生きるべきか?死ぬべきか? | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


安楽死をテーマにした映画は、近年も公開が続く。
フランソワ・オゾンの「すべてうまくいきますように」や、「ブラックバード~家族が家族であるうちに」、題材が題材なだけに、監督の真価が問われる。
手塚治虫さんのブラックジャックも、安楽死を遂げさせるドクター・キリコがライバルだったっけ。


あのジャン・リュック・ゴダールだって、最期は安楽死を選んでしまった。
同じ映画監督として、思うところはあるだろう。
スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルも、ついにこの重いテーマに挑戦した。


「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」
安楽死を望む女性と、親友の最期の数日間の物語。
ヘンリー8世の憎悪渦巻くバトルを描いた「ファイアーブランド」も役者の演技が見物だったが、こちらも負けてない。


死にゆくティルダ・スウィントンと支えるジュリアン・ムーア。
多くを語らずとも、纏う空気で二人の関係性が伝わる。
重苦しいだけでなく、敢えてアルモドバルらしいずらしも用意し、ブラックな笑いを誘うのも特徴だ。


死にそうで死なない可笑しさや、間と呼吸、外し方が絶妙に上手い。
二人の女優の駆け引きも楽しめる。
もちろん毎度のことながら、アルモドバル印の鮮やかな色に圧倒される。


オープニングの本屋のシーンから心掴まれるのだ。
あれだけの色彩なのに、映画の邪魔は決してしない。
アルモドバルはスペインを代表する映画監督だが、アーティストであり、鋭いストーリーテラーでもある。


一癖も二癖もある作品を作り、強烈な印象を残してファンは絶えない。
一人の女性の人生、人間の死を掘り下げた美しい映画だ。
ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞作品。


その選択は正しいのか、間違っているのか?
答えは分からない。
人は生きてそして死ぬ、アルモドバル入魂の人生賛歌だ。