性格整形 | インスタントジョンソン じゃいオフィシャルブログ『マルいアタマをぐちゃぐちゃにする』powered by Ameba

性格整形

水川真心と書いて「みずかわまこ」と読む。
彼氏いない歴は8カ月、と言っても付き合ったのは9カ月前。

付き合った期間は1カ月にも満たない24日間。
24日間といっても、会ったのはたったの2回、身体を交えたのは1度だけだ。

付き合ったと言えるような代物ではないが、一応「付き合ってくれ」と言われて承諾したので、付き合ったことにしている。

過去に5人の男性と付き合ったことがあるが、この恋愛期間が1番長い。
最短はたったの3日。
自分でも呆れる。
もう笑うしかない。

過去5人に共通することは、告白されて、フラれているということ。
理由は、1人は理由を聞いたラインから返事がなく、残りの4人は疲れたみたいなことを言われた。
3日間の男に疲れたと言われた時は、こいつどんだけ持久力ないんだよ!とひとりで声を出してしまった。
最初は、自分から告白しといて男なんて身勝手だと思ったこともあったが、5人も続けばさすがに自分に原因があるんだと認めるしかない。

正直見た目は低く見積もっても60点はある。
タイプだと言われたことも少なくはない。
実際、よく似ていると言われる2つ上の31歳の姉は絶大的にモテる。
私も続かないだけで告白されることは多い方だと思う。
5人は付き合ったが、断ったクソみたいな男はその3倍はいる。
そうなると中身が悪いということになってしまう。
認めたくないが、多分性格は悪い。
友達はいなくはないが、親友と呼べるやつはいない。
私のことを嫌いだと言うムカつくやつも何人かいた。
わざわざ口に出すやつが居たんだから、嫌いだけど口に出さないやつはもっといるだろう。
ゴキブリも1匹見つけたら50匹いるなんて言うのと一緒だ。
我が儘、口が悪い、ヒステリック、人が苦しんでるのを見て笑っちゃう。
フラれた後は直そうと思い、口数を減らしたり、お淑やかを演じるが、次の日には元に戻っている。

親が真っ直ぐな心になって欲しいと付けた真心という名前がわびしい。
コールドで名前負けしている。

ふと、ポストから運んで来た郵便物の中にあった掌サイズのチラシに目を奪われた。
そこには『心の美容整形』と書いてあった。
あなたの歪んだ性格を直します!
カウンセリング無料!

気が付いた時にはそこにあった番号を押していた。

「滝川メンタルクリニックです」

品のある女の声が耳に入ってくる。

「チラシ見たんだけど」

1、2分やりとりした後、次の日14時にカウンセリングの予約を取り、通話を終わらせた。

次の日、表参道にある滝川メンタルクリニックへタクシーで向かった。
電車で行けるのに、めんどくさいからタクシーを使うことが多い。
果たしてこういうズボラな性格も直るのだろうか?

店舗は表参道にあるビルの4階にあった。
滝川メンタルクリニックと書いてあるガラス扉を開けると受付がある。
白を基調とした清潔感のある店内。
オープンして間も無いのだろう、新しい匂いが鼻腔に触れてくる。
ひと言で言えば純白。
汚れなき光景は自分の汚い部分を洗い流してくれる様であった。

しばらく待つと診察室に通された。
診察室という表現にはしたくないような、漢字の似合わない、なんとかルームという言いたくなるようなお洒落な部屋に院長らしき人が座っている。

白衣の胸元にはTAKIGAWAとローマ字で書かれた名札が。
40代くらいだろうか、いかにも成功者というような佇まいで、一目で知的だと分かる。
夜は高級スーツで高級レストランに現れるんだろうと勝手な想像をした。

「まだ新しい技術なのですが、脳細胞に刺激を与えて欲望を抑えたり、感情を抑えたり、優しさや穏やかさを増殖させたりと、お客様のニーズによって脳をコントロールします。元々無いものは無理なのですが、優しさ、穏やかさが全くない人はいませんから」

性格の整形のシステムを説明してくれた。

「実際に頭を切ったりすることはないので、傷が残ったりすることはありません。で、水川さんが直したい性格はどんなところでしょうか?」

私は直したいところや、過去にフラれたことを包み隠さず話した。
それを院長先生はカルテに記している。

「分かりました。取り敢えず1度脳の検査を行います。脳の検査は1時間ほどで終わります。検査の結果が出るのが1週間ほどかかりまして、その後手術を行います。手術自体も1時間ほどで終わります。予約が必要になりますが、いつにいたしますか?」

「脳の検査って今日出来たりします?」

またここに来るのがめんどくさいので一応聞いてみた。こういうのも変わるのだろうか?

「少々お待ちください」

院長は言い、1度退出し、2、3分で戻って来た。

「この後空いていましたので、本日がよろしければ、このままやっちゃいましょうか?」

「はい。ちなみにいくらするの?」

「全て含めて13万円になります」

「高っ!」

私にとっちゃ自然に出てくる言葉だ。

院長は苦笑いしている。

しかし、安くはないが、今後性格が改善されるとしたら激安価格だ。

「カード使えます?」

低所得のOLのくせに無計画にカードを使い、欲しいものがあったら買ってしまう。
おかげで貯金は0。
毎月ギリギリの生活をしている。
こんなところも変わるのだろうか?

私は早速オペ室的な所へ行き純白のベッドに横になった。
頭に見たこともない機械を装着させられる。
脳をどうにかされる恐怖と、性格が良くなる歓喜でよくわからない感情が生まれた。
取り敢えず今日はただの検査なのに。
1時間ほどでそれは終わった。
そして1週間後に手術の予約をした。

運命の日まで1週間。

この1週間はそのことばかり考えていた。
29年連れ添った自分が変わってしまうのはなんだか寂しい気持ちもあったが、見た目も声も変わらないし、ただ性格が良くなるだけだから、ちょっと科学の力を利用した成長だと思えばなんの問題もない。
ノーリスクハイリターンだ。
正確には13万円のリスクだが。

10日間ほどに感じた1週間が過ぎ、再び表参道へ向かう。
その日は自分がこれから変われるという意識からか、電車と徒歩で行った。
もうすでに性格が良くなった気になっていたのかもしれない。

中に入り書類みたいなのを書いた後に、前回検査で使った部屋へ。

前回とは違った機械を頭に装着する。
見たこともないという点では一緒だが。

前回よりも頭にガッシリと装着しているのが、頭皮への圧で分かる。
それはドーム型で、丸いポイントが内側に数十個あり、それぞれが頭に密着している。
頭皮とポイントの間に髪の毛は挟まるが、問題はないらしい。

麻酔を打たれたが、これは痛み止めではなく、脳や身体を緊張させないためらしい。

知らぬ間に寝てしまい、目が覚めると手術は終わり、頭の機械はもうなかった。

院長先生が「終わりましたよ」と満面の笑みで微笑んでくれた。

「ありがとうございます」

今のところ劇的な変化は見られない。
純白の店内が前より明るく見えたのは、寝ていたからなのか、手術の影響なのかは分からなかった。

薬も術後の注意も何もなく、後はただ普通に生活するだけでいいと言われ店を後にした。

何だか呆気ない。

夕方の表参道は割と混んでいて、私は人混みの中を駅まで歩いた。

表参道の交差点の少し手前で、知らない中年男性に後ろから踵を踏まれた。

「すいません」

これは私が発した言葉だ。

本来悪いのは私ではなく、謝るのは中年男性の方なのだが、そんな言葉が自然と出た。

今までなら、「謝れよ!」「痛てーな!」少なくとも舌打ちくらいはしている状況だ。

それが全く許せてしまう。それどころか自分から謝っている。

怒りが湧いてこないのだ。
確実に性格が良化しているのが分かる。
その日は電車と徒歩で帰った。
めんどくさいという感情も全くなかった。

「なんか変わったね」
「どうした?水川っぽくないんだけど」
「えっ?ドッキリ?」
そんな声が多かった。
今までどんだけ自分勝手だったかが分かる。
「顔変わったね」
そんな声もあった。
顔は整形していないが、表情が穏やかになったのかもしれない。

効果は歴然としていた。
今までの10倍くらいモテた。
でも、そんなにモテたいとか、気に入った男性を落としてやるみたいな感情はない。
恋はするが、心に余裕があるからか、焦りもがっつくこともなかった。

2カ月後に彼氏が出来た。
イケメンなのに優しい。
その彼とは1年以上付き合った。
記録更新だ。
喧嘩も一切しなかった。
相手も疲れた顔は見せていない。
怒りも湧いてこないし、我慢することもない。
私が今までしてきた恋愛だと思っていたもの、あれは恋愛じゃなかった。
自分の中では、初めての彼氏という風になっていた。

彼が両親に会わせたいと。
そんなこと言われたのは初めてだ。

都内にある彼の実家に2人で行き、彼の両親と妹に会った。
えらく気に入ってくれたみたいだ。

妹のなっちゃんは私と同い年で、たまに2人でご飯を行ったり、お酒を飲んだりする仲になった。
今までこんなに仲良くした女性は初めてかもしれない。
これが親友?

彼と1年8ヶ月付き合った頃、彼からプロポーズされた。
私は即答で承諾した。
いよいよ結婚である。
結婚なんて出来ると思ってなかった。
全ては滝川メンタルクリニックのおかげだ。
今度手土産を持ってお礼しに行かなくては。

次の日には彼の実家に行き、結婚の挨拶をした。

「そうか良かったな、真心ちゃんなら安心だ!」
お父さんは笑顔で言ってくれた。

「式はいつにするの?」
お母さんはテンションが上がり先走っている」

なっちゃんはそっと私にウインクしてくれた。

その数日後、千葉にある私の実家に行き、私の両親に挨拶をした。
こっちも歓迎ムードだ。
まさかお姉ちゃんより先に結婚するなんて。

「母さん、寿司を取れ!特上のやつだ!」

お父さんは嬉しそうだ。

お母さんも嬉しそうだ。

お姉ちゃんは都内に住んでるのでいなかったが、きっと喜んでくれてるだろう。

こんなに美味しいお寿司を食べたのは初めてかもしれない。
幸せがこみ上げてくる。
無論、美味しいお寿司を食べたからではない。

その1週間後、夜1人でテレビを観ている時に、なっちゃんから電話が掛かってきた。
大抵ラインのやり取りなので、電話は珍しい。

「もしもし、なっちゃん?どうしたの?」

「お兄ちゃんが・・」

スマホからなっちゃんの泣き声が聞こえる。
ほとんど言葉になっていなかった。

車にはねられたらしい。

私も意識が遠のいた。
自然と涙が溢れ出した。

警察署にいるらしく、私もすぐに電車と徒歩で向かった。

警察署に着き、名前を言うとある部屋へ案内された。

そこには、ベッドに横になった彼氏と、その周りを囲む両親と妹が。

その後ろに知らない若い男が申し訳なさそうに立っている。

お母さんと、妹は泣き崩れている。
お父さんは呆然としていた。
私も彼の横に行き泣き崩れた。

すると突然、お父さんが後ろに立っていた男を殴った。
警察の人はお父さんを背中から羽交い締めにして止める。

「哲也を返せ!哲也を返せ!」

お父さんも泣き崩れた。

その男は小さな声ですいませんと、謝った。

刑事さんの話では、その男は私の恋人をはねた男で、18歳で無免許で酒も飲んでいたらしい。

「もうすぐ結婚式だったんだぞ!」

お父さんはその少年に誰も止めなかったら殺すような勢いで怒鳴る。

「真心ちゃんに謝れ!」

その少年は、私の方へ一歩足を踏み出し、

「あのぉ・・すいませんでした」

私は、涙目ながら

「全然大丈夫よ、気にしないで」

と微笑んだ。

彼の家族と刑事さん、その少年も、私を不思議そうな目で見ていた。