オゾン17歳の夏 | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


フランソワ・オゾンの新作は、彼が17歳の時に読んで影響を受けたという、エイダン・チェンバーズの小説「おれの墓で踊れ」の映画化「SUMMER OF 85」。
近年ますます作品のクオリティーが増しているオゾンの新作は、自分も待ちに待っていたものだった。


オゾンの映画は多種多様、美学はあるがジャンルの幅は広い。
今回は彼がゲイであることも含め、彼自身の17歳と重なる青春映画として美しくもあり、残酷でもある。
ひと夏の激しい恋、そして愛した恋人の死、オゾンがどうしても映画化したかった強い思いも頷ける内容だ。


オゾンと同世代(自分はひとつ年上)ならば、懐かしいであろう、ディスコでのヘッドホンを恋人に掛けるシーン。
そう、ソフィー・マルソーが日本でも大人気となった「ラ・ブーム」のワン・シーンだ。
あのシーンが大胆にも使われている。


曲は意外にも、ロッド・スチュワートの名曲「セイリング」だ。
「愛のファンタジー」を記憶している人なら、まさかのロッド・スチュワート?と思うかもしれない。
が、歌詞も彼らと重なるところがあり、じわじわと染みてくるのだ。


自分の17歳の夏、1984年は親友とよく原付を飛ばして海に行った。
彼は無茶苦茶モテ、ナンパにも長けている。
自分はいつもオロオロするばかりで、そんな彼の自信と行動が羨ましくもあった。


だからこそ自分は違う自分になりたかったのだ。
違う自分になるために、家を出て、夢いっぱいで東京へ向かったのだ。
もし自分が頭脳明晰でスポーツも万能で、女の子にもモテモテだったら、こんな険しい道は選ばなかったに違いない。
男性には魅かれなかったが、日常で何度もメイクし、ボーイ・ジョージやデヴィッド・ボウイが好きで女装癖もあり、高校のミス・コンテストにも毎年出させられた点はこの主人公と多少重なるだろうか?


主人公アレックスを演じたフェリックス・ルフェーヴルはオーディションでオゾン自身が選んだそうだが、スターの予感大。
オゾンはリバー・フェニックスのような雰囲気だ、と彼を絶賛する。
相手役のバンジャマン・ヴォワザンとの相性も抜群で、脇を固めるベテラン勢の抑えた演技も映画を支えている。
オゾンの映画はいつも自由で、どこまでも大胆で、映画の可能性が無限であることを教えてくれる。