私には歳の離れた姉がいる。
姉とは父親が異なる異父姉妹だということは、私が大人になってから知った。
だから似てないのだなと思う。
家族でスケートに行ったことがあって、当時七歳だった私は一人の男性に声を掛けられた。
「なあなあ!ちょっといい?
一緒に滑ってた人、誰?」
「お姉ちゃん」
「え?お姉ちゃんって·····従姉妹の?」
「違う。ほんとのお姉ちゃん」
「全然似てないな笑
今から声を掛けたいんやけど、お姉ちゃんの名前教えてくれる?」
他人から見ても、従姉妹だと思うくらい似ていなかったのだ。
「頑張って声掛けて来るわな♪」
そう言いながら離れて行くナンパ兄さんを、私は笑顔で手を振って見送った。
その後、集まった時に
「さっき声掛けられたやろ?」
と姉に言うと
「お前やったんか!いきなり名前呼ばれたからビックリしたわ」
「(≧ᗜ≦*)笑
それでどうなったん?」
「一緒に滑ってくれませんか?って頼まれたけど、家族と来てるんでって断ったわ。
まさか親もおるのにナンパ相手と滑られへんやろ笑」
そうやってナンパの手伝いをしたことがあった。
そんな姉とは、一緒に暮らしていた記憶が殆ど無いのだが、唯一覚えている強烈な出来事がある。
姉を起こして来てと母に言われた私は、二階の姉の部屋に入り、こんもりとした布団に潜っている姉に声を掛けた。
しかし何度呼んでも反応がないので、布団をまくると、そこに姉の姿はなくて、服の中に更に服を詰めて人型にしたものが横たわっていたのだ。
「ギャーッ!お姉ちゃんが消えたー!お母ちゃーん!お姉ちゃんが人形になったー!」
泣き叫びながら階段を駆け降りたのを覚えている。
そう、姉は夜な夜な家を抜け出して遊び歩いていたのだった。
姉は高校へは行かず、近所の美容院で見習いとして働いていたが、母が出した専門学校の費用を遊びに使い果たし、最終的には水商売の世界に足を踏み入れた。
一緒に暮らしていた時期は短かったが、ちょくちょく遊びに来てくれることが、幼い私と弟にとっては楽しみだった。
しかし使いっ走りにされることが多く、私は姉に頼まれてお菓子などを買いに行かされた。
ある日、姉に本屋へのお使いを頼まれた。
商店街の本屋に行って、漫画を買って来てほしいと言う。
いつものように私は快く引き受けた。
そして姉から預かったのは大量の小銭。
とにかく一円玉や五円玉が多く、残りは十円玉だった。
数十枚の小銭を持って、本屋で姉から頼まれた漫画を手に取り会計に行く。
それまでは平気だったのに、本屋のおばちゃんが小銭を十枚単位で積み上げ始めた時に、初めて恥ずかしいという気持ちが込み上げて来た。
(∥>∆<∥)
一円玉も二十枚以上あったと思うけど、幼い子どもが買いに来たということで、店のおばちゃんも断らずにいてくれたのかもしれない。
その同じ本屋に、姉と二人で行ったことがある。
姉が本を買うと言うので、私は横で待っていた。
しかし姉が物色していたのはエロ本だったのだ!
並べられたアダルト雑誌を手に取り眺める姉。
次に店のおばちゃんに声を掛けた。
奥から出て来たおばちゃんに、姉はこともあろうか
「もっと やらしいのないの?」
と聞いたのだ。
もっと
やらしいの
何そのパワーワードは!
そんな言葉を恥ずかしげもなく、サラッと言える姉は凄いなと思った。
そしてそう言われた本屋のおばちゃんはと言うと·····
「こ
れ
な
ん
か
や
ら
し
い
で
」
と言って、別の場所からエロ本を持って来たのである。
はい!出ました!
本日二度目のパワーワード!
これなんか やらしいで
って、おばちゃんもエロ本しっかり読んどるんかーい!笑
若干引きながらも、当時小学生だった私は、このやり取りに対して笑いを堪えるのに必死だった。
若い時からおっさんと言うか、姉は昔から女らしいイメージがなかった。
ホステスの仕事でドレスや着物を着る以外は、普段の服装でスカートを穿いているところを見たことがない。
だいたいいつもデニムにスニーカーが定番だ。
アウターはスタジャンを着たりしているし、男物を愛用することが多い。
レースやフリルやリボンが大好きな私とは正反対の嗜好をしている。
トランスジェンダーって訳ではないと思うのだが、殆ど一緒に暮らしていないし、大人になってからは会う機会も少ないので、姉と深い話をすることもない。
他人に近い存在で、お互いのことを詳しくは理解していない関係なのだと思う。
大人になったら、エロ本を買うのも恥ずかしくなくなるのかなと思ったりもしたが、これは年齢は関係なくて性格の問題だと分かった。
まあ私がエロ本なんて買うはずもないがな