父不在 | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


知らない監督さんの作品だと、観ようというきっかけはキャストだったり物語だったりする。
「大いなる不在」
キャストも申し分ないし、物語にも惹かれるので観たい 気持ちを後押しする。


主人公と父の関係は複雑だ。
幼い頃に、母と共に捨てられたからだ。
30年近く離れて暮らしていて、再会してもぎこちない。


ぎこちない関係の父親は認知症だ。
ますます父親のことが分からない。
謎だらけの父親を、息子が少しずつ探り、理解していく。


自分の父親は13年前に亡くなったが、亡くなった後に知ることも結構あった。
母親をその2年前に亡くしたことにより、老いも認知も激しくなった。
そんな父が、母のことを強く想っていたことが後に分かる。


若かりし母親に宛てられた手紙、いわゆるラブレターも残してあったし、白黒の若い頃の母の写真がわんさか出て来た。
朝のワイドショーでも取り上げられたが、母が亡くなった後にアルバムから母の写真を切って、枕元に忍ばせていた。
それを発見した時は、何だかこそばゆい感じがした。
自由で気まぐれで不器用な父の、別の顔だった。
家族が自分だけとなったその時の孤独感はかなりだったが、知らない父を知るのは良い体験だった。
今度は自分が父の年齢に近付いている。


以前よく藤竜也さんが駒沢公園を走ってる姿を見掛けたが、藤竜也さんはあの時のまま迫力ある佇まいでスクリーンに立つ。
老いて尚、巨大な壁のように息子の眼前に君臨する。
故に息子は、振り回され、圧倒されるのだ。


映画は詩的でアーティスティックで、決してストレートではない分かりづらさはある。。
サスペンスでありミステリーでもあり、知らない父親を知る旅でもある。
観ている間、謎多き自分の父の姿が頭から離れなかった。