世界標準(2) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ

本日1月3日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

 

2010年にX-Japanがシカゴのロラパルーザフェスティバルに出演した際、地元の「シカゴ・サンタイムス」や「TIME OUT CHICAGO」を始め、全米で約40のメディアで紹介され、全米三大テレビ網の番組「WorldNews with Diane Sawyer」(ABC)でもゴールデンタイムの特集が組まれた。

その中で、X-Japanの全米デビューは、50年前のThe Beatlesのアメリカ進出で使われた「British Invasion」をもじって、「Japanese Invasion」の波の中にあるとされた。

この言葉をネットで検索すると、第二次大戦中の日本の朝鮮併合や満州国建国、モンゴル、タイなどのアジア侵攻を指す、悪い言葉として扱われている。だが、X-Japanhへの評価にはそんな雰囲気は微塵もなく、21世紀に入って日本のロックバンドが次々と全米デビューしてゆく事態を、ビートルズ以降、ストーンズ、レッドツェッペリンなど、イギリスのロックバンドがアメリカをはじめ世界中で人気を博し、その後の音楽業界に大きな影響を与えた現象をなぞらえたものである。

あれから7年。

X-Japanは、欧米各国には一定数いる「クールジャパン」贔屓でコアなファンには熱い支持を受け、2014年にはMSGで単独ライブを行ったが、アルバムがビルボード200にランクインするほどにはなっていない。だが、確かに「Japanese Invasion」は起こっていた。

YoshikiがプロデュースしたDir En Grayは2006年から欧米ツアーを積極的に行い、2008年にはアルバム「UROBOROS」が、ビルボード200で114位を獲得していた。

2013年にはOne Ok Rockがヨーロッパ・アジア、2014年にはロス、NYでの単独ライブを敢行。2017年には、アルバム「Ambitions」(US盤)がビルボード200で106位となった。ただし、この年、One Ok Rockはリンキンパークの前座として本格的な全米ツアーに参加する予定だったが、チェスター・ベニントンの死により中止となってしまった。

もちろん、2014年にはBABYMETALが欧米デビューし、デビューアルバム「BABYMETAL」がビルボード200で187位、2016年の「Metal Resistance」は39位と、日本人バンド記録を更新し、レディガガ、レッチリ、メタリカ、ガンズ、KORNといった大物バンドと共に大会場のツアーを回り、知名度を上げている。

「Japanese Invasion」は、60年代のビートルズのようにX-Japanが突出して作り出したというより、2000年代中盤から2010年代にかけて、国内市場の閉塞感を脱し、日本のバンドが海外へと市場を求めていく流れを指しているのだと思う。

ではどのように日本の音楽市場は閉塞しているというのか。

ここに一つの表がある。

RIAJの「The Record」2017年6月号に掲載された「2016年世界の音楽産業」による統計である。国別に音楽業界の売上高(卸価格)と、CDなどのパッケージと配信、ライブなどでの演奏権、シンクロ(CM、ゲームBGMなど)の比率を示している。

これによると、音楽市場の売上高は、アメリカが53億1821万ドルで断トツだが、2位は日本で27億4599万ドルである。

以下、3位イギリス12億51140万ドル、4位ドイツ12億1200万ドル、5位フランス8億4959万ドル、6位カナダ3億6798万ドル、7位オーストラリア3億5726万ドル、と続く。

アジアでは日本に次ぐのが8位の韓国で3億3017万ドル、その次は12位の中国2億0224万ドル、19位のインド1億1160万ドルとなる。

その他、北米とヨーロッパ以外では11位のブラジル(南米)2億2984万ドルと20位のアルゼンチン(南米)1億1149万ドルが入っただけで、9位のイタリア2億6377万ドル以下、10位オランダ、13位スウェーデン、14位スペイン、15位メキシコ(北米である、念のため)、16位スイス、17位ベルギー、18位ノルウェイまで、すべて欧米の国々が占める。

つまり、アメリカの音楽市場は大きいが、日本の市場もそれに次いで大きいということ、さらに日本以外では、音楽市場のほとんどを欧米が占めるということである。

もう少し読み取っていくと、人口の多い中国やインドは、ベスト20位以内に入っているが、一人当たり売上額に直せば、日本はこれらの国やアメリカよりも豊かな市場だということもわかる。

次に、音楽作品を購入するメディアを見てみよう。

CD、DVDなどのパッケージによる売上比率は、日本が世界一大きい。次いでドイツが52%だが、それ以外の国ではいずれも半分以下で、世界的には配信に比重が移っていることが分かる。

意外なことに中国は配信がほとんどで、IT国家と呼ばれる韓国やインドも高い。

これまで、日本のアーティストが、無理して海外へ進出しなくても成立していたのは、日本の音楽市場がアメリカに次いで世界第2位の規模を持ち、かつCDやDVDなどのパッケージメディアを購入したり、ライブに足を運ぶ客層が多かったからである。これによって、マスメディアに露出しないロックバンドやローカルアイドルや地下アイドルでも、かろうじて音楽活動ができていた。

日本のアーティストが海外へ進出といったとき、従来は、政治的には緊張関係にありつつも、日本文化の影響力が強い韓国、台湾、シンガポール、香港、中国本土といったアジアの国々を目指すことが多かった。

しかし、見てきたように、アジアの国々はもともと購買力が弱い。さらにはコアな音楽ファンも、パッケージを購入したり、ライブへ足を運ぶよりは、ネットでダウンロードする比率が高い。つまり、無理してアジアの国々でプロモーションをしても、かかる経費に対して売り上げはたいして伸びない。だから、早めに撤退して、国内に全力を傾けた方が効率的であるということになっていたのだ。

BABYMETALもかつてはシンガポール、インドネシアのAFAに出演し、台湾でも対バンライブを行った。だが、その方針は2014年に大きく転換された。

BABYMETALが2014年以降進出していった海外の国を振り返ってみよう。

フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、カナダ(以上2014年)、メキシコ、カナダ、アメリカ、ドイツ、フランス、スイス、イタリア、オーストリア、イギリス(以上2015年)、イギリス、アメリカ、スイス、オーストリア、オランダ、ドイツ、フランス(以上2016年)、韓国、アメリカ(以上2017年)。

いずれも、この表の中では上位にランクされる国々であり、Rock in Viennaに連続出演していたオーストリアも2015年まではベスト20位に入っていた。

この表の中でBABYMETALがライブを行っていないのはオーストラリア、ブラジル、アルゼンチン、ベルギー、スペイン、スウェーデン、ノルウェイ、中国、インドといった国々。

海外進出に当たって、BABYMETALが日本のアーティストにとって”定番“の韓国、香港、中国ではなく、メキシコやスイスやイタリアやオーストリアやオランダといった観光国の小さなライブハウスを優先して巡業していった理由は、欧米市場こそ、世界の音楽市場の大半を占めるからに他ならない。

世界第2位の日本の音楽市場で“そこそこ”の地位を占め、アジア市場でも知名度を上げれば一定の収益が見込めるが、欧米の音楽市場で同じような地位を占めることができれば、収益は何倍にもなる。

これまでの日本のアーティストが目指した日中韓3か国の音楽市場の売り上げ合計は32億7840万ドルだが、BABYMETALがこの3年間にライブを行った日本+欧米の国々の合計は、128億6056万ドルに達する。市場規模は約3.9倍、世界の音楽市場の8割以上に達する。

人口がいくら多いと言っても、中国やインドより、あるいはこの表にないアジアの大国インドネシアやシンガポール、フィリピン、タイ、ベトナム、マレーシアといった国々より、現在のBABYMETALの目標が日本+欧米先進国にしぼられているのは、明らかにこうしたマーケティングに基づく戦略上の選択なのである。

さきに、日本の市場で“そこそこ”の地位なら活動を続けられると書いた。

例えばオリコンのランキングで、売り上げがコンスタントに30位以内に入るアーティストなら、市場で一定の地位を占めているといえるだろうし、今後も音楽活動を続けていけるだろう。

だが、経費を度外視して単純に言えば、欧米を含めた市場ではその4倍、つまり120位以内に入れば、同様の売上高を確保できるということになる。

BABYMETALの「BABYMETAL」は187位だったからまだまだ新人だが、「Metal Resistance」は39位だから、日本でいえば10位程度の売り上げ規模があったことになる。

ただし、アメリカはパッケージではなく、音楽配信が主だから、その意味ではガラパゴス的な日本の常識からいえば「CD売れてないじゃん」ということになってしまう。

(つづく)