張込み (1958) 松竹 | ゆうべ見た映画

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懐かしい映画のブログです。
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そして「ちょっと休憩」など 入れてます。

 

 

野村芳太郎監督 


原作・松本清張、脚本・橋本忍、監督・野村芳太郎の

ゴールデン・トリオには

 

『ゼロの焦点』『影の車』『砂の器』など傑作が多いですが

この『張込み』が このトリオの第一回目の作品。

 

野村芳太郎監督は このとき38歳で

それまでB級映画ばかり 撮らされていたので

とにかく自分の 

監督生命を賭けたものを撮りたいと思っていた。

 

そこに話が来たのが 

この『張込み』だったので一歩も引かずにやった。

だから『砂の器』より 

この映画への思いの方が 強いと語られています。

 

 

お話、ネタばれご免!

     黄色い花


ベテラン刑事の下岡(宮口精二)と

若手刑事の柚木(大木実)は 
東京で起きた質屋殺しの共犯者・石井(田村高廣)を追って佐賀に行く

既に逮捕された主犯 (内田良平)の自供によると

石井は凶行に使われた拳銃を持っていて

 

今は佐賀で 銀行員の妻になっている 
昔の恋人・さだ子(高峰秀子)に 逢いたがっていたという。

二人の刑事が 横浜から佐賀に向かう 

蒸気機関車(SL)での 7分に及ぶ導入部が見事です。

 


超満員で 席に座るどころか 通路までぎっしり

蒸し風呂のような車両の天井には 

扇風機が頼りなく回っている。

 

静岡、浜松・・、

夜が明けて 名古屋あたりで やっと座れ

 

広島、関門海峡、博多・・・


この間に

途中通り過ぎる 主要駅のカット、 

別撮りした 山間や海辺を走る SLの走行風景を挿入。

 

1000キロ以上の長旅の 臨場感が伝わって来る。

 

途中、東京から乗ったはずの 

石井の本籍地である 小郡に捜査で行く別組の刑事たちを 
車両をまたいで探し 合流し 


一緒に駅弁を食べ お酒を飲み

そして小郡に到着すると ここで二人の刑事は降りて行く。


こういうところも 実に丁寧に撮っています。

 

そうしてやっと 佐賀に着いた二人は

 

さだ子の家の真向かいにある旅館を見つけ

早速、部屋に籠って 張り込みを開始。

さだ子が外出するときは どちらかが尾行する。

 

 

さだ子(高峰秀子)

 

さだ子は 

ケチで口うるさく 20歳以上も年上の主人と

先妻の子供三人を育てながら

 

一日百円を貰って やりくりする 

地味で平凡な主婦であり
犯罪などとはまったく 無縁な人間に見える

 

掃除、洗濯、ミシン、市場への買い物、

突然の雨に 主人の長靴と傘を持って 駅へ行く・・・


三日たっても 四日たっても 同じ毎日。

何事も起こらない。

 

例えば 石井から連絡があるとすれば

電話は無いのだから 郵便しかないはずで 

特に刑事たちは 郵便配達を注視するが

その郵便さえ めったに来ない。


すると この旅館の一家が面白い。

女主人と娘ふたり。


刑事たちは身分を隠し 

農機具のセールスマン ということにしているのだが
 

あの二人は怪しい。 

営業といいながら 男二人で引き籠もってばかりいると
地元の警察に相談したりする。


しかし、7日目 

突如、さだ子が裏口から出た。

 

下岡に応援部隊を頼み 飛び出す柚木。

午前中、物売りが来ていたが あれが伝達だったのだ。
 

日傘を目当てに 尾行する柚木が

日傘をたたまれた時点で 一瞬見失うところも面白い。

そして

温泉場の森の中で ふたたび探し当てた時・・


 

「もうあの家には帰らない、あなたと一緒に行く!」

 

あの地味で貞淑な妻・さだ子が

石井の腕の中で見せる 激しい恋情に柚木は驚く。

 

しかし、この後 旅館で石井は逮捕される。

 

何も知らずに お風呂から上がって来たさだ子に

柚木は言う。

 

「あなたは次のバスで家へお帰りなさい

 今ならご主人の帰宅時間に間に合います」

 

 

泣き崩れるさだ子の姿に 柚木は呟く。

 

「この女は数時間の命を 燃やしたに過ぎなかった

 明日からは またあの主人と 

 先妻の子供たちとの生活に戻るのだ」


     黄色い花

冒頭に描かれる 列車移動の車中のシーンは

実際に「九州行き急行列車」の最後尾に

貸切りの三等客車を一両増結して撮影され

 

スタッフ陣、大木実、宮口精二は

大勢のエキストラと共に 一昼夜乗り続けながら

汗にまみれ シャツを脱ぎ 下着姿でリアルに撮影した。

 

 

また地元紙の佐賀新聞が 

「今日の撮影予定」の記事を連日載せるので

街頭ロケには一万人以上の見物人が集まり

 

二人の刑事が宿泊した 旅館の周りを

大勢のファンが取り囲み 警官隊と揉み合いになったそうです。

 

 

犯人の田村高廣さんが護送される 

当時の駅構内の様子が 泣けるほど懐かしい。

 

 

えーと、それから

 

高峰秀子さんは ご自身の本の中で

「ベッド・シーンとキッス・シーンは したことがない」と

書かれていましたが

 

まあ、ありましたわよ!

 

 

 

おしまい