秘密 | インスタントジョンソン じゃいオフィシャルブログ『マルいアタマをぐちゃぐちゃにする』powered by Ameba

秘密

僕には秘密がある。

誰にも言ってない秘密だ。

エルムと僕と二人だけの秘密だ。

その話をここでしようと思う。


まあエルムといっても皆さん知らないと思うので、紹介をしよう。

小学校の頃に仲良かった、阿久津君という男の子だ。

当時、エルム街の悪夢というホラー映画が流行っていて、エルム街の阿久津というところから、エルムと言われていた。

中学生に上がってエルムは引っ越しをしてしまい会うこともなくなった。

あれは僕達が小学五年生の時だった。

僕が住んでいたのは横浜市。

横浜というと都会、シティなんてイメージがあるが、僕が住んでいたのは藤沢市との境目に近い場所で、畑や田んぼ、林、沼なんかもあった。

今ではその場所も開発され、自然も少なくなったが、何せ30年近くも前の話だ。

小学五年生の夏休み、僕とエルムは近くの沼にザリガニを釣りに行った。

手作りの木と糸で作った簡単な釣竿に、家の冷蔵庫にある何かのお肉を餌にして、糸に結び付ける。

結構簡単に釣れる。

沼はサッカーのコートくらいの大きさで、林の中にある。

林の入り口に自転車を置き、そこから歩いて五分くらいの所に沼が広がっている。

その日も数人の子供達がザリガニを釣りに来ていた。

他の子供達や、僕がザリガニを何匹も釣っているなか、何故か、エルムは一匹も釣れなかった。

むきになったエルムはザリガニを釣るまでは帰らないとごね始めた。

周りの子供達は家路につき、その沼は僕とエルムだけに。

辺りは日が落ち始め、徐々に薄暗くなっていく。

エルムは釣るポイントを変えながら
沼の周りを移動する。

僕はエルムについて行く。

みんなが釣りをするのは、基本的に林の入り口側の、比較的整地された場所だ。

エルムはそこの対面の足場が悪い場所へ移動した。

僕は無造作にある岩を注意深く足を置きながら付いていく。

ちょっと足場に慣れて調子に乗ってスピードアップした。

三段跳びのホップ、ステップのように岩を飛んでいく。

気が付くと僕は沼の中にいた。

岸でエルムが何やら叫んでいる。

僕は溺れ、もがいているが、ドンドン沼に埋もれていく。

エルムが沼に飛び込んだのが見えた。

そこから僕は意識がなくなった。

目を覚ました時に緑と木の匂いがしたのを覚えている。

目の前にはエルムと知らないおじさんがいた。

僕はいかにも手作りといった木のベッドに寝ていた。

そのおじさんが助けてくれたのだ。

おじさんの家は林の中の大木をくりぬいて造った、不思議な家だった。

手作りの家の入り口の手作りの表札には、五美場と掘られていた。

おじさんは、ごびばと名乗った。

痩せていて、色白で、自然の中で何故かきっちりした黒い背広を着ていた。

背が高く感じたのは、当時僕らが小さかったからか、五美場が背が高かったのかは、今となっては分からない。

まあ、おじさんといっても、今考えると30歳前後だったんじゃないかと思う。

五美場は学校では教えてくれないことを色々教えてくれた。

楽しかった。

時を忘れた。

五美場の家で、何度も食事して、何度も寝て、何度も起きた。

どれだけいたかは分からないけど、その間一度も夜は見なかった。

五美場は色々教えてくれたが、その中でも、よく未来のことを話してくれた。

さすがに全部は覚えてないけど、印象的なものは未だに覚えている。


「いつか、東京タワーより大きな塔が出来るよ」

「みんなが電話を持って歩くよ」

「韓国の人が大人気になるよ」

「モンゴル人が天下を取るよ」

「自分の日記が世界の人に見られちゃうよ」

「東京、木更津間が行きやすくなるよ」

僕らは「嘘だ!嘘だ!」と聞いていたが、全て本当になっている。

他にも、

「人から髪の毛が消えるよ」

「ただのゴムで出来た棒をみんなが振り回すよ」

「小学生が雨を止めるよ」

「梅干しが世界で表彰されるよ」

「東京、木更津間がさらに伸びるよ」

なんてことも言っていた。

どれくらい五美場の家に居ただろう?

一週間にも一ヶ月にも感じられた。

ある日ふと親のことを思った。

「心配しているのではないか?」

「捜索願いを出しているんじゃないだろうか?」

もしかしたら夏休みも終わっていて、学校が始まっているかも知れない。

学校のみんなも心配しているかも知れない。

「五美場、僕帰るよ」

そう言った僕をエルムは寂しそうに見ていた。

五美場は

「そうだね。親が心配するね。楽しい時間をありがとう!」

そう言うと、五美場は沼まで送ってくれた。

そして別れ際、エルムに「君はみんなを助けるよ」

僕に「君はみんなをそこそこ笑わせるよ」

と言って、一輪ずつ花をくれた。

花びらが白と赤の二色で、葉っぱがオレンジの見たこともない花をくれた。


最後に「このことは三人の秘密だよ」そう言って、五美場は林に消えた。


家に帰ると、親が何事もなかったかのように、お帰りなさい!と。

日付は僕とエルムがザリガニ釣りに行ったあの日だった。

五美場に貰った花を図鑑で調べたが、載っていなかった。

その花は約30年間枯れることがなかった。

その花が、去年の秋に枯れた。

その一週間後、太田プロに一通の手紙が届いた。

~覚えていますか?エルムです。~~五美場から貰った花、今でも持っていますか?あの花が昨日枯れました。~~僕は今ニューヨークで弁護士をしています。~~阿久津忠

僕は、五美場が去年の秋に逝ったんだと確信しました。

エルムとのやり取りはその手紙だけでした。

住所もニューヨークということしか書いてなかった。

ゴメン、エルム、五美場。

秘密をブログに書いてしまった!










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