まだ、POV(鑑定原論)の受講生だった頃、動産評価の活用できる分野である1分野であるABLの現状がどうなっているか、地元の起業支援窓口に話を聞きに行ったことがありました。
金融機関の方が出講されているようで「金融分野に詳しい」方が対応してくださるとのことで、何か手がかりが得られるかもしれないという期待を持って相談に行きました。
しかし、その答えは厳しいもの。
「在庫や機械などを担保にとって回収することになった場合、物件を運ばなければならない。運んだらしまっておかなければならない、そのコストもかかるだからABLなんかできない」
という話でした。
当時の浅知恵ではとても反論などできるはずもなく、「あなたは提案力がない」とまで言われて退散しました。
とはいえ、不動産の分野で「任売(任意売却)」「競売(裁判所の競売手続)」の違いなんて話をすれば、どの銀行マンでも常識の範疇の話でしょう。
在庫の世界でも当然同じ概念があります。
不動産で言うところの「任売」つまり任意売却とは担保に入っている不動産を債務者が自ら処分して債務の弁済に充てる処分の仕方を言います。
これに対して「競売」は裁判所の競売によって不動産を処分し債務の弁済に充当する手続きを言います。
競売の場合、短い期間で売却が行われることや瑕疵などのリスクも存在することから、公正な市場価格より相当安値での取引になるのが普通です。
一方、任意売却の場合はある程度の期間が与えられるため、競売よりは多数の買い希望者との交渉が可能となることなどから、競売より市場価格に近い価格で売却が可能になります。
ABLの場合も、担保を即回収して倉庫に運び、バルクセールで一括売却するなどということをやれば、価格は相当低くなります。目安で言えば市場価格の10%以下です。
早期売却になりますから米国鑑定士協会(ASA)の定義で言うところの「強制精算価値(Forced Liquidation Value)」に当たります。売値が安いだけでなく倉庫に運ぶ運賃、倉庫の経費などがかかります。
こんなやり方ではそもそも担保にはなりませんし、バルクセールで市場に流出した商品が市場価格を押し下げ悪貨が良貨を駆逐するといったことにもなりかねません。
しかし、ここで「通常清算価値(Orderly Liquidation Value)」の考え方を取り入れ、担保品の処分にある程度の時間的猶予を与えること、さらに無駄に倉庫に運んだりせず、たとえば店舗の在庫であればそのまま店舗で販売することを想定し、そこで閉店セールを行い換金すればコストも安くて済みます。
もちろん、融資の実行に際しては事業が不振に陥った場合に起こりうることを想定して、それに対処する融資契約(コベナンツ)をあらかじめ設定しておく必要があります。また、定期的にモニタリングを実施して在庫の健全度をチェックすることも必要です。
これができれば、ABLは安全で確実性の高い融資手段になるのですが、我々のような評価人が少ないこと、またコベナンツに強い弁護士や、動産譲渡登記に精通した司法書士が少ないことなども普及しない原因の一つになっています。
そして、何よりも金融関係者のパラダイムシフトをお願いしたいのですが、なかなかうまくいかないのが現状です。