アフリカの現実を歌った彼女は、当時デビューアルバム「トレイシー・チャップマン」から「ファストカー」をヒットさせた。
多くの人に受け入れられた彼女の歌は、その意味を知れば知る程、染みた。
毎晩のように聴いていた。

「禁じられた歌声」はそんなトレイシー・チャップマンが登場した時のように、どうしてもアフリカの事実を伝えなければという思いで、モーリタニア生まれのアブデラマン・シサコ監督が作った映画だ。
この作品が、フランスのセザール賞を独占受賞し、アカデミー賞でも外国語映画賞ノミネートとなり、絶賛された。

この映画には、イスラム過激派に占拠された土地で実際あった過酷な出来事がちりばめられている。
例えば、結婚せずに子供が出来てしまった男女を襲う公開投石処刑。
禁じられた歌を歌った女性への鞭打ち。
歌、サッカー、煙草、あらゆる物が禁止され、女性は顔も手も隠さなければ罰せられる。

かつてトレイシー・チャップマンは歌った。
あなたは速い車を持ってる。
国境を越えて逃げましょうと。
主人公の貧しい少女は、当然速い車なんて持っていない。
彼女は、ただただ砂丘の中を走るしかないのだ。

トレイシー・チャップマンが歌ったあの頃より、世界は少しはマシになったのだろうか?
