未だ恐るべきレオス・カラックス | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


寡作で知られるレオス・カラックスの9年振りの新作「アネット」。
主演がアダム・ドライバーとマリオン・コティヤールで、しかもミュージカル。
カンヌ国際映画祭監督賞受賞作だが、こちらは普通の映画は期待していない。


ロックオペラ・ミュージカル等と言われているが、そんなカテゴリーに当て嵌まるはずもない。
途中から置いてきぼりを喰らう人もいるかもしれない。
だけど、そういう映画だと覚悟して観ると、案外楽しめる。


特にオープニングは圧巻だった。
カラックスが合図すると、スパークスが歌い出し、アダム・ドライバーとマリオン・コティヤール、メンバーが歌い踊り、外へと繰り出していく。
そう、これは前作「ホーリー・モーターズ」の行進シーンを思い出させる。


あの時も鳥肌が立ったが、今回も掴みは最高だ。
スタンダップ・コメディアンとソプラノ歌手の恋と波乱が描かれるが、二人が授かった子供は木の人形「アネット」。 
それをファンタジーと呼ぶべきかは疑問だが、とにかくそういう映画なのだ。


カラックスが登場した頃、リュック・ベッソンとジャン・ジャック・ベネックスと共に「恐るべき子供たち」と呼ばれ、注目された。
ベネックスは映画を20年撮ることなく今年亡くなってしまい、ベッソンもどこにでもいるアクション監督になってしまった。
だがカラックスには未だデビューした頃の新しさと危うさと芸術性があり、衰えを感じさせない。


日本人キャストも話題だ。
古舘寛治さんや水原希子さんがカラックスの色に染まる。
そしてもうひとつ。
エンドロールにウィル・スミスのビンタで話題となったクリス・ロックの名前が。


アダム・ドライバー演じるスタンダップ・コメディアンにネタを提供したのか、それともドライバーがクリス・ロックに影響を受けたのか、はたまたアドバイスを受けたのか。
アダム・ドライバーが毒舌でショーを盛り上げ、次第に客との距離が生まれるのも、アカデミー賞と重なるではないか。

レオス・カラックス、恐るべき子供が今を駆け抜ける。