併せて懲役21年の実刑判決を受け、15年服役した。

だが、これら初期の「サタニズム・テロ」によって世間から危険視されながら、ブラックメタルは、北欧以外にも、フランス、ドイツ、ウクライナ、南米、北米、東アジア、東南アジア、オーストラリアなど世界中へ広がった。

それぞれのバンドの主張は様々だが、西欧近代民主主義的な「良識」への異議申し立てという点で共通するものがある。

まずは、西欧文明の土台となっているキリスト教への攻撃。

ドイツの社会学者マックス・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』が明らかにするように、近代資本主義は、イギリス、オランダ、ドイツ、アメリカなどで、勤勉に働き、富を蓄積することを神の恩寵と考えるプロテスタントの信仰を支柱として発展してきた。

悪魔が実在するという有神論的サタニズム、キリスト教伝来以前の北欧神話に依拠するパガニズム(多神教・自然崇拝)、ニーチェの無神論的ニヒリズムなどをもってキリスト教を攻撃することは、一見、荒唐無稽で空想的な表現のように見えて、ブラックメタルが持つ鋭い近代批判の側面を表しているといえる。

ぼくは、カトリックなので、近代資本主義社会を理想の体制だとは思っていないが、反キリストという主張には賛同できない。

もう1年ほどの付き合いになる知り合いのインド人の神父さんとは、ベビメタやキツネ様のことをよく話す。一度彼を稲荷神社に連れて行ったこともある。

彼は、決してBABYMETALやキツネ様を、神と敵対する「異教」だとは考えない。当たり前だが、ホラー映画と同じようなエンターテインメントに過ぎないからだ。だが、それに刺激されて自殺したり、殺人を犯したり、教会に放火するようなことはやってはいけない、と言った。これも当たり前ですよね。

ブラックメタルにはまた、民主主義社会に対する違和感も表現されている。

近代民主主義は、投票という行為をもって住民の代表者=立法議員を選び、議会の多数決で決まった制定法に従って、司法および行政が行われるというしくみである。

「一番偉い人」は、世襲や強権ではなく、政策や人柄に対する国民の信頼や人気をもとに投票によって選ばれ、防衛・治安を担当する軍人や警察官、行政に携わる「役人」も、国民に選ばれた議員たちが決めた法律を逸脱することはできない。

これは、部族による抗争、王や独裁者による圧制が行われた時代を経て、到達した「平等な共存」のための政治的仕組みであり、特に北欧は、教育・医療・福祉などを無償化した高度福祉社会で、日本では北欧を一種の理想社会とする思潮もあった。

しかしその北欧で発展したブラックメタルでは、そうした社会への不満をもとに、「他者なんかどうでもいい、やりたいようにやる」個人主義や、「霊的意義、文化的意義に欠けているように感じられる世界」を否定し、「儀式的なパフォーマンスを通して、自らの世俗的肉体を超越し、神と結びついた精神的なペルソナをその身に帯びる」ことを目標にする(Benjamin Hedge Olsonによる分析)といった超越主義が志向されている。

さらには、殺害されたMayhemのユーロニモスは、「全体主義を支持し、個人主義、同情、平和、幸福、快楽などの考えを否定した」(Lahdenpera, Esa、1995)とされるし、加害者のヴァルグ・ヴィーケネスはネオナチ活動家だった。

もちろんこうした極端な主張はごく一部だと思われるが、ブラックメタルが、ホラー映画のような「死」や「残虐性」の美学を持つデスメタルと対峙するのは、こうした先鋭的な思想性によるものだろう。

BABYMETALには、こんな思想性はない。

にもかかわらず、神バンドや白キツネ祭りにおけるコープスペイント、十字架に磔にされるSU-METAL(2012年Legend“D”)、聖母マリア像の破壊(2013年Legend“1997”)、キツネ様という異形の獣神(パガニズムである日本神道に依拠する)への崇拝を伴う宗教儀式的なライブ形式、Legend“S”-洗礼の儀-で配布された北欧のペンタグラムに酷似したペンダントなどは、ブラックメタルの「文化」である。

超絶Kawaiiもいもいが、BLACK BABYMETALだというのは冗談だとしても、BABYMETALがブラックメタルのモチーフを利用しているのは明らかなのである。

おそらく、BABYMETALは、デスメタルとブラックメタルの境界線を意図的にあいまいにしている。パワーメタル/メロスピも、スラッシュメタルも、ハードコアも、グラインドコアも、フォークメタルも、ニューメタルも、J-ROCKも、アイドルソングもすべてが混然とミックスされている。

だから、BABYMETALを通じて「メタル」という音楽を知り、そこから「イジメ、ダメ、ゼッタイ」や「ROR」みたいなパワーメタルが好きになるとか、スラッシュ四天王に興味を持ったとか、NWOBHMの歴史的バンドを調べてみるとか、デスメタルのアルバムを片っ端から聴いてみるとか、逆にアイドルにハマってみるといった「発展」が可能になる。

その結果、BABYMETALは「偽物だった」と思うか、やはり「アイドルとメタルの融合」というコンセプトは凄い、と思うかは自由である。

ただ、デスメタルやブラックメタルへのオマージュを通じて、BABYMETALは、ぼくらがふだん当たり前だと思っている日常の価値観に、「違和感」を覚える感性を刺激してくれる。

「ヤバッ!」や、「GJ!」、「Sis. Anger」といった楽曲はもちろん、アイドルカルチャーへの毒をもった「おねだり大作戦」、マスコミの表現自主規制を逆手にとった「4の歌」だって、立派な「違和感」の表明である。

それが「KARATE」や「紅月-アカツキ-」「Amore-蒼星-」を経て、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」や「ROR」といったパワーメタルや、「NO RAIN, NO RAINBOW」のようなバラードや「THE ONE」のように壮大なプログレッシブメタル表現に到達し、ぼくらを感動させる。

その幅の広さがBABYMEALの本質なのだが、ブルータルでエクストリームなデスメタルやブラックメタルに包含された「怖さ」「異界」感こそ、他のアイドル/ガールズバンドとは一線を画すBABYMETALの「メタル」性の表れなのだと思う。