ビクトル・エリセ、31年振りの奇跡 | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


スペインのビクトル・エリセ監督程、寡作の人はそうはいない。
長編デビュー作の「ミツバチのささやき」は、 未だ語られ、2作目の「エル・スール」と共にリバイバル公開されたり、人気のある作品である。
その2作目までも10年、3作目も10年経過、10年に1本しか撮らないのだ。


例えばクリント・イーストウッドやウディ・アレン、フランソワ・オゾン等、次々新作を発表する監督がいる。
一方で、撮らないのか、撮れないのか、新作を発表するまで延々と時間を掛ける監督達がいる。
「天国の日々」のテレンス・マリックなんかも寡作と言えるでしょう。


今回、「瞳をとじて」は実に31年振りの長編映画。
それこそ近年も、短編では10年毎くらいに新作を発表してきたエリセ監督。
「10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス」も、「ポルトガル、ここに誕生す」も、自分は映画館で鑑賞している。


何とか短編は撮ったものの、長編は50年でたった4作しか撮っていない。
満を持しての新作は、記憶の映画だ。
22年前に映画撮影中に失踪した俳優と、その映画の監督でもあり、親友でもあった主人公の記憶の旅。


去年日本で公開されたスピルバーグの「フェイブルマンズ」や、サム・メンデスの「エンパイア・オブ・ライト」は、コロナ後の映画を応援するような映画だった。
「瞳をとじて」もまた、映画への愛情がそこかしこに溢れている。
これまで長編を撮れなかったエリセの熱い思いだろうか?


特にクライマックス。
映画館のシーンに、我々映画ファンの思いをくすぐる細やかな演出が印象的だ。
その記憶を巡るクライマックスは、「ニューシネマパラダイス」をも彷彿とさせる。


感動的なのは、それだけではない。
「ミツバチのささやき」のアナ・トレントが、50年振りにビクトル・エリセ新作に帰って来た。
失踪した俳優の娘という重要な役で。



これもまた、映画の奇跡と言える。
後半ドラマが動いた後の彼女の芝居が素晴らしい。
ここも泣かせるポイントのひとつ。


次のビクトル・エリセの新作は10年後か?
これが遺作になってしまうのか?
新たな奇跡を信じよう。
早くも、今年最高の1本、誕生だ。