私が小学1年生の頃、1年と少し住んでいた家の裏には田んぼがあった。
窓を開けると田んぼなので、よく網戸にアマガエルがくっ付いていて可愛かった🐸
ある日、近所のガキんちょ達が集まり、みんなでトンボのヤゴを捕まえに行こうという話になった。
6人いたが、その中で女の子は私1人だけ。
近所の女の子達は、誰もヤゴなんて興味が無いし、逆に虫が嫌いな子が多かったからだ。
トンボが羽化する前を狙おうと、朝の4時に約束をした。
翌朝、待ち合わせ場所に1番に着いたのは私だった。
しかしなかなか集まらない。
みんな早起きが難しかったのだろう。
1人増え、2人増え、最後の1人が来た時には既に空が明るくなっていた。
「お前がもっと早く来てたら遅くならんかったんやぞ!」
「お前こそ早くから来てなかったやろ!」
男の子達はギャーギャー騒ぎ、冗談で取っ組み合ったりしている。
(そうやで。みんながもう少し早く来てくれたら良かったのに)
言葉には出さなかったが、私も内心は不満を持っていた。
その後、6人で家と家の間の細い路地を抜けて田んぼを目指す。
暗い路地を抜けると、目の前がパッと明るくなった。
田んぼの水面が、朝日にキラキラと輝いている。
「わぁー!」
思わず声を出した私達は、そのまま更に田んぼへ近付いて行く。
その瞬間
ブワッと音がした。
それは羽化したトンボが一斉に飛び立った音だったのだ。
何十、いや何百とも思えるほどの数のトンボが、田んぼの上を飛び交っている。
(これって、うちの裏の田んぼやんなぁ·····)
あまりの美しさに、まるで別世界へ足を踏み入れたような感覚になった。
誰もがヤゴを捕まえに来たことを忘れてしまっていた。
朝日を浴びたトンボの羽が、虹色にキラキラと輝いている。
私は何をしに来たんだろう。
羽化する前のヤゴを捕まえて、羽化する瞬間を観察したかった。
しかしそんなことは飛んで忘れてしまうくらいに、この日の空とトンボが美し過ぎたのだと思う。
「やっつん、たーくん、みんな寝坊してくれてありがとう」
私が笑いながら言うと、みんなも笑ってありがとうを言い合った。
1番最後に来た やっつんだけは
「俺のお陰やから感謝しろ~笑」
と言ったので、みんな大笑いした。
せっかく早起きしたからと、そのまま公園に遊びに行くことになった。
結局、私達はヤゴを
捕まえられなかった。
しかし収穫が無かった訳ではない。
みんなの心に
『思い出』
という名の
宝物が増えたから。
輝く朝の光の中で
私達は若葉の季節を駆け巡った。
その笑い声は
青空に響いて拡がった。
私達の思いが
届くかのように。
どこまでも
果てしなく
いつまでも
忘れはしないと·····