近代経済学(価格理論)を学んだ人ならだれでも知っている定理に、「政府が介入して富を再分配した(競争条件を公平にした)後の完全競争市場は、効率的(無駄がなく)で、公正(すべての人が満足できる)な社会をもたらす」というのがあります(厚生経済学の第二定理)。

 

彼らにとっての自由(資本主義)か平等(共産主義)な社会を目指す、唯物論を前提にした欧米流の経済学では、亜細亜にあった「カースト制」や「士農工商」は時代遅れの遺物でしかないとされ近代以降、力づくで解体されました。

 

確かに、「カースト制」でいえば厳しい身分階層制が敷かれ、ピラミッドの頂点と底辺との間には大きな資産格差がありました。が、贅沢を望まない限りすべての人々が生活できる社会が成り立っていたといわれています。

 

ところが、2014年に一大ブームにもなったフランスの経済学者トマ・ピケティの「21世紀の資本」では、「R(資本利益率)>G(経済成長率)」という公式が示され、このまま資本主義のグローバル化が進むと、「金持ちは益々豊かになり、貧困者は益々貧しくなる(“ピケティ現象”)」と指摘されました。

 

実際、すでに世界金融の中心である米国ニューヨーク・ウォール街では、高度な金融知識とITに習熟し、年収100億円を超える“スーパートレーダー”が複数出現しています。

 

一方、野村総合研究所とオックスフォード大学の調査研究によると、近年の発展著しい「AI(人工知能)」により、10年後には49%の仕事がなくなるとされています。

 

もっとも、ここで示されている数値は特定の業務プロセスだけをこなす「特化型AI」を想定しており、20年後には予想される、より人間に近い「汎用AI」や、現状の100倍の処理能力を有する「エクサスケール次世代スーパーコンピューター」「量子コンピューター」の登場による指数関数的な「シンギュラリティ(技術的特異点)」により、人間を必要とする仕事は10%未満にまで激減するという衝撃的な予測もあります。

 

だとすれば、ピケティの予想通り、この先人類はトンデモない格差社会、それどころか失業者が町中に溢れかえる貧困社会に突入するのではないかとの危惧も否定できません。

 

そんな中、思想界では、厳しい現実の中での人間の生の姿を直視したサルトルらの「実存主義」、さらにヒューマニズムの名の下、自由、平等な社会を目指したはずの資本主義(自由主義)や社会主義(共産主義)の幻想に失望したリオタールらの「ポストモダン(脱近代)」を経て、問題なのは経済的格差ではなく、生活するのに十分なお金すらない貧困だとする「十分主義」、さらには食糧危機や環境破壊をもたらしているのはヒューマニズム(人間中心主義)だとする「ポストヒューマニズム(脱人間中心主義)」ないし「環境プラグマティズム(生態系主義)」が展開されています。

 

そこで、3年~8年後には確実に訪れる「シンギュラリティ(技術的特異点)」によって、私たちの経済・社会は深刻な事態に陥るのか、それとも逆に、“新三種の神器”といってもいい「汎用AI」や「次世代スパコン」「量子コンピューター」を使って全人類がこれまで通り、あるいはこれまで以上に豊かになれる道があるのか、最新のテクノロジーや変革を迫られる通貨、金融システム、さらにベーシックインカム(最低生活保障)などを紹介しながら論考します。

 

(次回に続く…)