『なぁ、あの頃のオレ。』青春編 第105話「なぜか洗濯が上達したオレ」 | 『なぁ、あの頃のオレ』青春編

『なぁ、あの頃のオレ』青春編

失敗だらけの人生を、
今のオレが昔のオレにツッコむ。

16歳で一人イタリアへ。
気ぃ使いすぎて空回り。

失敗も、勘違いも、だいたい自分発。

全部実話。1話完結。

『なぁ、あの頃のオレ。』連載中。



◆ 毎日、ゴシゴシ

なぁ、あの頃のオレ。

イタリアでの練習は、
夏場、とにかく汗をかく。


ユニフォームは、
ビショビショ。

ストッキングは、
ドロドロ。


ホテルへ戻ったら、
まず洗濯。


洗面所で。


ゴシゴシ。

ゴシゴシ。

ゴシゴシ。


……。


手洗い。


次の日も、
ゴシゴシ。

また次の日も、
ゴシゴシ。


最初は、

(まぁ、
こんなもんなんかな。)

そう思っとった。


でも、
しばらく経った頃。


いつものように洗面所で、

ゴシゴシ。
ゴシゴシ。


ふと、
思った。


……。


待てよ。


このホテル。


そこそこ、
豪華やぞ。


部屋、
広い。


テレビ、
デカい。


風呂、
キレイ。


ロビーも、
ちゃんとしてる。


……。


(洗濯機、
ないんかいっ!!)


『気づくん遅っ!!』


お前。

どれくらいの間、

何の疑問も持たずに
ゴシゴシしとったんや。


◆ 何かがおかしい

いや。


ホテルが悪いんちゃう。


待てよ。


(オレら、
サッカー留学やんな?)


毎日、
走る。


汗かく。


泥まみれになる。


当然。


洗濯物、
めちゃくちゃ出る。


それ分かってて。


このサッカー留学を
企画した会社。


(何で、
洗濯機ないホテル
選んだん?)


……。


そこから。


オレの頭の中で、

頼まれてもない調査が
始まった。


(もしかして。)


(洗濯機買う、
予算なかったんちゃうか。)


『何の証拠もない!!』


飛行機。

ホテル。

練習場。

コーチ。


そこまで、
予算を振り分けて。


最後。


(あと、
何か必要ですか?)


(洗濯機は?)


(……。)


(予算ないな。)


(ほな、
手で洗ってもらおか。)


……。


『勝手に予算会議
開催すな!!』


会議に参加してへんヤツが、

一番詳しそうに
再現しとる。


何の証拠もない。


でも。


オレの中では、

洗濯機がない理由が
ほぼ確定した。


……。


(予算や。)


『決めんな!!』


◆ いらんことを思いつく

となると。


次に考えることは、
一つ。


(みんなで署名したら、
買ってくれるん
ちゃうか?)


……。


出た。


余計なことを
思いつくオレ。


参加者みんなに、
署名してもらう。


それを会社へ、
提出する。


(洗濯機を、
買ってください。)


……。


(ええやん。)


(人数おるし、
みんな困ってるし。)


(これなら会社も、
動くんちゃうか。)


……。


お前。


急に、
行動力出てきたな。


サッカーでは、
悩んでばっかりやのに。


洗濯機一台で、
立ち上がった。


『何のリーダーや!!』


でも。


ここで。


いつものオレが、
顔を出す。


……。


(待てよ。)


もし。


会社から。


(何や、コイツ。)


って、
思われたら?


……。


(いらんこと、
企てよったな。)


……。


(日本、
帰ってもらおか。)


…………。


強制送還。


『何でやねん!!』


洗濯機一台、
お願いしただけやぞ。


何で留学まで、
終わんねん。


でも。


オレの妄想は、
もう止まらん。


空港。


スーツケース。


日本行きの、
飛行機。


みんなは、
イタリアに残る。


オレだけ、
帰国。


……。


(アカン。)


(やめとこ。)


『署名する前に
国外追放された!!』


まだ。


誰にも、
相談してへん。


署名。


ゼロ。


会社への要求。


ゼロ。


会社からの警告。


もちろん、
ゼロ。


なのに。


オレの頭の中では。


洗濯機を要求した罪で、
イタリア留学終了。


……。


『何罪や!!
洗濯機要求罪か!!』


結局。


署名活動。


中止。


会社にも、
何も言わん。


そして。


次の日。


洗面所で。


ゴシゴシ。

ゴシゴシ。


……。


『結局、
手で洗うんかい!!』


◆ そして、慣れていく

洗濯機は、
ない。


要求する勇気も、
ない。


残された道は。


……。


洗う。


洗面所で、
ゴシゴシするヤツ。


キッチンで、
洗うヤツ。


浴槽にお湯をためて、

ユニフォームやストッキングを
まとめて入れるヤツ。


ドボン。


……。


浸け置き。


『そこ、風呂やぞ!!』


人間が浸かるところに。


今日は。


ストッキングが、
浸かっとる。


でも。


毎日やってると、
嫌でも慣れてくる。


洗い方。

すすぎ方。

絞り方。


(先に浸けといた方が、
ええんちゃうか。)


(これ、
もうちょい絞れるな。)


……。


『研究すな!!』


誰にも、
教わってへん。


コーチ、
ゼロ。


練習場、
洗面所。


なのに。


昨日より今日。

今日より明日。


洗濯だけは、
確実に上達していく。


『何でそっちだけ
伸びしろあんねん!!』


サッカーには、
イタリア人コーチがおる。


毎日、
指導してもらってる。


一方。


洗濯。


完全自主練。


……。


『イタリアまで来て
何に手応え感じとんねん!!』


◆ 部屋を見る目が変わった


ただ。


イタリアの夏には、
驚いた。


水で軽くゆすいで、
太陽に当てる。


すると。


カラッカラ。


……。


(早っ。)


(イタリアの太陽、
乾燥機やん。)


でも。


ホテルでは、
外に干されへん。


四人部屋。


四人とも、
毎日サッカー。


つまり。


毎日。


洗濯物だらけ。


イス。


使う。


机。


使う。


タオル掛け。


使う。


掛けられそうな場所は、
全部使う。


そのうち。


部屋に入った瞬間。


(ここ、
干せる。)


(あそこも、
いける。)


(このイス、
二枚いけるな。)


……。


『何の能力
開花しとんねん!!』


最初は。


(部屋、広っ!)


(テレビ、デカっ!)


(風呂、キレイ!)


それが、
しばらくすると。


壁を見る。


イスを見る。


窓際を見る。


……。


(ここ、
パンツいけるな。)


……。


『イタリアの景色見ろ!!』


せっかく、
イタリアまで来たのに。


お前の目が、
育った方向。


……。


物干し。


『そこだけ
視野広げんな!!』


◆ 結論

なぁ、
あの頃のオレ。


サッカーが、
上手くなりたくて。


わざわざ日本から、
イタリアまで来た。


毎日、
練習した。


ボールを蹴って、
走った。


その裏で。


洗った。

すすいだ。

絞った。

干した。


洗濯機がない。


会社の予算を、
勝手に心配した。


署名しようと、
思いついた。


そして。


まだ一枚も、
署名してへんのに。


……。


強制送還された。


『頭の中でな!!』


怖くなって、
全部やめた。


そして。


黙って、
手で洗い続けた。


その結果。


洗い方。

すすぎ方。

絞り方。

干し方。


気づけば。


洗濯だけは、
順調に上達していった。


……。


なぁオレ。


もしかして。


あの時。


強制送還の妄想さえ、
せぇへんかったら。


洗濯機。


買ってもらえたかも、
しれんな。


……。


まぁ。


今となっては、
分からん。


ただ一つ。


確かなことがある。


サッカーの腕を、
磨きに来たはずのお前。


あの夏。


毎日、
磨かれていったんは。


……。


洗濯の腕やった。


【一言まとめ】
サッカーを磨きに来た。
洗濯の腕が、磨かれた。


【次回】
風呂場から、
謎の音を響かせたオレ。