人間不在 | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


長く生きていると、人がいなくなる悲しさや苦しさを覚える。
死によって、今まで当たり前に存在していたものを失う。
大切な相手が失踪したら尚更だろう。


主人公は夫が失踪した、銭湯の経営者。
理由も分からないし、もちろんどこにいるのかも分からない。
探偵を雇って彼の行方を捜すのだが。


喪失と再生というのはよくある物語だが、非常によく練られ、今泉力哉監督の演出もキャストもいい。
真木よう子さん主演、相手役は井浦新さん。
心憎いほど、脇の俳優も魅力的だ。


探偵を演じるのはリリー・フランキーさんだが、この人は何故こうも異質の人をリアルに演じられるのか。
感心することしきりだ。
胡散臭く裏がありそうなこの男を、何故こうも魅力的に登場させるのか?


主人公は、自分の知らない夫のことを知ることになる。
自分のことだって夫は何も知らない。
結局、皆、知ってるようで何も知らないのだ。


SNSが溢れる今の時代なら尚更。
繋がってるようで、何も繋がってない。
見える部分だけを見て、裏側のことはこれっぽっちも分かってない。


ラストシーンが我々に問い掛ける。
あなたは大切な人のことを理解していますか?と。
もやもやとした余韻の残る傑作である。