桑野通子さんは 1932(昭和7年)
(現)三田国際学園高等学校を トップクラスの成績で卒業後
森永製菓に入社、初代スイート・ガールに選ばれ
キャンペーン・ガールとして 全国を巡っていましたが
その後、赤坂のダンスホール『フロリダ』に移り
ダンサーとして働いているときに スカウトされ
1934年・松竹へ入社。
当時の女優さんは お顔は綺麗でも
胴が長く スタイルの悪い人も多く
その中で通子さんは、近代的な美貌と
均整のとれたプロポーションが ひときわ鮮やかに目立ち
やがて来る、「桑野通子時代」を予感させました。
清水宏監督『有りがたうさん』で 共演した頃から
通子さんと上原謙さんの仲は 撮影所内でも有名で
ふたりの結婚は 確実と思われていましたが
謙さんは突如、小桜葉子さんと結婚。
清水宏監督 『有りがたうさん』
この映画で、桑野通子さんは高い評価を得ました。
上原謙さんの二枚目ぶりも まあ、ヴァレンチノみたい。
小桜葉子さんという方は
松竹で子役から 映画出演されていた方で
本名が岩倉具子。
明治時代の政治家・岩倉具視のお孫さんで
加山雄三さんのお母様 ということになりますね。
さてしかし、失恋の痛手を 撥ね退けて
これ以後の 通子さんの活躍はめざましく
島津保次郎、小津安二郎、吉村公三郎、中村登などなど
日本を代表する名監督に 立て続けに起用され
高峰三枝子さんと共に
当時、松竹ナンバー・ワンだった
田中絹代さんの王座を 揺るがす存在となりました。
島津保次郎監督 『家族会議』
小津安二郎監督 『戸田家の兄妹』
そして
1942年 通子さんは昔、一緒に働いていた
森永製菓の社員との間に 女の子を出産しましたが
その娘さんが
『青春残酷物語』や『彼岸花』などの 桑野みゆきさんです。
桑野みゆき
しかし、桑野通子さんは
それから僅か、4年後の1946年。
溝口健二監督『女性の勝利』の撮影中
あとワンカットを残し、突然倒れ
子宮外妊娠による 出血多量で亡くなりました。
まだ31歳でした。
今はもう 桑野通子という 女優さんをご存知の方は
ほんとに少ないでしょう。
娘さんの桑野みゆきさんでさえ ご存知ないかもしれませんね。
実は私も、お名前は知っていても
通子さんを意識して 観るようになったのは
10年余りくらい前から なのですが
作品を観るほど 綺麗なばかりでなく
聡明さを感じさせる 女優さんで
その短かった人生を想うと 可哀そうでなりません。
ご活躍された時期が もっともっと長かったら
多くの名作に 名を連ね
また、小津作品の常連にもなられた
女優さんだったかな、と思います。
キャンペーン・ガールや ダンサーの経歴から
派手で奔放な女性に 思われがちですが
実際の人柄はどちらかと言うと 寡黙で大人しい方だったそうです。
女優人生、僅か12年。
30本余りの映画に出演されています。
