さてBABYMETALだ。
前述したように、メタルバンドに対する評価はあくまでもラジオやCDに収められた楽曲、すなわち演奏・歌唱の出来が対象である。個性的なフロントマンの魅力、あるいはバンドの来歴やサイドストーリーも、ある程度はファンになる理由だろう。しかし、あくまでも楽曲、音楽性が評価の中心だ。
しかし、海外でのBABYMETALへの評価のありようは、従来のバンドへのそれとは異なる。
「確かにこれは凄い」という支持と、「本物かどうか」「これからどうなっていくのか」という興味とが、せめぎあっているのである。それは、BABYMETALの三人が2014年の海外デビュー時にわずか15歳と16歳であり、“まだ子ども”であるところからきている。
強烈な才能と魅力をもっている可愛い女の子たち=BABYが、全力で、かつ素晴らしいクオリティでユニークなMETAL楽曲を歌い踊る。注目せざるを得ない。ライブの様子はどうだったか、気になって仕方ないのだ。
それがファンカム、Twitterの矢継ぎ早のアップと視聴回数の驚異的な多さにつながっている。
つまり、BABYMETALファンの目線は、海外も含めて、通常のメタルバンドに対するそれではなく、「アイドルへの親目線」なのだ。
「メタルとアイドルの融合」の海外進出は、「アイドルがフロントマンのメタルバンド」「J-POPを取り入れた新しいメタルのスタイル」の提案にとどまるのではなく、海外のメタルファンの世界に、日本の「アイドルへの親目線」を輸出する結果になっていたのだ。
10年前のTVと雑誌ベースでは言葉や国境の壁は超えられなかった。しかし、ファンカムの映像と翻訳可能なTwitterの普及によって、言葉や国境をいともかんたんに超え、同時性、共有性、検証可能性をともに獲得することができるようになった。そこにBABYMETALという、非常に気になる対象があらわれたのだ。それが、これまでの日本のバンドの海外進出とは全く次元の異なる爆発力をもった理由だ。
それは、通信規格や情報技術の発達があってこそ、なし得たことである。BABYMETALの海外進出が成功した直接の契機は、2014年2月にYouTubeに公開された「ギミチョコ」のMVが、欧米で大ウケしたことによるものだし、ファンカムとTwitterでライブの様子が逐次報告、評価され、BABYMETALが卓越したライブバンドであることが実証されたのも、スマートフォン-ネットインフラが整備されていたおかげだ。
日本におけるブロードバンドWiFiの普及には、実はBABYMETAL自身も一役買っている。
2011年、さくら学院一期生の12人は、NTTのFLET’s光WiFiのイメージキャラクター「光の天使」に選ばれ、CM、イベント、ゲームなどに登場した。電波となって飛びまわる情報の天使(メタトロン)というわけだ。
さくら学院内の年齢順にしたがって、中元すず香は光の天使No.4、水野由結は光の天使No.9、菊地最愛は光の天使No.10となった。白いカチューシャをつけ、天使の羽がついた白いドレスをまとった彼女たちは、BABYMETALの黒と赤の美少女戦士イメージとは全然ちがう。
この頃よく流れたCMで、煙突の上に座ったイチローの回りを飛び回る可愛い二人の天使の映像を覚えていないだろうか。あれが、水野由結と菊地最愛である。
その続編で、駅員に扮した二人の天使がNTTへの「乗り換え」をアナウンスするCMに出ていたのが、中元すず香と堀内まり菜である。
メイキング映像の中では、中元すず香が、先輩二人と一緒にタブレットをいじりながら、「ほら、YouTubeにつながるんだよ、速い!」と言い合うシーンもある。また、WiFiを一言で表すお習字をするシーンでは、菊地は「動画」、水野は「もっと飛びたい」と書いた。「光の天使」を演じてから3年後、彼女たちは、インターネットが自分たちの海外での活躍を支えることになろうとは、夢にも思っていなかったに違いない。
話を戻そう。
「親目線」は強い。
2014年、イギリスのメタル専門誌Metal Hammerが「メタルワールドカップ」と称して、各国の代表メタルバンドを選出し、ネット投票にしたところ、日本代表のBABYMETALは、並みいる“偉大な”バンドをしり目に勝ち進み、7月22日の決選投票でアメリカのMachine Headを破り、なんと優勝してしまった。
2015年6月には、イギリス最大のロック雑誌Kerrang!とメタル専門誌Metal Hammerが相次いでBABYMETALに賞を与えた。メタルファンはBABYMETALの情報を欲しがっているから、特集記事を書けば、雑誌が売れる。BABYMETALを表紙にすれば確実に売り切れる。
2015年11月には、アメリカの音楽雑誌Loudwireのファン投票で、BABYMETALは、2015年のベストメタルソング(Road of Resistance)とベストライブアクト(2015年ワールドツアー)、モストデヴォーテッド・ファンズ(最もファンに愛されたバンド)の三部門を制した。
本物のメタルか、それともギミックかという論争では、ファンは必死になってBABYMETALを擁護する。アンチだったメタルヘッドが、アルバムを聴き、ライブ映像を見てファンに鞍替えすれば、過去のいきさつを忘れ、BABYMETAL友達(メイト)になる。その際、三人のうち誰が「推しメン」か、確認しあう。日本のアイドルオタクと同じ現象だ。ライブ会場では、汗まみれになりながらも、拙い日本語で「YUI Chan!」「SU-San!」「MOA!!」と掛け声をかけるファンが必ずいる。ヨーロッパ中をライブ日程に合わせて回るツワモノもいる。
欧米の音楽雑誌はよく、バンドが「献身的なファン」を持っているという言い方をする。いわゆるバンギャ、グルーピーだ。こうしたファンは、バンドについて回り、メンバーに会いたがり、グッズなら何でも欲しがる。だがこうした「献身的なファン」は恋愛感情に近いので、他に夢中になれるバンドが登場すれば、とたんに冷め、ゴシップや、音楽性の変化で、すぐ「裏切られた」と思いこみ、一気にヘイターに回ることさえある。
しかし、日本の「アイドルへの親目線」は違う。どんなに歌が下手でも、私生活でスキャンダルがあっても、マゾヒスティックなまでに金と時間を使って応援し続ける。何しろ「親」なのだから。
SU-のいうようにBABYMETALは「メタルでもアイドルでもない」かもしれない。
しかし、ことファン心理に限って言えば、BABYMETALは、メタルヘッドの欧米人が気づかないうちに、ファンカムとTwitterによって「親目線」を注がれる“アイドル”になっている。
それは、従来のメタルバンドやメタルヘッドを見慣れたメタル音楽評論家、さらにプロデューサーの小林氏にとっても、思いもよらない事態かもしれない。だが、実はBABYMETALの三人にとっては、当たり前のことだ。
BABYMETALの三人は、日本のさくら学院時代のファンも、日本のロックフェスからのファンも、NHK新規のおじさんファンも、海外のメタルヘッドも、区別などしていないからだ。
みんなお客さん=ファン=「優しい父兄」なのである。
ただ、ちょっと、最近おじさんの比率が増えてきたし、海外ではロン毛の怖そうな大男が多いなあというぐらいだろう。
2014年のNHK「BABYMETAL現象」で、水野由結は、メタルバンドのメンバーやメタルヘッドについて「最初は恐かったけど、会ってみたら、みなさん優しかった」という感想を述べた。
また、菊地最愛は、2015年のTBSニュースバードのインタビューで「BABYMETALの音楽は、いろんな世代に伝わるんだ、ということがわかって、とってもうれしくなりました。」と述べた。
彼女たちにとっては、国が違おうが、世代が違おうが、服装や体格が違おうが、すべてお客さん=ファンなのであって、さくら学院での友情と青春のアイドルソングも、BABYMETALでのメタルパフォーマンスも、等しく「お客さんに思いや気持ちを伝え、楽しんでもらう」ことなのだ。そのために練習には手を抜かず、長時間のリハーサルをこなし、ライブでは全力でパフォーマンスをする。それがBABYMETALなのだ。