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長年憧れていた名作「ミス・ブランチ」に、国立近代美術館で現在開催中の「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」で遂に対面!

 

 

 

 

バラの造花を封入したアクリル製の背、座、アームからなるこの椅子は、鮮やかなパープルに染色されたアルミアルマイトの細い脚部に支えられている。

 

私が撮影した画像ではちょっとずんぐり見えてしまうが、実際の作品はもっとずっと華奢で軽やか、宙に浮いているかのように重力を感じさせない。

 

 

 

 

“永遠を閉じ込めたような”この椅子を生み出した倉俣史郎は、60年代初めから90年代にかけて世界的に傑出した仕事を生み出したインテリアデザイナー。

 

「美もまた機能である」という倉俣の言葉通り、その作品はどこまでもスタイリッシュで、洗練の極みながら、生命力や躍動感に満ちている。

 

 

 

 

日本ならではの文化や美意識を感じる独自のデザインによってフランス文化省芸術文化勲章を受章するなど、国際的に高い評価を受け、そのあまりの独創性ゆえ「クラマタ・ショック」という言葉まで生まれた。


 



 

「ミス・ブランチ」はバブル経済の真っ只中である1988年、「欲望」というテーマを与えらえたデザインイベントで発表された。

 

倉俣はテネシー・ウィリアムズの戯曲『欲望という名の電車』の主人公、気高く美しいがゆえに嘘を重ねやがて破滅するブランチ・デュボアから、この作品を発想・制作し「ミス・ブランチ」と命名した。

 

翳りなく華やかであればあるほど、泡沫(うたたか)(はかな)さは際立ち、痛切なほど虚しく、しかし(ゆえ)に美しい。

 

倉俣は当初、バラの生花を液体状のアクリルに流し込むことを試みたそうだが、熱をもったアクリルに接すると花は黒く変色し形も崩れてしまうので、造花を使用したとのこと。

 

生命を与えられた限りあるものの一瞬の美を、永遠に封じ込めるため結晶させるという芸術のミッションを、忠実に果たしたいと願った倉俣の情熱と信念がヒシヒシと伝わって来る「ミス・ブランチ」、永遠の名作。

 

 

 

 

  (※画像出典:JUNICHI KUSAKA)