読書  小川未明 「金の輪」 | ゆうべ見た映画

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懐かしい映画のブログです。
ときどき、「懐かしの銀幕スター」「読書」など
そして「ちょっと休憩」など 入れてます。


幼い頃、よくお母さんに
小川未明さんの童話を 読んでもらった。

子供の本というと ほかに『小公女』くらいしか
無かったように思うけれど

 

未明さんの 古い本は 

色も無く、味気ないような本でしたが

お話の集まったものが 三冊くらいあった。

 



この『金の輪』を
幾つくらいで 知ったか分かりませんが

子供心に 大きなショックを受けたことは
よく覚えています。


未明さんの作品には 
どことなく怖い 雰囲気の漂うものが多く
そこが大変、魅力的なのでありますが 


しかしその中でも この『金の輪』の衝撃は
幾晩も眠れなくなったほどで

トラウマと言える
おそらく私の 人生最初の体験だったと思います。



お話。


太郎は長い間、病気で臥していましたが
ようやく床から離れて 出られるようになりました。

けれどまだ三月の末で 桜の花も、桃の花も
咲くには早ようございましたけれど
梅だけが垣根の際に 咲いておりました。

太郎は外に出ましたが
往来にはだれも友だちが 遊んでいませんでした。

独りしょんぼりと立っていると
遠くから 金の輪の触れ合う音がして 
ちょうど鈴を鳴らすように 聞こえてきました。

かなたを見ますと 往来の上をひとりの少年が
輪をまわしながら 走って来ました。

太郎は目をみはりました。
かつてこんなに美しく光る輪を 見なかったからであります。

いったい、だれだろうと思って 
走ってゆく少年の顔を ながめましたが
まつたく、見覚えのない少年でした。

少年は、往来を過ぎるとき
ちょっと太郎の方を向いて 微笑しました。


明くる日の午後、太郎はまた外に出てみました。

するとちょうど、昨日と同じ時刻に
輪の鳴る音が 聞こえて来ました。
 
かなたの往来を見ますと 
少年がふたつの輪を鳴らして 走って来ました。

その輪は、金色に輝いて見えました。

少年は往来を過ぎるとき こちらを向いて
昨日よりもいっそう懐かし気に 微笑んだのであります。

「いったい、だれだろう」

いままで一度も見たことがない 少年だけれども
なんとなくいちばん親しい 友だちのような気がしました。


その晩、太郎は母親に 二日も同じ時刻に
金の輪をまわして走っていた 少年のことを語りましたが

母親は、信じませんでした。



太郎は 少年と友だちになって 
自分は少年から金の輪を ひとつ分けてもらって
往来の上を ふたりでどこまでも走って行く夢を見ました。

そして、いつしかふたりは 
赤い夕焼け空の中に 入ってしまった夢を見ました。



明くる日から、太郎はまた熱が出ました。

そして、二、三日めに 七つで亡くなりました。

                    おしまい

 



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 絵 ・ 初山 滋

 

 

 

 


 30歳の頃、やっと買い揃えた16巻。

 (この画像はお借りしたものです)

 

 

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 とにかく嬉しくて

 一巻づつ互い違いに、色違いの包装紙で表紙をしました。

 

 今も今も、折にふれ楽しんでいます。