クローネンバーグ、究極を撮る | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


ルトガー・ハウアーの怪演に酔った「ヒッチャー」に続き、出演者総出の怪演バトル、「クラッシュ」が4K修復版で公開。
監督は怪奇映像で独特の世界観を放つデヴィッド・クローネンバーグ。
昔から好きな監督の一人。


だが、この映画、クローネンバーグの中ではあまり好きな作品ではない。
あまりにも尖り過ぎて、正直ついていけない。
簡単に言うと、交通事故に快楽を求める人達がエスカレートしていくお話。


怪演を競うのは、当時人気スターだったジェームズ・スペイダーに、オスカー女優のホリー・ハンター、TOTOの名曲「ロザーナ」のモデルで「グラン・ブルー」のロザンナ・アークエット。
カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したものの、評価は分かれた。
こんな映画何が良いのか、とお怒りになる方もいるだろう。


ゲテモノ、キワモノを徹底して描くクローネンバーグだが、実は評価も高い。
個人的には1980年代の予知能力を持った男の悲劇「デッドゾーン」や蝿男になってしまった男のこちらも悲劇「ザ・フライ」が好き。
2000年代にまた評価が高まり、「ヒストリー・オブ・バイオレンス」や「スパイダー」、「イースタン・プロミス」といった傑作を連打した時期も嬉しかった。


当時観た時はクローネンバーグは何でこんな映画を?と思ったものだが、今観直してみると、人間の欲望というのは留まることを知らず、その果てには悲劇しかないのだなと感じ、身震いした。
お客に迎合しない姿勢もさすがクローネンバーグ。


クローネンバーグという道を作ったクローネンバーグ。
この道だけ。
潔い。
この「クラッシュ」の後の傑作群を観れば納得。
これは助走に過ぎなかったのだ。
まだまだこれから尖った新作を見せてほしい。