読書 「2 原節子・蛇姫様騒動」 | ゆうべ見た映画

ゆうべ見た映画

懐かしい映画のブログです。
ときどき、「懐かしの銀幕スター」「読書」など
そして「ちょっと休憩」など 入れてます。

 

石井妙子「原節子の真実」

斎藤忠夫「東宝行進曲」他から

 

前回のつづきです

 

こちらの記事は 

何年か前一度アップしたものですが

少し手直しました

 

     赤薔薇

1937年(昭和12)・7月

 

『新しき土』の キャンペーンによる

ドイツ・フランス・アメリカの旅を終え

横浜港に降り立った 節子は

早速、新聞記者に取り囲まれた

 

「西洋では何に一番関心したか」の問いに

 

節子は

マレーネ・ディートリッヒに逢った感想を述べ

「女優として立派な人格の持ち主であるという印象を受けた

 今後、私も人格的に生きて行きたい

 それには俳優も もっと真面目に

 人格的にならなければならないと思う」と答えたが

 

この発言が「西洋かぶれ」「生意気」と 捉えられた

 

日本人が抱える 

屈折した根強い 西洋コンプレックスと

年少の女性に対する 軽視によるものだったと言える

 

そして、映画会社は 

世界的なスターになった少女を起用し 

とにかく熱の覚めぬ前に 

映画を製作することしか考えず

 

節子はすぐに 

映画『東洋美女伝』の撮影現場にと送られ

 

作品は大々的に「原節子・帰朝第一作」と宣伝され

同年10月に公開された

 

話題性だけに寄りかかり にわか作りされた作品は

当然、不評だったが

 

「国際女優とはこんなものか」

「ただの大根役者である」

その責任は 

すべて節子にあると 言わんばかりに叩かれた

 

原節子に

「大根女優」のレッテルが貼られたのはこの時で

これ以後は 何をやっても「大根」と

執拗に叩かれ続け 追い詰められたが

 

しかし 女優をやめたいと思っても

義兄の手前もあり 困窮している実家には

今や節子の経済力が 無くてはならなかった

 

この後、節子は 東宝に移籍した

 

東宝は 関西財界の大物・小林一三が

PCL製作所、JOスタヂオなどを吸収合併して立ち上げた

新しい会社であり

 

PCLからの社員や俳優、監督が幅を利かせており

スタッフには見知った顔もなく

節子は孤立していた

 

そんな中で

ビクトル・ユーゴー原作「レ・ミゼラブル」を翻案した

伊丹万作監督『巨人伝』や

 

アンドレ・ジイド原作の

山本薩夫監督『田園交響楽』などに出演した節子だが

いずれも評価は低く

 

「もっと勉強してから スターになるべきだった」と

しばしば 演技が未熟であるという 批判にさらされた

 

もともと 小学校の教師を夢見ていた節子は 

どちらかと言うと 無口でもあり 

女優向きの性格ではないと 自覚していたが

この当時の東宝には

 

子爵の出であり 圧倒的な人気を誇る入江たか子と

彼女の一党である 若手女優がぞろぞろ

そのほか 霧立のぼる、山田五十鈴、花井蘭子・・と大世帯

 

入江たか子

 

役がつく つかないの にらみ合い

嫉妬、陰口、意地悪・・そんな「女の園」で

 

演技も上手くないくせに 

美人なだけで 世間で騒がれる女優と言われ

 

それを自覚している 聡明な節子は 

自らも周りに 溶け込もうとはせず

 

マスコミや宣伝部にも 愛想のよくない女優

男優陣の誰かが 冗談を言っても そっと逃げ

仕事が終われば さっさと帰ってしまう女優

 

 

そんな彼女が 二十歳になった頃は

いつのまにか 聖処女のレッテルが貼られるようになり

美貌は ますます光り輝いていた

 

そんなとき 持ち上がったのが

川口松太郎原作の

時代劇映画『蛇姫様』の配役騒動だった

 

この作品は 

大映『地獄門』でカンヌ映画祭・グランプリを受賞した

衣笠貞之助監督の 東宝移籍・第一作目で

 

大河内伝次郎、長谷川一夫、山田五十鈴、花井蘭子など

時代劇スター総出演の 超大作・前後編もの

 

しかし 全配役の発表も終わり 

いよいよ撮影という時に

主役・蛇姫様役の 入江たか子が入院

 

会社は代役に 節子を抜擢したが

 

代役には 

歌舞伎界の大物女形か 新劇界の大物女優を考え

節子起用に 大反対である 

衣笠監督の説得から始まり

 

しぶしぶ監督が同意したと思ったら

 

今度は

蛇姫様につかえ 後には姫の為に命を落とすという

重要な腰元役の 花井蘭子が出演拒否

 

入江たか子の姫様なら納得だが

節子のような素人役者に つかえる役は出来ない

 

これも代役を立て やっと撮影開始

 

『蛇姫様』の原節子

 

それでも

出来上がった映画は 大ヒットした

 

にもかかわらず

この後、会社は不思議なことをした

 

引きつづき制作に入った『蛇姫様・後編』の主役は

当然、節子でいくのかと思いきや

病気の癒えた 入江たか子に変更

 

いずれ前後編を 同時公開する時の為に

前編の節子部分を 全部カット 

あらためて 入江たか子で撮り直したのである

 

「前編」は既に 大ヒットしているのに

首脳部が なぜこんな処置をしたのか

スタッフはじめ 周りの者たちは 

あたふたしながらも 誰にも判らなかった

 

このとき節子は どんな気持ちだっただろう

 

そして 撮り直しをした

衣笠貞之助監督は 何を想っただろう

 

以後、衣笠監督は 長い監督人生のなかでも

一度も原節子を使っていない

 

       赤薔薇

 

image

アメリカのライフ誌が グラビアで紹介した 

『蛇姫様』の衣装合わせ風景

 

 

つづく